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2020年の小説読みはじめということで草上仁さんの『5分間SF』を読みました。

本書は以下の15編のSFショートショートから構成されているショートショート集となっています。収録されている作品の多くがタイトル通り1編5分ほどで読める物語ばかりなので、電車などの移動時間で読むのに最適な作品となっております。

また、本書は草上仁さんの20年ぶりの新刊ということで、1990年代に書かれた作品なども収録されています。古い作品が収録されているにも関わらず読んでいる途中に古臭さを感じることはまったくありませんでした。

以下、読んだ中で個人的に好きだった物語の感想を書いていきます。ネタバレも少しだけあるので未読の方は注意してください。






マダム・フィグスの宇宙お料理教室

キューピー3分クッキングのようなのりでナンブラーという不死身で危険な生物をマダム・フィグスが調理していくバトルクッキング番組物語です。

この作品で私が個人的に好きなポイントは物語のオチです。

料理番組と聞いたら普通皆さん人間向きの料理番組を想像されますよね。物語の序盤では、マダム・フィグスのアシスタントが調理中に怪我をしてしまい入れ替わるというトラブルが発生しつつも人間向きの料理番組として進んでいきます。

しかし、物語の終わりはマダム・フィグスの以下のセリフで占められています。
今日のヘビィバトル・クッキングは、『グルメ家族のためのナンブラーの不死身揚げ』と『グルメなナンブラーのための人間の胃袋踊り食い』をお送りしました。

マダム・フィグスの宇宙お料理教室より引用
なんと人間向けだと思っていた料理番組は人間だけではなくナンブラー向けの番組でもあったというオチです。

正直このオチを読んだ瞬間、この物語の世界観はどんな感じなのかが気になってしまいました。私たちの世界でいうと鮭を食べていたと思ったら人間が鮭に食べられてしまっていたということですね。

草上仁さんは1000年、2000年先は人間が頂点にいる世界は終わってしまうということを訴えたかったのかな…。それとも人間のグルメに対する探究心は恐ろしいぞということを伝えたっかのか気になるところです。





結婚裁判所

結婚生活に必要なのは愛かそれとも他のことなのか?
人間とロボットの結婚は可能であるのかということを裁判を通して語られていく物語です。

この作品の注目ポイントは人間の先入観を巧みに利用した作品であることだと思います。

この作品を読んだ多くの人は物語の中盤で明かされた裁判官が人間ではなくロボットだったということに驚かされたのではないのでしょうか。

私たちは先入観に縛られているのか、多くの物語を人間中心の世界で起こっていると考えがちです。しかし、この物語は人間が絶滅しかけたことをきっかけに世界の中心的存在が人間からロボットへと入れ替わっています。

この物語を読んで先入観に縛られて生きていてはいけないのだということを感じさせられてしまいました。

世界事情というものは時間がたつにつれてどんどん変化していくので、先入観に縛られている人は一度先入観を捨ててみてはいかがでしょうか。


ワーク・シェアリング

ドアを開けるための仕事を行う『ドア開放係』、ネジを締めることだけを仕事にしている『ネジ締め係』、ネジを緩めることだけを仕事にしている『ネジ緩め係』など一つの作業に対して一つの係があるというワークシェアリングを徹底した世界を舞台にした物語です。

この作品は最近流行りのワークシェアリングを皮肉っているのが面白いポイントです。

ワークシェアリングの目的に仕事を分かち合うことで労働者一人一人の労働時間を減らそうというものがあります。

この物語ではワークシェアリングの労働時間を減らすという目的は達しているのですがある問題が発生しています。その問題とはワークシェアリングを徹底しすぎた結果一つの仕事をこなすのに通常の何倍も時間がかかってしまうということです。

例えば倉庫の中に一つの小さな荷物を搬入するという仕事があった場合、実世界では一人いれば十分にこなすことができるしごとです。

しかし、この世界では上記の仕事を行うために以下の三つの係の人間を呼ぶ必要があります。
  • ドア開放係
  • 鍵開け係
  • 荷物搬入係
一人でこなすことができる仕事を三人で行う場合、三人の都合を合わせて仕事を行う必要があるため、作業時間を達成するまでの時間が伸びてしまうのは必然的です。


ワークシェアリングはいい取り組みなのかもしれませんが、良い取り組みも徹底しすぎるとろくなことが起きないということを明示している作品でした。


最後に

ショートショートって長編小説と比べると多くは語られていないぶん自分で想像できる幅が広がるのですごくおもしろいですよね。

紹介した作品以外にも面白い作品がたくさんあるので、この記事を読んで興味を持った人がいましたらぜひお手にとってみてください。