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喜多喜久さんの『はじめましてを、もう一度。』が文庫化されていたので読みました。

最初は、主人公が機械学習を勉強している理由などが物語とはあまり関係ないのでは…とか思っていましたが最後まで読むとそのあたりの理由もわかりおもしろかったです。

終盤ではカフェで読んでいたにも関わらず号泣してしまうほど感動してしまいました。

以下、あらすじと感想になります。

ネタバレもありますので未読の方はご注意ください。



『はじめましてを、もう一度。』のあらすじ


高校二年生の成績トップの理系男子・北原恭介は、学校の人気者である同学年の祐那から突然、「付き合ってください」と告白された。

祐那が恭介をからかうために冗談で告白したと思っていた。

しかし、詳しい事情を聞くと祐那が見た夢通りの行動を起こさないと恭介は、くだん様の呪いで死んでしまうらしい。

つまり告白を断ったら恭介は死んでしまうということだ。

呪いなんてありえないと思っていたが、真剣に話す姿をみて恭介は祐那と付き合い始めた。

思いがけず始まった二人の謎だらけの関係だったが、二人は同じ時間を過ごすにつれてお互いに惹かれあっていく。

しかし、裕那の夢の話には裏があった…。

彼女が言えずに抱えていた秘密とは何だったのか。



感想(ネタバレあり)


従来の喜多喜久さんの作品と比べると現実的な科学要素は、少なめでオカルトチックなくだん様の呪いが中心となっている物語でした。

それでもプログラミングや機械学習といった新しい技術を物語に上手いこと取り組んでいたり、ミステリー要素なんかもあったりして面白かったです。

祐那の夢の真実が明らかになるラストシーンでは、プログラムのように機械的に生きていた人間が恭介ではなく祐那だったということが分かり、物語に登場しているプログラミングの話と上手い事掛け合わせているなと感じました。


小見出しの日付と数字の謎


物語を読んでいて最初になんだこれと思ったのは小見出しにでてくる日付と数字でした。

第一章の最初の小見出しは「2838+1——【2017・3・28(火)】」、二つ目は「2848+1——【2017・4・6(木)】」でした。

この要素をみたとき一つ目と二つ目の小見出しの数字の差からなんとなく日付を表しているということは察することができたのですが、なんの日付かまでは分かりませんでした。

恭介が生まれた日…?とか思っていたのですが恭介は高校2年生なので計算があわない。

プログラミングが物語で出ているから16進数に置き換えるのかとかも思いましたがこれも計算があいませんでした。

私は、祐那が「約8年前にくだん様の呪いにかかった」と言っている場面で数字の正体に気が付きました。

そうこれは佑那がくだん様の呪いにかってから経過した日付だったのです。

しかし、まだ一つだけ疑問がのこっていました。それは、冒頭部だけ「+1」という演算子がついていたということです。

この正体は、物語の終盤で佑那が同じ夢を繰り返してみていとことが分かった場面で正体に気が付きました。

この「+1」は夢の中ではなく、現実世界で恭介と佑那がはじめて、「はじめまして」といった日のことだったのです。

あえてその日を「2839」とは書かずに「2838+1」と書くのはすごくおしゃれですね。


「3000+∞」の世界の二人は果たして幸せなのか


『はじめましてを、もう一度。』は最後にプロローグという題で死んだ祐那と再び出会うために、恭介が作ったシミュレーションの世界で二人が再開したことが描かれています。

再び出会えたことに二人はとても幸せだといった風に物語はしめられています。

これを読んで私は、本当にシミュレーションの世界で再開した二人は幸せなのかという疑問が残りました。

二人が再開できたのはもちろん喜ばしいことですが、それはあくまで恭介が作った仮想シミュレーションの世界でです。

恭介はまだ生きているので、シミュレーションの世界に現実の思考などを持っていくことは可能かもしれません。

一方、祐那は既に死んでいるためこのシミュレーションの世界の祐那はあくまで恭介が自分の理想通りに作成した人間ということになります。

つまり二人は、永遠にシミュレーションの世界で一緒に過ごすことはできるかもしれませんが、それは本当に二人にとって幸せなのか少し疑問に感じました。

もし、現実に自分の好きな時代を再現できるようなシミュレーションシステムが開発されたら、ほとんどの人間がシミュレーション依存になりそうな気がして、恐怖を感じました。


ハッピーエンドだからそれでいいじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、他の方はこのエンディングを読んでどのように感じたのかが少し気になりますね…。



まとめ


『はじめましてを、もう一度。』は単純なSF恋愛小説だというとらえ方もできますが、考えさせられることもありかなり面白かったです。

また、プログラミングという小説では表現しにくいテーマを上手に扱っているなとも思いました。

この作品の影響でプログラミングに興味を持ち始める人とかもでてきそうですね。