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辻村深月さんの『朝が来る』が文庫化していたので読んでみました。

『朝が来る』は2016年にドラマにもなっている作品みたいです。本作を読んだ後にドラマの配役を見たのですが旦那役にココリコの田中さんはなんかピンとこなかったな。

映画では井浦新が旦那やくみたいでイメージにぴったりで安心しました。(2020年10月11日追記)

本作は家族の絆を描いた作品なので家族の関係で悩んでいる人にはぜひ読んでもらいたいです。



『朝が来る』のあらすじ


長くて辛い不妊治療の末、特別養子縁組という手段を選んだ栗原清和・佐都子夫婦は民間団体の仲介で男子を授かる。朝斗と名づけた我が子はやがて幼稚園に通うまでに成長し、家族は平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、夫婦のもとに電話が。それは息子となった朝斗を「返してほしい」というものだった——。



感想


『朝が来る』は色々と考えさせられる作品でした。物語を楽しんで読むというより特別養子縁組や本当の家族の絆について考えさせられる作品であったという印象が強いです。

本作は40代で子どもを授かった栗原夫婦と10代で子どもを妊娠・出産した片倉ひかりの二つの視点から構成されている作品となっています。

特別養子縁組で朝斗を授かった栗原佐都子の視点では、血のつながりがなくても朝斗が大切であることや特別養子縁組で朝斗を授かるまでの過程が語られており、不妊治療に対する男女間の考えの違いや、養子に対する日本国内での考え方が分かります。

一方朝斗を生んだ実の母である片倉ひかりの視点では、10代で子どもを産むことになった苦難や朝斗を産んだ後の人生について書かれています。若くして妊娠した女性の一例が描かれています。

『朝が来る』では望まれずに生まれてくる子ども、子どもを授かることができない夫婦、避妊の考えが甘く若くして妊娠してしまった女性など実社会で実際に問題となっていることが取り上げられています。

こうした問題に関心のある方にはぜひ読んでほしいです。またこうした問題について詳しく知らない人でも本作をきっかけに興味を持ってほしいと思いました。

私は特に男性に読んでもらいたいと思った作品でした。多くの男性は不妊治療に関して女性だけの問題であると考える方が多いと思いますが男性にも問題がある場合があると知ってもらいたいです。


以下多くのネタバレありの感想になります。







栗原夫妻の家族に対する思い


第一章では、朝斗が養子であるが栗原夫妻にとってどれだけ大切な存在であるかが語られています。

朝斗が大空君がジャングルジムから落とされたという疑いをかけられた場面でも朝斗が大空君のことを落としていないという発言を佐都子は信じようとします。

普通の親ならば大空君一家が同じマンションに住んでいるため問題を荒立ててしまうのは自分にとって嫌なので、朝斗が悪くないと思っていてもとりあえず謝っておこうとなる人が多いのではないのでしょうか。しかし。佐都子は不安になることもありましたが謝りませんでした。

結果的に大空君が親に怒られるのが嫌で嘘をついたということでしたが、佐都子のように朝斗が本当のことを言ってるにしろ嘘を言っているにしろ真実が分かるまで信じてあげるというのは家族の絆を育むうえでとても重要なことなんでしょうね。

また片倉ひかりと話し合いをした場面でも栗原夫妻の朝斗に対する思いが分かります。

朝斗にはベビーバトンの方針であるということは関係なく昔から少しずつ自分たちは産みの親ではないということを教えていました。もし朝斗が産みの親に会いたいと言い出せば夫婦はどうにかして片倉ひかりの連絡先を探し出し合わせたに違いありません。

また栗原夫婦は朝斗のことを大切にしていると同時に朝斗を産んだ片倉ひかりにとても感謝していました。

そのため朝斗をネタにしてお金をゆすろうとする女性が片倉ひかりである信じようとしませんでした。彼女に感謝し尊敬しているからこそ朝斗の年齢を間違うなどの小さな疑問が脅迫してお金を盗ろうとしている女性が片倉ひかり本人ではないと確信をもって言うことができたのだろう。


朝斗を授かるまでの長い道のり


第二章では、特別養子縁組の制度で朝斗を授かるまでの栗原夫婦の長い道のりが描かれています。

30代半ばで母親に不妊治療をしたほうがいいのではと言われたことをきっかけに、栗原夫婦は話し合い不妊治療を始めることを決めました。

当初は妻である佐都子のみが不妊治療に通っており夫はどこか他人事でした。こういった妻だけが不妊治療を行っているというのは実社会でもよくある問題みたいで男性は自分が原因でないと思っている人が多いみたいです。

けっきょく妻が夫にも不妊治療に一緒に行くように促したおかげで子どもができない原因は夫にあることが分かりました。

夫は無精子症であるみたいで、原因が分かってから不妊治療を続けるか夫は葛藤しますが最終的に治療を行うことを決意します。女性の不妊治療も過酷ですが男性の不妊治療も多くの時間や痛みが伴うため仕事を続けながら行うのは大変みたいです。

不妊治療を夫婦で続けて四年が経過したころ力尽きた夫の表情を見た佐都子は「もうやめよいうか」と清和に優しい言葉をかけます。

「止めたいって言えなくてごめん」と話す夫の言葉は読んでいて涙が止まらない場面でした。

こうして二人はこれからも二人だけで生きていくことを決めますが、その直後に自宅で特別養子縁組に関する番組を見ます。

特別養子縁組に興味を持ったのは佐都子だけだと思っていましたがインターネットで調べてみると清和が検索した履歴が残っていました。

このことから夫婦ともに特別養子縁組で子どもを授かりたいことが分かり、ベビーバトンの説明会に行くことを決めます。

ベビーバトンの説明会の前半では特別養子縁組を組む条件が厳しいなど暗い話ばかりでしたが、後半には特別養子縁組で実際に子どもを授かった家族が表れて子どもの良さについて語ります。

この説明会の中で特別養子縁組は、「親が子どものを探すためではなく、子どもが親を探すための制度」と説明され栗原夫婦は大人の事情ではなく子どものための制度であるということが分かり子どもを授かる準備を整えます。

それからすぐに広島で赤ちゃんが生まれたという知らせをうけ病院まで直接行き栗原夫婦は朝斗を授かります。その後、片倉ひかりに赤ちゃんを産んでくれたことのお礼を言いにいきます。

朝斗の名前の由来の「朝が来たような思いがしたこと」という台詞から夫婦が朝斗を授かったことで長いトンネルから抜け出せたのが分かりますね。

この章を読んで親のためではなく子どもの未来を助けるために養子をとることは悪いことではないと分かりました。現在の日本では養子は少ないでしょうが、朝斗のような子どもを助けるために養子のための制度を充実させてほしいですね。


片倉ひかりの人生


第三章は、片倉ひかりが赤ちゃんを産む少し前の場面から始まります。

片倉ひかりは四人家族の次女ですがこの家族の父と母は真面目すぎて少しおかしな考えを持っています。

真面目であるがゆえに娘たちの若いうちからの交際を認めなかったり、娘たちが悪い友人と付き合っていないか確認するために携帯を無断で除くなどプライバシーのない家族です。(ここまでするのなら携帯なんて与えなければいいのに)

姉は親の期待通りの私立中学校に合格するなど親の考えていたレール通りの成長を歩みます。一方妹であるひかりは受験に失敗し公立中学校に進学することになってしまいこのあたりから両親との溝ができてきます。

ひかりは中学2年のときにクラスの人気者の巧と両親に内緒で交際を開始します。交際を開始してからしばらくで体の関係を持ちその後ひかりは妊娠してしまいます。

この妊娠するまでの場面は、辻村深月さんが若い男女は避妊についての認識が甘いことを表現したかったのでしょう。またひかりは真面目すぎる親に縛られすぎたばかりにこういった大人びた行動をとりたがったため両親の教育方法にも責任があります。

妊娠が発覚後既に中絶できない段階まできており、出産するしかなく両親はベビーバトンに連絡し広島で出産することが決まりました。妊娠した後も巧も子どもを欲しがっているなどと考えているひかりは読んでいてかなり気の毒でした。

広島では他のベニーバトンの世話になり妊娠している人たちとの共同生活を送ることになりました。同室のコノミは夜の街で働いた末に妊娠してしまった人でした。コノミたちなどからひかりは多くのことを学びました。

もしここでコノミたちに出会わなければひかりの人生はこの先落ちるところまで落ちっていってたのだろう…。

出産が終わり栗原夫婦に子どもを預けたひかりは栃木県に戻ります。母親は世間体を気にして学校には肺炎と伝えていたので妊娠の事実を隠せました。

学校にはひかりが妊娠した事実は伝わっていなかったが母親は

しかしその後も高校受験を失敗し、それを知った母は自分の敷いたレール通りに進まなかった娘に対して「やっぱりね」といいます。

この一言でひかりは母親との関係をたつために高校に入学してしばらくしてから広島のベビーバトンにいくことを決意します。

広島で妊娠中に生活を送っていた寮を訪問したひかりは浅見に住み込みで働かせてほしいとお願いします。それからしばらくベビーバトンで手伝いをしますがその後活動が終了することを知ります。

ベビーバトンの活動終了後も家に帰りたくないひかりは浅見に別の仕事を紹介してもらいそれは住み込みの新聞販売店の仕事でした。

そこで贅沢はできないが地道に働きますが、そこで夜逃げした同僚の借金の保証人になってしまいひかりも同僚と同様に夜逃げしてしまいます。

夜逃げし東京に向かったひかりは横浜のホテルで清掃員の住み込みの仕事を始めます。

清掃員の仕事も給料は安いがコツコツ真面目に働いていたが、そんなひかりのもとに借金取りの男が現れます。

借金から解放されたいあまりにひかりはホテルの金庫の金に目がとまりその金で借金を返してしまいます。

借金は返せたが金庫からお金を盗ったのが管理人にばれてしまいます。盗んだ金を返済するためにひかりは栗原夫婦に金を借りて返済することを決めました。

ここで第一章で栗原夫婦に子どもを返してほしいといっていたのが本物の片原ひかりであったということが分かります。

しかし。栗原家を訪れたひかりは自分がひかり本人でないと言われ、栗原夫妻がありもしない理想のひかりを自分の家族と同じようにみていることに気づき絶望に落ちます。

生きる希望を失いかけたひかりは栗原家を訪れた一か月後ふらふらとホームレスのように徘徊しているのを佐都子に見つけられます。

佐都子の「一緒に行こう」というセリフで物語は終わってしまいますが、その後は栗原夫妻の助けがあり片原ひかりも幸せあ人生が送れているのではないのでしょうか。


最後に


本作は冒頭でも言ったように実際に起きている社会問題を題材として取り上げている作品です。

年代問わず多くのかたに『朝が来る』を読んでもらい様々な問題を受け入れてほしいです。