芥川賞候補作にも選ばれた、今村夏子さんの『星の子』が文庫化されていました。

さっそく読んでみたところ、ラストシーンがすごく印象的でとても考えさせられる作品でした。

以下、感想を綴っていきますがネタバレもありますので、ネタバレが嫌だという方はご注意ください。



『星の子』の感想

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宗教を信じる父と母

主人公のちひろは幼少期病気でした。その病気を治すために父と母は様々な医療機関に行ったり民間療法を試したりしますが、一向になおりません。

そんなあるとき、父の会社の同僚である落合さんから「金星のめぐみ」と呼ばれる水が病気にきくと勧められました。ガーゼを「金星のめぐみ」で濡らして、毎日ちひろの体をふくと病気が治ると落合さんは行ってきました。

「金星のめぐみ」を使って父と母は毎日ちひろの体をふいてあげました。するとたった二か月足らずでちひろの病気は完治してしまいます。

このことがきっかけで父と母は宗教を信じるようになり、どんどん宗教にのめりこむようになります。


私は宗教を信じていない人間ですが、もしちひろの父と母のような体験をしてしまったら怪しい宗教を信じてしまうかもしれません。

ちひろの病気が治ったのがたまたま「金星のめぐみ」を使っていたタイミングだっただけなのかもしれません。しかし、今までどんな治療をしても治らなかったものが「金星のめぐみ」を使った瞬間に治ったのですから宗教を信じ始めた二人の気持ちは分からなくないです。

世の中の宗教を信じている人の中にはこういった奇跡的な体験をした結果、信じ始める人がすくなくないのかもしれませんね。




宗教家の親を持つ子供は宗教を信じるべきなのか


小学生時代のちひろは父と母が宗教にのめり込んでいる姿を疑問に思わない、とても純粋な子供でした。

しかし、姉のまーちゃんが家出したことや、友人のなべちゃんとの会話がきっかけとなり、ちひろは徐々に父と母と同じように宗教を信じてよいのか疑問を持ち始めます。

この作品は宗教を信じることは否定していませんが宗教を信じるかどうかは自分の意志で決めてほしいという、今村夏子さんの意志がちひろを通して詰められている作品なような気がします。

子どもという生き物は外の世界を知らない狭い世界でいきているため親に勧められたことはそのまま純粋に信じてしまう傾向にあります。
この作品を読んで宗教以外のことでも、もし子どもに対して自分の考えを強要している親御さんがいましたら本当に正しいのか一度考え直してほしいですね。


多くは語らないラストシーン


普通の作品でしたらラストシーンでオチがありその作品がハッピーエンドであったのかバッドエンドであったのかが分かります。

しかし、『星の子』は宗教施設の外で親子三人で星を見ているシーンで終わり、今後ちひろがこのまま親子三人で暮らし続けるのか、高校生になることをきっかけに家をでるのかが明確には語られていません。
最初に読んだときはこのシーンで物語が終わるということに驚かされました。ですが二回目に読んだときは両親に気を遣うちひろとちひろに気を遣う両親のお互いのことを思いやるシーンが描かれているすごく良い作品だと感じました。

ちひろとしては両親だけにするのは不安なのでいつまでも両親と一緒にいたいという気持ちがあります。そのためラストシーンでは両親に叔父の家に住んでほしいと言われる前に、宗教施設に戻ろうとします。

しかし、両親はちひろのことを考えて叔父の家に住んでほしいと言うために、ちひろとまだ星空を眺めていたいと言い続けます。


最終的に両親がちひろに思いを打ち明けたのかは分かりませんが、私としては打ち明けていたらいいなと思いました。

ちひろには一度家をでて宗教にそまっていない生活を送った後に、自分の意志で両親と同じように宗教を信じるのか、それとも信じるのをやめるのか決めてほしいと思いました。


最後に


今村夏子さんの作品ってほかの作家と比べてなんか独特ですがすごく印象に残る作品が多いですね。
もし、この記事を見て『星の子』に興味をもったら是非一度読んでみてください。

また、すでに星の子を読んだという人は他の作品も面白いので是非一度読んでみてください。

『星の子』は2020年に映画化もされるみたいです。

主演は芦田愛菜!

映画もどのように描かれるのかが楽しみですね。