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住野よるさんの『君の膵臓をたべたい』を久しぶりに読み返しました。

住野よるさんのデビュー作ということで最近の作品と比べると少し荒さが目立つのですが、それ以上に心に訴えかけるものが多く、何度読んでも同じシーンで泣いてしまうほど良い作品です。

以下、あらすじと感想を書いていきます。






あらすじ


ある日、高校生の僕は病院で1冊の文庫本を拾う。その本のタイトルは「共病文庫」。

共病文庫は、僕のクラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳であった。

そこには、彼女の余命が膵臓の病気が原因で、もう一年もないと書かれていた。

共病文庫を拾ったことが原因で僕は彼女にとって【ただのクラスメイト】から【秘密を知るクラスメイト】となった。

彼女と食事したり、旅行したり、様々なことを話していくうちに僕は自分と正反対の性格をしている彼女に徐々に惹かれていった。

余命残り一年の彼女とどう過ごしていたか考えていた矢先、世界は、平等に残酷な現実を僕につきつける――。



感想(ネタバレあり)


『君の膵臓を食べたい』はあらすじの表層だけをとらえると、ヒロインが最後に亡くなってしまうどこにでもありそうなお涙頂戴の恋愛物語です。

しかし、この物語をしっかりと読むと住野よるさんはそんな浅はかな考えで本作で伝えたかったわけではないということが分かります。


生きている時間の大切さ


『君の膵臓を食べたい』を読むことで命の大切さを教えられました。

物語を読んでいた読者の多くは、物語の序盤では桜良の命は1年ほどあり来年には死ぬんだろうなと思っていたに違いません。

しかし、実際は通り魔に襲われてしまい、主人公の春樹に継げていた寿命より半年ほど早く亡くなってしまいます。

このことから、今まで人は70代、80代まで生きるのが普通で病気の人でも余命宣告された期間は生きると思っていたのですが、そんなことはなくいつ何が起きて死んでしまうのか分からないということを感じました。

また、桜良はただ無駄に時間を過ごして生きていくのではなく、生きているうちに自分がしたいことをたくさんしようとしていました。

このことから有限である人生の中でいかに充実した時間を過ごすことが大切だということを教えられました。

生きている中でときには休息も必要でしょうが、休息するにしても最大限に充実した休息をするなど何をするにしても時間を大切にして、目一杯過ごしていったほうが良いということを本書から学びました。





人からどう思われているかずっと気にする主人公


物語の中で桜良や他のキャラが主人公の名前を呼ぶ描写がありません。

主人公が呼ばれるときは名前ではなく「【】」で【秘密を知っているクラスメイト】、【仲良し】、【噂されているクラスメイト】のように呼ばれています。

この【】の中身はおそらく人から主人公がどう思われているのかを書いているのではないのだろうか。

主人公は人と避けて過ごそうとしていくうちに無意識に人から自分の評価を決めてしまい、人から自分がどのように思われているのかを確認しようとしません。

この主人公の生き方は作中でも描写されているように「草舟」のようでまわりに流されて生きることができるのですごく楽なのですが、桜良のように同じ時間を過ごしていても生きているとは言えません。

しかし、桜良との出会いをきっかけに主人公は徐々に変化していきラストシーンでは、流されて生きるのではなく自分の意思生きようとしているのが分かります。


おもしろい会話のやりとり


本作は内容自体もすごくよいのですが、主人公と桜良の何気ない会話も表現が不思議な感じでおもしろい物が多いです。

一例をあげると、春樹と桜良が焼肉を食べに行っている場面で、以下の会話のやりとりが物語ででてきます。

桜良:『もう、せっかく店員さんに商品を紹介してもらおうと思ったのに。邪魔しないで。もしかして私と店員さんの仲睦まじさに嫉妬しちゃったの?』

春樹:『あれを仲睦まじいっていうなら、誰もオレンジを天ぷらにしようとは思わないだろうね。』

桜良:『どういう意味?』

春樹:『意味ないことを言ったんだから追求しないでくれる?』

君の膵臓をたべたい P.39より

こういう意味のない会話のやりとりからも、住野よるさんのセンスの良さを感じますね。




タイトル『君の膵臓をたべたい』の意味


「君の膵臓を食べたいと」いう言葉は序盤の春樹と桜良の体の悪い部分を食べると病気が治るというやりとりの中ででてきますが、そんな会話からただつけられたタイトルではありません。

桜良が残した遺書や春樹が送ったメールのなかで、「君の爪の垢でも煎じて飲ませたい」という言葉の代わりに二人だけが分かる「君の膵臓を食べたいと」という言葉を使用しています。

つまりこのタイトルは二人の特別な関係を表したものなのです。

そう考えるとタイトルを聞いただけでもなんだか泣きそうになってしまいますね。



最後に


『君の膵臓をたべたい』は最初に述べた通り何度読み返しても感動する作品です。

もしかしたら小説ではなく映画を見て本記事にたどり着いた方がいるかもしれませんが、そういう方にはぜひ小説版を読んでもらいたいです。

個人的には映画よりも小説の方が表現が豊でおもしろいと思っています。


また、本作を読んで住野よるさんの他の作品を読んだことがないひとは他の作品もおもしろいのでぜひ読んでみてください。