
住野よるさんの『また同じ夢を見ていた』が文庫化されていたので読んでみました。
『また、同じ夢を見ていた』は住野よるさんの2作目の小説です。
まだ、住野よるさんの作品は、『君の膵臓をたべたい』しか読んだことがありませんでしたが前作とは少し毛色の違う感じの物語でおもしろかったです。
『また、同じ夢を見ていた』のあらすじ
「人生とは和風の朝ごはんみたいなものなのよ」小柳奈ノ花は「人生とは~」が口癖のちょっとおませな女の子。
そんな彼女はある日、草むらで一匹の猫に出会う。
そしてその出会いをきっかけに奈ノ花は、とても格好いいお姉さんの"アバズレさん"、手首に傷がある"南さん"といった、様々な過去を持つ女性たちと出会います。
大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の住野よるが贈る、幸せな物語。
感想(ネタバレあり)
『君の膵臓をたべたい』とはまた違う住野よるさんの独特な世界観が広がっていてとても面白い作品でした。
一度読み終わった後、気になる箇所がいくつかありすぐにもう一度読み直してしまいました。読めば読むほど味がでてくるまるでするめのような作品です。
複数回読むことで一度読んだだけでは気づくことのできなかった真実にたどりつけるでしょう。
この作品は「幸せとは何か?」という疑問をひも解く物語ですが、一度だけではなく二度以上読むことで南さん、アバズレさん、おばあさん、小柳奈ノ花自身の幸せを見つけることができます。
また小柳奈ノ花の「人生とは~」から始まる口癖も少しませてみたい年頃の奈ノ花自身を表現できていて、なおかつそれだけではなく言葉の意味を考えると深い言葉になっているのも良かったです。
物語中でたびたび奈ノ花が歌う「三百六十五歩のマーチ歌」も本作のテーマにあっていました。
以下物語の中身についての感想になります。
物語の序盤で私は、奈ノ花、南さん、アバズレさん、おばあちゃんの四人が同一人物であるということに全く気が付きませんでした。序盤から察したという人はあまりいなさそう…。
私は、南さんがいなくなる場面でやっとこの四人が同一人物だったということに気が付きました。
南さんがいなくなる前に奈ノ花に「人生とは、自分で書いた物語だ。推敲と添削、自分次第でハッピーエンドに書きかえられる」というセリフを残しました。
このセリフで人生のある場面で間違った選択をしてしまった奈ノ花が小学生の奈ノ花自身にターニングポイントでミスを犯さないためのアドバイスをしに来てくれていたのだと分かりました。
南さんの幸せの答え
南さんは授業参観に来れなかった親に対して酷い言葉を投げかけてしまい、その後親が事故で亡くなってしまったため謝る機会が一生来なかった奈ノ花です。
南さんは、謝らないまま両親がなくなったことを悔いてリストカットをしてしまいます。
南さんが小学生の奈ノ花に親にどんなことがあってもしっかりと謝るようにしろということを教えてくれたおかげで、小学生の奈ノ花は親に謝ることができ南さんとは別の世界線の奈ノ花として生活を送ることができます。
南さんにとっての幸せの答えは「自分がここにいていいって認めてもらうことだ」です。
両親を亡くし孤児になった南さんは、自分を認めてくれる存在がいなくなったのでそれを取り戻したかったのでしょう。
アバズレさんの幸せの答え
アバズレさんは桐生君のお父さんがスーパーで泥棒をしたことをきっかけに、クラスメイトと喧嘩し、無視されるようになってしまった後関係を修復できなかった奈ノ花です。
クラスメイトと喧嘩した後の奈ノ花はアバズレさんに「誰とも関わらずに生きていく」と相談しに行きますがアバズレさんは奈ノ花が今後一人で生きていくとどういう道をたどるのかが分かっているため「それは駄目」と反対します。
アバズレさんが奈ノ花に人と関われば奈ノ花とアバズレさんのような素敵な出会いが起こることがあるかもしれないということを教えたおかげで、奈ノ花は一人で生きていくのではなくもう一度桐生君のもとを訪れて一人ぼっちではない人生を選択します。
アバズレさんが考える幸せの答えは「誰かのことを真剣に考えられるということだ」です。
他人と関わることがなくなったアバズレさんは色々なものを失ってただ奈ノ花と出会ったおかげで誰かと一緒に過ごすことの幸せさを思い出したのでしょう。
おばあちゃんの幸せの答え
おばあちゃんは、桐生君と向き合うことはできたが関係を修復できずに傷つけたことをずっと後悔しているなのかです。おばあちゃんは桐生君とは恋愛関係にはなることができませんでした。
おばあちゃんのアドバイスを聞いたおかげで小学生の奈ノ花は桐生君との関係を修復することができ、桐生君にとっての幸せとは何であるのかを聞くことができます。
桐生君の『僕の幸せは、僕の絵を好きだって言ってくれる友達が、隣の席に座っていることです。』というセリフを隣の席で聞けて幸せにならない人なんていなさそうですね。
おばあちゃんの考える幸せは「今、私は幸せだったって、言えるってことだ。」です。人生を長く生きていたおばあちゃんだからこそ気が付くことができる幸せのこたえですね。
ところで、おばあちゃんいつ奈ノ花が自分自身であると気が付いたのだろう?
奈ノ花が見つけた幸せの答え
最終章でいままでの物語は奈ノ花が見ていた夢であると分かります。奈ノ花は南さん、アバズレさん、おばあちゃんの三人のアドバイスのおかげで幸せな人生を歩むことができました。
奈ノ花の考える幸せは、「幸せとは、自分が嬉しく感じたり楽しく感じたり、大切な人を大事にしたり、自分のことを大事にしたり、そういった行動や言葉を、自分の意志で選べることです。」というものです。
三人の幸せをまとめた奈ノ花らしい素晴らしい幸せの答えですね。
最後に
本当に素晴らしい作品でした。多くの若い人にこの作品を読んでもらいたいですね。
『また、同じ夢を見ていた』を読んであなた自身の幸せを見つけることができましたか?
もし見つけられなかった人はゆっくりでもいいので奈ノ花のように素敵な自分だけの幸せの答えを見つけてください。
久しぶりに住野よるさんの作品を読みましたがやっぱり面白かったです。まだ読んでいない作品を読む前に『君の膵臓をたべたい』を久しぶりに読み返そうかな。