辻村深月さんの『傲慢と善良』を読みました。タイトル通り人間の傲慢さと善良さをテーマに扱った作品で、私はこの作品を読むまでどちらかと言えば自分は善良な人間であると考えていたのですが、読了後その考えを改めなおす必要があると感じてしまいました。
また本作では婚活をテーマとして扱っているため、これから婚活をしようとしている人間や婚活で行き詰った人には参考になるかもしれません。
以下、感想を書いていきます。ネタバレもあるので未読の方はご注意ください。
傲慢な人間と善良な人間の違い
傲慢な人間とは自分の最も価値の高い特徴と相手の最も価値の低い特徴を比べて、自分の特徴が優っているときに相手を見下す人間です。傲慢な人間には価値観が狭い世界で完成しきっているという傾向があります。
本書では傲慢な人間として真奈美の母である陽子、美奈子などの架の友人などが登場しました。彼女らの共通の特徴として人を完全に信じることができないというものがあります。
架の友人の女性らはみんなそろって真美がストーカーの被害にあっているということを信じていませんでした。彼女らが真美の言葉を信じることができなかったのは、自分たちが平気で嘘をつくことができる人間なので嘘をつきなれていない人間の嘘をすぐに見分けることができるからだ。
一方、善良な人間は傲慢な人間と対義的な関係となっており、自分の最も価値の低い特徴と相手の最も価値の高い特徴を比べて相手の良いところを見つけることのできる人間です。
この小説では善良な人間として金居や花垣が登場しました。金居と花垣は人間としてはコミュニケーション能力が高いタイプと低いタイプで似ている人間とは言えないのですが彼らには共通した特徴があります。それは、相手の言うことを言葉通り信じることができるというものです。
金居も花垣も架から真美がストーカーに誘拐されたという話を聞いたとき本気で真美のことを心配して自分が話せる手がかりを真摯に話そうとしてくれました。
本作では傲慢な人間には女性が多く、善良な人間には男性が多い傾向があるのですがこれはたまたまなのでしょうか。男性社会よりも女性社会の方が嘘や陰口を言う人間が多いということを暗に言っているような気がします…(もちろん男性にも婚活前の架のように傲慢な人間はいる)。
真美の成長
この作品は婚活をテーマにしている一方、架や真美の成長物語でもあります
物語の序盤で真美は小野里から傲慢かつ善良な人間であると言われていました。この作品では傲慢と善良の両方の特徴を持つ人間は真美しか現れませんでしたが、二つの特徴を持つ人間はいい年齢になっても親から自立できておらず中途半端な人間であると感じました。
真美は中途半端であるがゆえに自分のほしいものが分からず、親のななすがままに婚活を進めたため、婚活はなかなか上手くいきませんでした。
そこで親から自立するために東京で一人暮らしをはじめ、婚活アプリで架と出会います。しかし、架に自分が70点の女性であると言われているショックとストーカー被害にあっているという嘘が架にバレルのを恐れて失踪してしまいます。
失踪後、東北でボランティア活動に参加しているうちに真美は自分が今までちっぽけな世界で生きていたことに気が付き真の善良な人間へと変化していきます。
最終的に、架と自分の意思で結婚をして完全に親から自立し一人の大人へと成長していきました。
余談になるのですが小野里は真美を善良であり傲慢な人間だと表現していますが、過去の回想の真美は心の中で学歴や容姿に自身があり、どこかで他人を見下している場面がところどころあったため傲慢よりな人間であると思ってしまったのは私だけなのだろうか。
婚活に対する考え方の変化
私はまだ学生であるというのもありますが、今まで婚活を一度もしたことがありません。そのため、婚活に対して出会いのない場がない社会人が合コンなどの延長戦として恋愛相手を求めて婚活をしているというイメージしかありませんでしたがこの作品を読んで婚活に対するイメージが変わりました。
婚活をしている人間の多くは真剣に今後の人生のパートナーがほしいと思い真剣に婚活に取り組んでいたのですね。
また、結婚相談所によるお見合いのような婚活は家の都合や最終手段としてしか考えていなかったのですが、小野里の言っていた通り結婚相談所を最終手段と考えるのは間違っているように感じました。
人それぞれ婚活の場があり得手不得手もあるので自分にあった婚活をするのが一番なんですね。
最後に
物語の最終場面はドキドキしましたが架と真美が幸せになるような結果で良かった。
私がまだ結婚も婚活もしたことがないため、この作品を100%楽しむことができたとは言えないのでまた成長してから『傲慢と善良』を読み直したいです。婚活や結婚を経験している人がこの作品を読んでどのような感想を持ったかが気になります。
この作品は作中でも出てくるのですが『高慢と偏見』という本がモデルになっているみたいなのでそちらも一度読んでみたいな。