としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

2020年11月

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住野よるさんの『か「」く「」し「」ご「」と』(以下かくしごと)が文庫化していたのでさっそく読ませていただきました。

登場人物にちょっとした特殊能力があるという点をのぞいては、他の住野よる作品と比べると重たいテイストの作品ではなく、青春の甘酸っぱい感じのテイストが強かったです。

以下、あらすじと感想を書いていきます。



住野よる『かくしごと』のあらすじ


『かくしごと』の主要人物は京くん、ミッキー、パラ、ヅカ、エルの高校生の男女5人組。

彼らにはそれぞれ、自分の心のなかにだけ秘めているかくしごとがあった。

高校生なら誰もがかくしごとの一つや二つはあるかもしれないが、彼らのかくしごとは少し特別なもの。

そのかくしごととは、人の感情が分かる特別な力を持つというものであった。

特殊能力は特別役にたつものではないけど、その能力が原因でお互いの感情の変化が気になってしかたがない。

お互いのもどかしい想いを描く甘くも爽やかな男女人の日常を描いた青春小説。



感想(ネタバレあり)


とにかく甘酸っぱい青春小説で、読了後にはこんな青春時代をすごしてみたかったと感じてしまいました。

住野よるさんの他の作品も若者向けの作品が多かったですが、今回は特に中高生に焦点を当てた作品だという印象が強かったです。

内容だけではなくタイトルもなんで『かくしごと』ではなく『か「」く「」し「」ご「」と』なんだと読み始める前は思っていましたが、読み終わったあとは遊び心があって面白いなと思いました。

以下、各物語の感想になります。


か、く。し!ご?と


『か、く。し!ご?と』の主人公である京くんの特殊能力は、人の頭の上に浮かぶ感情の記号が見えるというものです。

驚いて入れば「!」、疑問があれば「?」がうかぶというものです。

他の4人の能力と比べると少し見劣りするような気がしますが、人の本音を理解する能力と考えると意外と使えそうな気がします。


この物語は京くんが気になっている相手である、ミッキーがシャンプを変えたという内容で物語がはじまります。

ミッキーがシャンプを変えたことで京くんはミッキーに新しい彼氏ができてしまったのではと不安に思います。

普通女の子が使っているシャンプーを変えたとしてもよっぽど香りが強くない限り気がつかなさそうなのに、そんな些細な変化に気づく京くんはミッキーに夢中な恋する男子ですね。

シャンプの他にも古文でミッキーが答えた問題を覚えていたなど京くんがミッキーに夢中な描写が面白く描かれていてよかったです。

この作品で特に面白いと思ったのは、「ヅカ」と「大塚」のミスリードです。

以下のやりとりを見てミッキーはヅカが好きだったのかと思いましたが

「なんか、三木ちゃんね」
「うん」
「大塚くんのことが気になってるらしいよ」
p.44, 45より

最後のオチで「ヅカ」の本名は高崎博文で京くんの名字が「大塚」であると分かります。

このオチを読んでから途中の場面で京くんが落ち込んでいる思っていた部分が喜んでいた部分だと分かり笑ってしまいました。

初見の読者で騙されなかった人とかいない気がしますね。


か/く\し=ご*と


『か/く\し=ご*と』の主人公であるミッキーの特殊能力は、マイナスだったりプラスだったりする感情の動きが見えるというものです。

便利な能力だけど誰にでもまっすぐぶつかることができるミッキーにはあまり役にたたない能力です。

この物語はミッキーの進路についての悩みが描かれています。

中学からの友人のヅカやいつもはよく分からない性格をしているのに進路を決めているパラをみてミッキーは自分の将来に不安を持っています。

多くの高校生がミッキーのように将来が見えなく、自分がどうなりたいのか分からない人が多いのでこの小説の中で一番共感しやすい物語のように感じました。

パラとミッキーの友情がいい感じに描かれており、もし自分がミッキーの立場でパラのような友人がいたら同姓でも好きになってしまいそうです。


か1く2し3ご4と


『か1く2し3ご4と』の主人公であるパラの特殊能力は、人の鼓動のリズムが数字で見えるというものです。

こんな能力があるパラの前ではどんな嘘をついてもすぐに見抜かれてしまいますね。

パラはこんな能力を持っていることから鼓動が分かりやすく変化している、ミッキーや京くんのことが大好きです。

一方、鼓動に変化がない自分やヅカのことはあまり好きではありません。

そのためパラは万一に自分の大好きなミッキーが嫌いなヅカと幼なじみという理由だけでくっつかないようにするために興味のないヅカに自分のことをすきになってもらおうとアプローチします。

パラがミッキーのことを大好きなのは分かるけど、自分をもう少し大切にしたらいいのになと思ってしまいます。


この物語で個人的に好きなシーンはパラとヅカとのホテルの部屋でのやりとりです。

皆はパラのことをよく分からないパッパラパーのやつだと思っていますが、少し似たところあるヅカだけはパラが無理をしていることに気づいています。

このやりとりをきっかけにパラがヅカのことを王子様呼びしなくなるのに友情が生まれたことを感じることができますよね。






か♠く♦し♣ご♥と


『か♠く♦し♣ご♥と』の主人公であるヅカの特殊能力は、人の喜怒哀楽の感情が見えるというものです。

この物語は、ミッキーに友人として大好きな京くんをとられないようにしているエルの悩みをヅカが解決するという物語です。

今までヅカは自分の可能の範囲では、特殊能力を活かして問題を解決してきました。一方自分では解決できない問題には関わろうとしないどこか冷めた性格の持ち主です。

そんなヅカでしたが、自分が好意をいだいているエルが何か問題を抱えているのが分かるとヅカはどんな手段を使っても問題を解決したいという気持ちを持ち始めます。

ヅカがエルに持っている感情が友情なのか恋愛なのか分からなく葛藤している様子が住野よるチックでけっこう好きな話です。

あと個人的に仲良くなったパラとヅカのやりとりなんかもほほえましくていいなと思いました。


か↓く←し↑ご→と


『か↓く←し↑ご→と』の主人公であるエルの特殊能力は、他人の恋心が誰に向かっているのか分かるというものです。

この特殊能力をみて『か1く2し3ご4と』でエルがパラにヅカに近づきすぎないように注意していた理由に納得がいきました。

この物語は京くんとミッキーがハッピーエンドを向かえますが、その二人の間でエルが四苦八苦するという物語です。

物語の中でエルが10年後の京くん、ヅカ、ミッキー、パラに手紙を書くシーンがありましたが、エルの手紙だけではなく他の4人がお互いにどう思っているのかという手紙も読んでみたいですね。

エルの能力はヅカからエルに矢印が伸びていないことから自分に対する好意は見ることができないということが分かりますが、将来的にヅカから告白された時にエルがどういった反応をするのかが気になりますね。


あと本編とは直結しないけど仲のいい京くんをいじめているエルがとてもかわいいなと感じてしまいました。エルて大人しそうな性格にみせかけて実は小悪魔的なところがありますよね。


最後に


『か「」く「」し「」ご「」と』は大人になってから読んでも青春時代を思い出させてくれる良い作品でした。

裏表紙のQRコードから番外編も読むことができるのでまだ読んでない方はぜひ読んで見てください。





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森見登美彦さんの『四畳半タイムマシンブルース』を読みました。

四畳半神話シリーズの16年ぶりの新作ということでしたが、当時の登場人物のイメージを崩さない笑える作品でした。



『四畳半タイムマシンブルース』のあらすじ


8月11日の炎熱地獄と化した真夏の京都で、学生寮の唯一のオアシスである「私」の部屋のエアコンが動かなくなった。

エアコンが動かなくなった原因は、妖怪のごとき悪友である小津がエアコンのリモコンを水没させたことが原因だ。

エアコンを失ったことでこの夏をどう乗り越えようと、「私」が想いを寄せるクールビューティ明石さんに相談していると、ガラクタだらけの廊下で某青い猫型ロボットが登場するアニメででてくるタイムマシンを発見した。

試しにダイヤルを昨日に合わせて、小津を乗せてみたところ、小津は本当に昨日にタイムスリップしてしまった。

「私」の天才的なひらめきから、タイムマシンを利用して過去から壊れる前のエアコンを回収することになった。

しかし、この安易な考えが原因で宇宙消滅の危機につながる…。


感想(ネタバレあり)


本作は「四畳半神話体系」と「サマータイムマシン・ブルース」のコラボ作品となっています。

私は「サマータイムマシンブルース」を見たことがないため、そちらについてはどれぐらいリスペクトしている作品なのかが分からないのですが、四畳半神話体系の続編という点から見ると登場人物のイメージをくずさない良い作品でした。

四畳半神話体系と同じように主人公である「私」は、常に想い人である明石さんのことばかり考えて一人で色々と葛藤しているし、明石さんは天然な感じだがどこか不思議な魅力がある人だし、悪友の小津は相変わらず不気味で人の不幸を幸せに感じる人物だし、樋口さんなんか25年後でもまだ寮に住んでいるみたいです。

変な登場人物ばかりだけどやっぱり四畳半神話体系っていい作品だなと感じさせられました。


原案の「サマータイムマシン・ブルース」でも、エアコンのリモコンのために昨日と今日だけをタイムトラベルするという物語みたいですが、せっかくタイムマシンを見つけたのにこんなに小さいスケールのことしかしないというところが、四畳半神話とマッチしていていいコラボ作品になった気がします。


一つ本作を読んでいて気になったことがありました。

物語の中で樋口さんは愛用のシャンプのヴィダルサスーンを盗まれてしまいます。

ヴィダルサスーンを盗人から守るために、タイムトラベルした樋口さんは、昨日の樋口さんからヴィダルサスーンを盗みますが、そもそも最初に樋口さんのヴィダルサスーンを盗んだのは誰なんでしょうか?

樋口さんもヴィダルサスーンを盗まれることがなければ過去の自分から盗むなんてことをしないはずなので、原点にもどると「私」が間違えて持って帰っていたりして。





物語の最後で明石さんが「みんながどれだけ好き放題をしても過去は変えられない」と語っています。

これは、ある程度どの時間軸でどのようなことが起きるのか大筋が決まっているため、誰がどんな行動をしても運命は変わらないという解釈でよいのかな。



明石さんが「四畳半神話体系」と「タイムマシンブルース」の映画を新作で撮りたいという感じで物語は終わりましたが個人的にこの終わり方は結構好きです。

妄想になりますが四畳半神話大系も四畳半タイムマシンブルースも「私」や明石さんなどの物語に登場してきた人物が撮影してきた作品という風にも考えることができますね。


最後に


またいつの日か今回みたいなかたちで四畳半神話大系が他作品とコラボということで復活してほしいな。

「サマータイムマシン・ブルース」もAmazon Primeで見れるみたいなので一度見てみよう。






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