湊かなえさんの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』が文庫化されていたので購入してみました。短いながらも湊かなえさんらしいイヤミスが味わえるみたいなので楽しみです。
今度WOWOWで連続ドラマ化するみたいですね。
『ポイズンドーター・ホーリーマザー』のあらすじ
女優の弓香の元に、かつての同級生・理穂から届いた古郷での同窓会の誘い。欠席を表明したのは、今も変わらず抑圧的な母親に会いたくなかったからだ。だが、理穂とメールで連絡を取るうちに思いがけぬ訃報を聞き……。(「ポイズンドーター」)母と娘、姉と妹。友だち、男と女。善意と正しさの掛け違いが、眼前の光景を鮮やかに反転させる。
本作は以下の6つの短編から構成されています。
- マイディアレスト
- ベストフレンド
- 罪深き女
- 優しい人
- ポイズンドーター
- ホーリーマザー
以下各短編についてネタバレを含んだ感想になりますので未読のかたは気を付けてください。
感想(ネタバレあり)
マイディアレスト
マイディアレストは妊婦の妹が殺人事件に巻き込まれて殺害されてしまい、姉が刑事に事情聴取をされている場面から始まります。
物語の序盤では姉に対して妹や母親の態度が酷いなと感じてしまっていたのですが物語を読み進めていくにつれて不穏な空気がでてきます。
最後の場面では、蚤をとる要領で妹のお腹をつぶしてその後顔をつぶしてしまいます。最後の「誰が何度あの夜のことを私に訊いても、答えは同じだ。——蚤取りをしていました。」という文章にはぞっとしてしまいました。
途中ででてきた猫の蚤取りが殺人につながっているとは思いもよりませんでした。
この物語は姉の目線で物語がしんこうしているため姉はかわいそうな人に移りますが、客観的にみると無職でいつまでも結婚せず家族から見ると姉はお荷物でしかありませんね。
母親が姉に対して厳しく、妹に対して厳しくないのも母親が物語中で言っているように年齢の問題であったり、姉を育てたことで育児慣れしてきたというところもあるんでしょうね。
一遍目からここまで衝撃的な作品が掲載されていると思わなかったので驚かされてしまいました。
ベストフレンド
ベストフレンドは大学四年の時に初めて脚本コンクールに応募し、九年目にしてようやく最終選考に残り優秀賞を受賞することができた漣涼香(さざなみすずか)が主人公です。
漣涼香は授賞式の日に最優秀賞の大豆生田薫子(まみゅうだかおるこ)と涼香と同じ優秀賞の直下未来(そそりみらい)と出会います。
授賞式の場で涼香は審査員三人中二人は涼香の作品を最優秀賞に推していたのに涼香のあこがれの存在である野上浩二が病気を盾に薫子の作品を最優秀賞に選んでいたことを知る。
その後涼香が書いた別のプロットが野上の手で映像化されるが評判が上がらず打ち切りされてしまう。一方薫子は脚本家として着実に成功をおさめる。
涼香は成功する薫子と自分の違いに耐えられなくなり、いつしか薫子のことを疎ましく思う。
最後の場面で凱旋帰国する薫子を涼香は花束を持って待つが薫子を刺そうとする人物から薫子をかばって涼香はなくなってしまう。
最後の涼香が刺される場面が本当に衝撃的でした。私は涼香が薫子を恨んで嫉妬から空港で薫子を刺そうとしているのだと思っていました。しかしそれは勘違いであったみたいで涼香は薫子を最初は恨んでいたかもしれないが徐々に才能を認め始めて最後は純粋に脚本家としての良きライバル(親友)として花束を渡しにきただけでした。
一方涼香を刺した直下は、涼香と違い薫子の才能を認めることができず最終的に薫子を殺そうとするという暴挙に出ます。
物語の途中でたびたび出てくる "『』" の台詞は涼香の心情ではなく直下のブログに書き綴られていた言葉だったとは…。
この物語の終わり方は正直爽やかなものではないが最後の最後に涼香と薫子のお互いが脚本家として競いあうことができる親友だと気が付くことができたのは良かったのかもしれない。
罪深き女
この物語は電気店で刃物を振り回して死傷者十五名を出した黒田正幸容疑者の知り合いだとして警察に彼のことを話す天野幸奈が主人公です。
天野幸奈は警察に黒田正幸は母子家庭で苦労していたことを伝え子ども時代には幸奈が母から虐待される正幸に食べ物を与えていたことなどを教えた。
最終的に幸奈と正幸の関係は正幸が幸奈を母親から解放するためにアパートを燃やしてしまいそれぞれが母親を亡くして孤児院に引き取られてしまい二人の関係は終わってしまいます。
そして事件の一週間前に二人は電気店で再開します。幸奈は再会を喜び今の自分が幸せであることを伝えましたが、正幸が幸奈だけ幸せになっていることを恨み殺人事件を起こしたと幸奈は話します。
しかし、今までの幸奈の話を警察から教えられた正幸は反論します。
そもそも正幸はもともと母親に虐待されていなかったが正幸の母の再婚を憎んだ幸奈の母の嫌がらせが原因で暴力を受けるようになった。
火事を起こしたのも幸奈を救うためではなく自分の母の暴力に耐えきれなかったからだ。
殺人事件を起こしたのも運の悪い人生に嫌気がさしただけで正幸は幸奈のことを覚えてすらいなかった。
幸奈の警察への証言は見当違いのものばかりでしたね。幸奈は自分のいいように思い出を解釈していただけで正幸にはなんとも思われていませんでした。
もし正幸が幸奈一家にであっていなければ幸せに暮らせいていたのかがきになりますね。
正直幸奈が不幸に酔いしれているだけだと分かった状態で「罪深き女」をもう一度読み直すと胸糞が悪い話で気持ち悪いですね。
優しい人
会社の同僚ときていたバーベキューで奥山友彦が殺害され、犯人は交際相手の樋口明日実であるとされている。この物語では友彦を知る人物と明日実の心情から事件の真相が浮かび上がってきます。
友彦を知る人物の証言はどれも似たような内容で友彦は自己主張が苦手だが頭がよく優しいというものばかりでした。
明日実の心情では明日実の小さいころからのエピソードが語られている。子どものころから母親に人に優しくするのが当たり前だと教え込まれてきました。
そのため社内でも気持ち悪いといわれている友彦にたいして同情していまい優しくしてしまいました。その結果友彦から勘違いされてしまい、明日実は友彦からのストーカー被害に苦しめられることになります。明日実をそれを上司や警察などに相談するが相手にされません。
明日実は友彦が最後一緒にバーベキューにいけば諦めてくれるといったのでそれを了承します。
しかしバーベキューの場で友彦は彼氏を人質に脅迫し、明日実に結婚をせまります。その行為に嫌悪感をいだいた明日実はテーブルにあった包丁に手を取り友彦を刺し殺します。
友彦の周りの人間の話を聞いてると友彦はとても優しい人物のように見えます。しかしそれは表向きの話でした。ブログで人の悪口をかくなど友彦は裏の顔をもっていました。
一方明日実も表向きは友彦と同じく優しい人です。しかし明日実は優しいのではなく人から頼まれたことを断れずにやっているというタイプでした。
最後の優しい人の証言はとても深いですね。優しいことは素晴らしいのかもしれませんが我慢して優しくしたり無理して優しさを背負わせるのはあまりいいことではないのかもしれませんね。
周りの人間ももし優しい人を見かけたらそれを拍手して見守るのではなくその優しい人の手助けをするべきなんでしょうね。
ポイズンドーター
この物語の主人公は女優である藤吉弓香です。彼女は母親に女で一つで育てられたが、レール通りの人生を歩むのが苦痛となり母親の言動にストレスを感じるようになる。
そんな弓香に社会的なテーマを取り上げて討論する番組のオファーが届く。テーマは "毒親" でした。毒親に苦しんでいる子どもたちの励みになると思い、オファーを引き受ける。
その番組のあと親友である理穂から弓香の母親がなくなったという連絡が届く。
世間では毒親のエピソードや弓香が出版した本が原因で自殺したのではないかと噂されている。
この物語のタイトルは毒娘だ。親をテレビやネットなどで批判するような人間は毒娘(毒息子もいるだろうが)だと言いたいのだろう。
親が子どものころをテレビなどでほめることはあっても批判することはない。一方子どもはネットやテレビを通じて親を批判することがある。
世間一般からみれば毒なのは親ではなく子どもなのかもしれない。
ホーリーマザー
『ホーリーマザー』はポイズンドーターの後の物語で、弓香の友人の理穂視点です。
理穂の義母は弓香の母の友人であり、弓香が母のことを毒親であると公表したことが許せなかった。理穂は義母のことを疎ましく思いながらも義母の抗議文に訂正を加えた週刊誌に送る手助けをした。
そんな中、理穂に弓香から久しぶりに連絡が入りヒステリックな調子で会えないかといわれる。
弓香と再会した理穂は弓香の母の佳香は毒親ではないと反論し、本当の毒親を知っていると伝える。ただ理穂の言いたいことは弓香には通じませんでした。
弓香と別れた理穂は娘から嫌われて毒親だと思われたとしても自分が母にしてもらったように育てたいと考える。いつか娘も母は自分のために厳しかったのだと分かってくれるから。
毒親の基準って難しいですね。少し厳しいぐらいだったら子どもは親のことを毒親だと思うことはないかもしれませんが、継続的に厳しいのが続くと精神的にまいってしまい親のことを毒親認定しまう可能性があります。
一方物語中に登場したマリアの母親のような人物は娘を金儲けのために売るというどをこした毒親だ。理穂は毒親と言っていいのはこういう人物だけであると言っているが本当にそうなのだろうか?
母親が全員完璧な聖母のような存在になるのは無理だろう。たあだ子どもにさえ将来的に聖母(良い母だったと)思ってもらえれば、毒親と悪態づかれることはないので教育成功なのだろう。
弓香も結婚して姑と出会うことがあったら自分の母のことを毒親だといわなかったのかもしれないですね。
まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。
どの短編もメッセージ性が強く深く考えられる話ばかりでした。また多くの話が読了後後味が悪かったのではないのでしょうか。
私は本作の中では一番『ベストフレンド』が好きです。最後に涼香がなくなったのは後味が悪かったですがまだハッピーエンドと言えるのではないのでしょうか。
みなさんはどの話が好きですか?
他にも湊かなえさんの短編が読みたい方には『サファイア』がおすすめなのでこちらもぜひ読んでみてください。