筒井康隆さんの旅のラゴスを読みました。
人生という旅にはいつまでも終わりがないということを教えてくれる作品でした。
普通とは少し違うSF要素があったのも面白かったです。
以下、あらすじと感想になります。
『旅のラゴス』のあらすじ
その世界の人々たちは、私たちが日常的に利用している自動車や電車などの高度な文明を失った代わりに壁抜けや集団転移などの超能力を得た。
そんな世界で旧文明の知識を得るために北から南へ、南から北へ旅をする男がいた。
その男の名はラゴス。
ラゴスは集団転移や壁抜けなどの体験や様々な人たちとの出会いと別れを繰り返して旅を続ける。
旅の途中で奴隷の身に落とされることもあったがそれでもラゴスは自分の目的を達成するために旅を続ける。
ラゴスが障害をかけた旅の目的を果たした後に見つけるものは何なのか。
一人の男の一生を描いた、SF旅小説。
感想(ネタバレあり)
説明されない世界感
一般的なSFとは物語の途中で世界観の説明があるのが一般的である。
例えばハリーポッターなら魔法が使える人々が存在するんだなと物語の冒頭を読めば小説の世界観を掴むことができる。
しかし、この『旅のラゴス』ではそういった世界観の説明が一切ない。
私たち読者はなんの知識ももたないままラゴスが生きている世界に投げ出されるのだ。
まず私が読んでいてこの世界はなんだと感じた最初の存在はスカシウマである。
ウマという名前がつくのだから我々の世界にいるウマのような生き物だとは想像できるがどんなウマかまでは詳細に描かれておらず、物語を読み終えてもスカシウマの正体を想像することができない。
ラゴスの生きる世界はこうした知らない生物たちばかりが現れる私たちが生きる世界とは違う世界なのだなと思いながら物語を読んでいると一気に現実に戻される場面がある。
それはラゴスたちがマテ茶を飲むシーンだ。
日本人でマテ茶をよく飲むという人は少ないかもしれないが、現実に存在するお茶だ。
このマテ茶を飲むシーンを読んで私たちは初めてこの世界が、現代の文明が滅びた後の世界なのだと知ることができる。
このように物語を読み進めていくにつれてこの物語の世界観を知ることができるため、小説を読んでいるだけでまるで私もラゴスと同じように旅をしているような気分を味わうことができるのが本作の面白いところだ。
人生の目的とは
有名企業に就職すること、お金持ちになることなどを人生の目的としている人は多いと思う。
そうした目的を持つことは悪いことではないが、『旅のラゴス』を読んで人生の目的というものは常に更新されて終わりがないのだということを感じさせられた。
ラゴスの当初の目標は、南の旧文明の情報が隠されている地に向かうことだった。
彼はバドスの町で奴隷狩りに会い、一時は奴隷に身を落としたがそれでも何十年もかけて南の地に到達した。
もちろん南の地に到着しただけでもすごいことなのだが、ラゴスのすごいところはそれだけではない。
彼は自分の人生の終点をその地とせずに旧文明の知識を自分の住んでいた地に持ち帰ろうと新しく目標を持つのだ。
さらにその目標を達成すると彼は何十年も前に愛していた女性デーデに会うため再び旅へと出る。
『旅のラゴス』を読んで人生という旅は自分が死ぬまで終わりがないのだということを再度認識することができてよかった。
自分も今の現状に満足せずに常に旅を続けなければならないという風に感じさせられた。
まとめ
『旅のラゴス』はSF小説ではあるものの、世界観の説明が少ないどこか変わった作品だった。
また、旅小説としてもラゴスの落ち着いた性格のおかげか物語に起伏はあるものの落ち着いて読むことができる。
これらの二つの要素のおかげで自分をラゴスという人物に投影することがしやすくまるでラゴスのように自分が旅をしている気分を味わうことができる作品だった。
『旅のラゴス』を読んで皆さんも未知の世界にでかけてみませんか。