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三秋縋さんの『三日間の幸福』を読みました。

こちらの作品はだいぶ前に2chで公開されているときに読んだのですが、WEB小説で読むのと刊行された作品を読むのでは物語の大筋は一緒でも作り込みかたが違うなという印象が残りました。

以下あらすじと感想を書いていきます。



あらすじ


主人公のクスノキは子どものころ自分は優秀な大人になるに違いないと思っていた。その思いは20歳になっても変わらない。

しかし、実際のクスノキは平凡な大学に入り、生活費を稼ぐために毎日バイトにあけくれるも生きていくことさえ困難な状況におちいっていた。

そんな彼は、寿命を買い取ってくれる店があるという話を聞き、その店を訪れた。

彼は三カ月を残し全ての寿命を売り払ったがその価値は1年につき1万円の計30万円であった。

寿命を売ったクスノキに残りの人生を自暴自棄に過ごさないようにミヤギという女性が監視員につけられた。

最初のうちは常にミヤギに監視されているのに嫌気をさすクスノキだった。

しかし、クスノキは監視員のミヤギとともに過ごすうちに、自分の人生はミヤギのために使うべきだということに気がつく。

しかし、彼の寿命は残り2ヶ月を切っていた。

はたしてクスノキは残された時間で宮城のために何をしてあげられるのだろうか。


感想



前半パートの鬱な展開


寿命を売ったクスノキは、生きている間にやりたいことを考えた結果とりあえず昔の知り合いに会おうとします。

しかし、これは大きな間違いでした。ナルセと会っているシーンを読んだときも嫌な気分になりましたがヒメノと再会した場面では絶望感を味合わされました。

もし、クスノキのように自分のことを大好きだと信じている昔の友人に会ったときに、殺したいほど憎んでいると言われたらどのような気分になるのだろうか。

もちろん10年間ほとんど連絡もしていなかったため、友人に顔を忘れられてしまっていたとかならしょうがないことだと気づき諦めがつくだろう。

しかし、高校時代にヒメノが送ってきた手紙という分かりにくいサインでSOSを求めてきたことに気がつくことができなかっただけで殺されたいほど憎まれたクスノキは正直かわいそうだと感じてしまった。

もちろんクスノキが悪い部分も少しはあっただろう、それでもこの恨みはヒメノの逆恨みとしかいいようがない。

前半はこんな風にとにかく鬱な場面が多い。

こういったシーンも最後のクスノキの幸福感をきわだたせるための演出だと思えば、三秋縋はすごい作家であると感じてしまう。



ミヤギの嘘


物語の序盤でミヤギはクスノキの残りの人生の価格を30万円だと査定しましたが、それは嘘でした。
実際のクスノキの人生の価値は30円しかなく、差定額の10000分の1の価値でした。

ミヤギは人生に絶望しているクスノキに同情して、自己満足のために嘘の査定価格を言いました。
このことからミヤギは自分が辛い状況にあるにも関わらず人を思いやることができる、優しい人間だということが伝わりますね。

もしミヤギが嘘をつかなければクスノキは人生に絶望して、3カ月も寿命を残さず残り3日になるまで寿命を売るか、またはその場で自殺をしたかもしれません。

実際に自分の人生の価値が30円しかないよって言われたら、ほとんどの人間は未来を変えてやるなんて強い意識を持てずに人生を諦めるでしょうね…。

ミヤギの優しい嘘が物語の終盤で二人を幸せにすることになります。





吹っ切れてからのクスノキの行動


ミヤギの優しい嘘に救われたクスノキは、自分がいなくなった後に、ミヤギに平穏な日々を過ごしてもらうために、自分の人生の価値を上げて、そのお金でミヤギの借金を返済しようとします。

自分のために再び寿命を売ろうとするクスノキをミヤギは止めようとしますが、クスノキはミヤギに少しでも恩を返そうとします。

場所を選ばずにミヤギに話しかけるようになったクスノキはいつしか街中で透明の彼女をつれている男、パントマイムをしている男として有名になり、今まで交わらなかった多くの人と交流するようになります。

こうしたことから今まで味わうことのなかった人生の充実感を得たクスノキは、一度諦めた夢である絵を再び書き始めます。

結果としてこの行動を行ったおかげでクスノキの人生の価値は変わり、ミヤギの借金を返すことができるようになりました。


終盤の物語から三秋縋は、読者に夢を諦めるなということを伝えたかったのだと考えられます。
どんなに人生に絶望していて自分の価値が分からなくなったとしても、クスノキのように目標を持てば運命を変えることができるということを『三日間の幸福』を通して学ぶことができました。

また、この物語から夢は簡単に諦めたら駄目だということを教えられました。
現実では寿命を売るなんていうことはできないですが、クスノキのように死ぬ気で頑張ればどんな夢でもいつしかは努力が実り、才能が開花する可能性があるということも教えられました。


『三日間の幸福』というタイトルの意味


『三日間の幸福』というタイトルはクスノキがダラダラ生きる30年間よりも、ミヤギと二人で幸せに過ごす3日間のほうが価値があるという意味でした。

どんなことをする時間でもダラダラ無駄に消費するよりも、メリハリをつけて充実した時間を過ごしてほしいということを三秋縋は読者に伝えたかったのでしょうね。

この小説の読者は個人的に中高生が多いイメージがあるので、大人の三秋縋からの子どもたちに対する強いメッセージ性を感じさせられます。(大人に対しても伝えたいのだろうけど)



最後に


『三日間の幸福』は何回読み直しても楽しめる作品です。

ライトノベルだからという理由だけで毛嫌いして読んでいない人はすごくもったいないのでぜひこの作品を読んでみてください。

また、三秋縋さんの他の作品を読んだことがないかたは以下の作品もおすすめですのでこの機会にぜひ読んでみてください。






みなさまが、充実した人生を過ごせますように。