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第9回「このミス」大賞受賞作かつ喜多喜久さんのデビュー作。

『科学探偵Mr.キュリー』などの喜多喜久さんの作品が好きで『ラブ・ケミストリー』をまだ読んでいないならすぐに読んでほしい。

化学と恋がおりなす恋愛ミステリー!



『ラブ・ケミストリー』のあらすじ


有機化合物の合成ルートが浮かぶという特殊能力を持つ、有機化学を専攻する東大院生の藤村桂一朗。

研究室にやって来た新しい秘書の真下美綾に一目惚れしてしまったことが原因で特殊能力を失ってしまう。

特殊能力を失い実験が進まない日々を過ごしている藤村の前にある日、「特殊能力を復活させるためにあなたの恋を叶えてあげる」と、死神を名乗る少女カロンが現れる。

カロンの話によれば誰かが藤村の特殊能力を復活させるようにカロンに依頼したようだ。

はたして藤村の恋は叶うのか。そして藤村の特殊能力の復活を望む人間は誰なのか。

東大農学部で理系草食系男子が巻き起こす恋愛ミステリー。



感想


『ラブ・ケミストリー』の魅力


『ラブ・ケミストリー』の魅力は、作者の経験を活かして理系大学院生の日常をリアルに再現しているところだ。

作者の喜多喜久さんは、東京大学薬学部で有機化学を専攻したいたようで、作者の経験を活かして描かれた藤村桂一朗は喜多喜久さんの分身のような人物となっている。

理系の人間ならば藤村と分野は違えど日々、研究室にこもり昼食は一人で安い食事をとるという人間は少なくないと思う。(友人の少なさなどは、藤村は極端すぎる例かもしれないがそれも研究熱心であることを表していて物語的には良い感じになっている。)

恋愛に関しても周りに女性が少ない環境で過ごしていれば藤村のように、相手にどう接すればよいのか分からないという人も多いと思う。

また作者自身が藤村と同じで学部は違えど有機化学を専攻していたため、有機化学について誰が読んでも分かりやすく書かれている。それゆえに、読者が『ラブ・ケミストリー』の世界観に入りやすくなっておりまるで自分が東大で理系の大学院生として過ごしているかのように錯覚させられる。


恋愛に紛れ込んでいるミステリー要素


本作は理系の恋愛を描いている、恋愛小説として読んでも十分に楽しめる。しかし、本作は恋愛だけではなくしっかりと構成されたミステリー要素があり、ミステリー小説としても十分に楽しめる。

本作の謎は、藤村の特殊能力の復活を願っている人物は誰であるのかというものだ。

私は、この人物を見つけるために注意深く読み進めていたつもりであったが喜多喜久さんが何重にも張り巡らしていた罠に見事に引っかかってしまった。

特殊能力の復活を願っている人物を予測しても、次の場面では他の人物が怪しく感じるというようなものが繰り返されてけっきょく、最後の最後まで誰であったのか分からなかった。

伏線なども上手に使われているためミステリー好きの人にもお勧めできる作品だ。



まとめ


ネタバレになるため自分が読み進めている際の推理予測を話せないのがもどかしいと思うぐらいミステリー小説として楽しめた。

自身が理系であるためか藤村君に恋愛面で共感できる要素があり恋愛小説としてみてもよかった。

理系の男性の多くが藤村君に共感できると思うので理系の人であるならば本作を読んでもらいたい。また化学好きの人も本作は、プランクスタリンの合成を行うという物語なので楽しめる思う。

多くの人に『ラブ・ケミストリー』を読んでもらい。

*化学ミステリーシリーズの2作目の『猫色ケミストリー』を読みました。