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冬野夜空さんの『あの夏、夢の終わりで恋をした』を読みました。

読み始めの印象としては妹を亡くして悲しんでいる主人公が恋愛していくだけのありがちの設定という印象でした。しかし、物語が進むにつれてどういう気持ちをこめて書かれた話か分かり非常におもしろかったです。

以下あらすじと感想になります。




『あの夏、夢の終わりで恋をした』のあらすじ


2年前妹を目の前で起きた事故で妹を亡くしたことをきっかけに、自分から幸せを遠ざけ、公開しない選択にこだわってきた透。

しかし、ある日立ち寄ったカフェでピアノを演奏していた咲葵に対して自分らしくない一言がこぼれた。

「一目惚れ、しました」

この告白の言葉がきかっけで透の人生は一変していく。

妹への罪悪感を抱えつつ、咲葵のおかげで幸せに満ちた人生へと変わっていく透だったが…。

咲葵から「――もしも、この世界にタイムリミットがあるって言ったら、どうする?」と言われ、この世界の真実を知知ったとき、透は究極の選択を前にどのような答えを出すか?

後悔を抱える透と咲葵2人の、儚くも美しい、ひと夏の恋――。



感想(ネタバレあり)


読了後、人生は色々な選択肢があり、その選択一つ一つでこれからの人生が少しずつ変わっていくんだ、自分も後悔しない選択をしないとという風に感じました。


パラレルワールド


『あの夏、夢の終わりで恋をした』は透と咲葵が妹の雫を助けた世界と助けられなかった世界の二つのパラレルワールドを描いている作品でした。(正確には最後に透が腕を失わなかった世界もあるから三つ)

物語の序盤で透と咲葵がピアノのために「if」という映画を見に行くシーンがありましたが、序盤から読者に少しずつこの物語はパラレルワールドを題材に提示していると教えているのがいいなと思いました。

ただ、私は「if」がでてきた当たりでは、咲葵は偽名を名乗っているだけで実は透の妹かもとか思っていました。完全に予想が外れましたね(笑)


夢の世界が崩壊する直前の『いつかまた』という台詞もすごく素敵でした。

物語の中でラヴェルは記憶を失った後に自分の作った曲が一番素敵だと感じたと書かれていました。
咲葵と透にとってお互いがラヴェルにとっての「亡き王女のためのパヴァーヌ」のような存在で、どんな世界にいたとしてもこの二人は恋に落ちるんだろうなということが伝わりました。

作中で描かれてはいませんが、怪我で透が記憶と腕を失った世界でも、咲葵は苦しんでいる透を支えてあげているんだろうなということが想像出来ます。


後悔の清算


この物語のもう一つのテーマは「後悔の清算」でした。

透は雫を助けられなかったことをずっと後悔して生きていましたが、咲葵の手助けもあり世界が崩壊する直前には雫を助けられなかった後悔を受け入れて前に進もうとしていました。

人生生きていればどんな人でも後悔の一つや二つはあるでしょう。

ただどんな後悔があったとしてもそれは清算していくことができるので、苦しくても自分を幸せにすることを諦めてはいけないというメッセージが『あの夏、夢の終わりで恋をした』からは伝わりました。

こちらの作品は2020年6月に出版されているみたいなので、コロナで苦しんでいる人たちに対して頑張ってほしいということを伝えたかったのかもしれませんね。





エピローグについて


『あの夏、夢の終わりで恋をした』のエピローグって個人的に賛否両論がある気がしました。

人によってはエピローグでわざわざ、別の世界での透と咲葵の幸せな様子は描く必要がなかったのではと感じてしまう気がします。

私個人としても、咲葵が夢に入る前の世界で幸せになっている二人の様子を描くか、エピローグなしで第七章の夢の終わりに君を想うで終わりでもよかった気がします。

あくまで私の推測になりますが、冬野夜空さんがエピローグを書こうと想ったのは先ほど私の感想でも書きましたがどんな世界線にいたとしても透と咲葵の二人は愛しあっているということを伝えたかったのではないのでしょうか。

そう考えるとエピローグも悪くないと感じることができます。



最後に


冬野夜空さんの作品を今回初めて読みましたがとてもおもしろかったです。
ライトノベルという理由だけで読んでいない人はけっこうもったいない気がします。

本記事を読んで興味を持った方はぜひ読んでみてください。