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森見登美彦さんの『恋文の技術』を読みました。

『恋文の技術』というタイトルから恋に対しての深刻な話なのかなとか思っていたのですが、読んでみると守田君の手紙の内容が面白くて最初から最後まで笑い続けていました。

以下、あらすじと感想になります。


『恋文の技術』のあらすじ


主人公は4月の初めに京都の大学院から、遠く離れた石川県の能登半島の遠い実験所に飛ばされた守田一郎。

初めての一人暮らしによる寂しさと好きな相手に恋文を綴るために文通修行と称して京都に住むかつての仲間や家族、家庭教師をしていたときの教え子などに手紙を書きまくる。

手紙を通して守田は友人の恋の相談にのったり、小説家の森見登美彦の文句を聞いたり、研究室の先輩の嫌味を聞いたり、教え子の悩みなどを聞いたりしていた。

しかし、文通をいくつかいても守田は本当に好きな人への手紙はうまく書くことができない。

そんな彼だったが久しぶりに京都に帰った7月のある日、友人とおっぱいを克服するために桃色ビデオを見ながら「おっぱい万歳」と叫んでいるところを意中の相手である伊吹さんに目撃されてしまう。

恋文も書けず、意中の相手に恥ずかしい姿を見られてしまった守田は伊吹さんに自分の気持ちを伝えることができるのだろうか。

森見登美彦が送る、恋する男性を主人公とした書簡体小説。



感想(ネタバレあり)


書簡体小説と言えば二人三人の手紙のやりとりを楽しむ作品が多いのですがこの作品には守田君の手紙しかでてきません。

第一話の『外堀を埋める友へ』の二通目の手紙を読んだときに、これから先守田君の手紙しか出てこないのでは…ということに気づいたときは一人だけの手紙だと物語が冗長になって面白くなくなるのではと不安を覚えました。

しかし、そんな心配をする必要はありませんでした。

とにかく守田君の文才(森見登美彦先生の文才)が素晴らしすぎて終始飽きずに読み続けることができました。

守田君が文通を送る相手によって文体が微妙に違うのも冗長にならなかった理由なんでしょうね。

妹には自分の偉さを誇示するような手紙を書き、まみやくんには小学生相手に難しい感じをいれないなど守田君の優しさや見栄っ張りっぷりが分かる手紙ばかりで読んでいてい終始にやにやしていました。

また、一人の手紙だけで全ての登場人物を想像できるように書けるなんて森見先生の技術には
恐れ入りますね。

全ての相手との手紙が面白かったのですが、友人ということもあり一番遠慮なく手紙を書いているんだなということが分かる小松崎君への手紙が個人的には好きです。

読み始めの第一話と守田君が「おっぱい万歳」と叫ぶ第五話の手紙は読んでいて笑いが本当にとまりませんでした。


著者が物語に登場


『恋文の技術』の作中には著者である森見先生が登場人物として登場しました。

近年の小説で著者自身が登場人物の一人として登場するのはかなり珍しい気がします。しかも、主人公ではないキャラで登場するという。

これは夏目漱石の書簡集を意識して自分を登場させてみようと思ったんですかね?

作中の森見先生は常に締切に追われながらもファンレターを大切そうに読んだり、守田君への手紙は欠かさない人物でしたが実際の森見先生もこういう人なのかどうかというのがすごく気になりました。

ちょうどこの時期に発売した『夜は短し歩けよ乙女』を書いている描写があったりなど、森見作品好きに対するファンサービスがあったのも良かったです。

『夜は短し歩けよ乙女』のネタを守田君からの手紙からもらっているような描写がありますが、こうした何気ない日常を作品のアイデアとして取り組んでいることを考えると先生のすごさが分かりますね。


相手を確実に落とせる恋文の技術とは


守田君は伊吹さんに恋文を書くために伊吹さんを落とすための恋文の技術を取得しようとしますが、なかな取得できません。

恋文の技術を教えてもらおうと筆一つであまたの女性を魅了している森見登先生にも答えを聞こうとしますがそんな彼も守田の求める恋文の技術は持っていませんでした。

しかし物語の終盤で守田がついに伊吹さんへの失敗書簡から彼なりの恋文の技術を見つけます。

そんな守田君の恋文が第十二話で披露されますが、彼の恋文に読んでも読んでも伊吹さんに好きという気持ちを伝える言葉がでてきません。

しかし、最後の追伸でこのように書かれていました。

ついでに、守田一郎流「恋文の技術」を伝授します。コツは恋文を書こうとしないことです。僕の場合、わざわざ腕まくりしなくても、どうせ恋心は忍べません。
ゆめゆめうたがうことなかれ。
『恋文の技術』 p.399より

わざわざ恋文を無理して書かなくても恋心は隠せないよという守田君のメッセージむちゃくちゃおしゃれじゃないですか!?

伊吹さんのような守田君が好きになるほどいい人なら手紙も最後まで読むだろうから、これは守田君なりの恋文の技術の答えですが素敵だなと思いました。

ただ、この技術は鈍感な人からはもしかしたら気づかれないかもという欠点があるのでみんなが使えるわけではありませんね(笑)

絶対に相手を落とすことができる恋文の技術なんて存在しないから、自分なりに試行錯誤して自分に合った恋文の技術を見つけろというのが森見登先生からの読者に対するメッセージなような気がしますね。



まとめ


現代はメールやLINEで手軽にメッセージのやりとりができますが、こうして時間をかけて相手とやりとりする手紙も素敵だなと思いました。

守田君が手紙のなかに写真などを付けていたこともありますが、ああいうのもおしゃれですよね。

ああ、天狗ハム食べたいな。