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森見登美彦さんの『夜行』を読みました。

『夜行』は森見登美彦さんの別の作品である『夜よ短し歩けよ乙女』などとは違い、ミステリアスな雰囲気で物語が描かれている作品でした。

読了後には、こういう作品も書けるのかという森見登美彦さんの新境地を感じさせられる作品となっておりました。

以下、あらすじと感想になります。


【目次】
あらすじ
感想
考察
まとめ




『夜行』のあらすじ


京都の英会話スクールに通う男女6人で鞍馬の火祭を見に行った日事件が起きた。

その事件とは仲間の一人である長谷川という女性が姿を消したというものだ。

彼女を見た人間はその日以来いない…。

長谷川が疾走してから十年後、大橋の呼びかけで長谷川を除く5人が集まり、鞍馬の火祭を見物することになった。

久しぶりに京都に来た大橋が集合時間まで街を歩いているとある画廊に長谷川に似た女性が入っていくのを目撃した。

後を追って画廊に入ったがそこには誰もいなかった。

その画廊で大橋は岸田道生という画家の『夜行』という銅版画に出会う。

その話を四人と合流した後に話すとそれぞれが岸田道生の『夜行』にまつわる、怪談のような旅行先のエピソードを語り始めた。

『夜行』と10年前の長谷川の疾走は何か関係があるのか…。





感想


この物語は、最後まで読んでも結局大橋はどうなったのか、長谷川に何があったのかが分からない不思議な物語でした。

タイトルにつけられている『夜行』という名前の通り、少し夜にでかける気分で本を読み始めたら、永遠に朝が来ない夜を歩き続けているかのような気分を味わわされました。

この物語の不思議なところは結末と大橋を除く4人が語った会談の不気味さにあります。

彼らが語ったエピソードの怖いところは結末にオチがなくよく分からないという状況で終わっています。

彼らの物語が一つずつ淡々と続いていきますが、読者からしてみたら中井、武田、田辺、藤村の四人はこの旅行先のエピソードが実話だとしたら生きた人間なのかという疑問が湧いてきます。

全員がこの怪談の中で最後に地獄のような世界に取り残されているので死んでいるのではと感じてしまいました。


また、結末では大橋が別の世界に行き、生きている長谷川と岸田道生に出会いましたが、その世界では長谷川の代わりに大橋が失踪しているという。

そして最終的には元の世界に戻ってきて、大橋が以前よりどこか晴れ晴れした感じで物語が終わります


正直物語が深すぎて、この深さは私が理解できる範疇を超えていました。

オチをあえて書いていないのは物語の答えは読者によって変わるよということを森見登美彦さんが我々に伝えたかったんですかね。

『夜行』は物語全体としては嫌いではないけど、面白い面白くいないで語れる作品ではない気がしますね。



考察


『夜行』という物語を完全には理解できていないので間違った解釈をしているかもしれませんが、簡単に考察をしていきたいと思います。


夜行と曙光の世界


夜行が大橋君がいる世界で、曙光が最終夜で現れた長谷川さんが生きていた世界だとします。

これらの世界の分岐点は、岸田道生の心によって分岐しているのではないかと私は思っています。

どちらの世界でも10年前の鞍馬の火祭を見に6人と岸田は来ていました。

そこで、岸田にとって理想の女性である長谷川さんに語り掛けることができたのが曙光の世界で、理想の女性を自身のものにしようとして殺害してしまったのが夜行の世界なのかなと思っています。

夜行の世界では、岸田は自分が殺した理想の女性を描き続けますがどれだけ描いても彼の闇が晴れることがなく最終的には過労死をしてしまったのでしょう。

結局この物語は、男が憧れの女性にいだいている気持ちを表現しただけの物語というのが私の解釈です。

正直4人の会談の考察や曙光の世界で大橋が疾走していた理由など考えていないのでがばがばですね。

考察というレベルでもない気がします…。

だた物語の楽しみ方は人それぞれなので私ぐらい浅く感がる人がいてもいいでしょう。



まとめ


『夜行』は本当に最後まで謎が多く残る物語でした。

たまにはこういう風に最後まで読んでも結末が分からず読者に考える余地を持たせる物語を読むのもいいですね。