有川浩さんの『イマジン?』が文庫化されていたのでさっそく購入して読みました。
本作は映画やドラマなどの映像作品を作成している制作会社に焦点を当てた作品となっています。
監督や俳優のようには目立たないが、スタッフロールで名前がでるような人たちが映像作品を作成するにあたりどれだけ努力しているのかが分かり非常に面白かったです。
また、第一章のタイトルが「天翔ける広報室」となっており、自身の『空飛ぶ広報室』をモデルに物語を作っているなど有川浩ファンにはたまらない内容となっています。
以下、あらすじと感想になります。
『イマジン?』のあらすじ
バイト仲間に突然「朝五時。渋谷、宮坂益上」でバイトがあると言われたことをきっかけに良井良助の人生は変わった。
良助は子どものころに見た「ゴジラ対メカゴジラ」に自身が住んでいた別府が一瞬舞台として現れたことをきっかけに映像の世界に夢を抱く。
映像の専門学校を卒業して、春から東京の制作会社で働くことが決まったのだが、入社日に会社に行ってみるとそこはもぬけの殻だった。
どうやら会社が計画倒産をしたらしい。
良助は他の映像の会社に転職しようとするのだが、計画倒産をした会社の関係者というだけで狭い映像の世界ではどの会社からも嫌な目で見られる。
映像の世界を諦めバイトに明け暮れていた27歳の良助が、言われた通り朝五時に渋谷の宮坂益上に行ってみるとそこでは良助も毎週見ている「天翔ける広報室」というドラマの撮影が行われていた。
このバイトをきっかけに「イマジン」に誘われた良助は映像の世界に関わることとなる。
良助が憧れていた映像の世界は楽しいことばかりではなく、ありとあらゆる困難があるのだが、良助たちはどんな無理難題も情熱と想像力で解決していく。
映像作品の舞台裏を描いたパワフルなお仕事小説がここに始まる。
感想(ネタバレあり)
エンドロールに現れる人たちの努力
映像の世界で働いていない私にとって映画やドラマなどは俳優、監督それと脚本家の3つの要素さえそろっていればなんとかなるというイメージを持っていた。
しかし、『イマジン?』という作品はこのイメージを大きく変えてくれた。
どんなに有名な俳優や監督がその作品に関わっていたとしても、その裏にいる制作会社の人たちがいなければ素晴らしい作品は出来上がらないんだということに気付かされた。
良助たちイマジンのメンバーはお茶場の用意をしたり、ロケ先を取材したりなどやっている仕事は正直地味だ。
しかし彼らがいなければ良い作品を取れないことがこの物語を読んでいると伝わってくる。
例えば映像の中で現れる喫茶店などの何気ない舞台も、彼らが脚本を読み込みその場所をイメージしながら取材することで最高の舞台を見つけられる。
どんなに脚本が良い作品でも物語と舞台のイメージが合わなかったら駄目な作品になるだろう。彼らはそうならないように努力をしているということが伝わってくる。
また、物語の中で良助や殿浦が行っていたように何気ない一言を入れることで現場の空気を良くしている場面がある。
これは想像になってしまうが実際の現場でも制作の人たちは現場の空気を良くするために影で手回しをしてくれているのかもしれない。
この作品を読んで、素晴らしい映画を見たときは監督や俳優だけを褒め称えるのではなく、エンドロールに登場する彼ら一人一人に感謝をしたいなと思った。
想像し続けることの重要性
この作品のタイトルは『イマジン?』ということで想像し考え続けることの大切さを読者に説いている。
この物語では良助が想像し考えることでパワハラに苦しんでいた幸を救う場面などが印象的だ。
もしこの場面で良助が考えることができない人間だったら幸は映像業界の世界から去っていた可能性もあるだろう。
映像業界だけではなくどんな業界で働いているにしても常にありとあらゆることを考えて想像するのは重要なことだ。
作業を黙々とこなす人間ではなく、イマジンで働く人達のように様々なことを考え想像することで問題に対応できるような人間になりたいと思った。
映像業界のシビアな現場
映像業界は関わったことがない私からしてみると凄く華やかな世界というイメージがある。
しかし、実際はこの物語で出てきたように年功序列のなどの古いしきたりがありシビアな世界なのだろう。
本作では第一章では苦労はあるものの楽しい華やかな世界として映像業界を描いている。
しかし、二章目以降ではパワハラやセクハラがあったりするなど映像業界の闇の部分を描いている。
小説なので明るい楽しい部分だけを描くことも可能なのだろうが、あえてそうしないのは有川浩さんなりに映像業界の闇を改善してほしいという思いがあるからではないのだろうか。
こういった作品をきっかけに業界の嫌なところが少しずつ改善されていけばよいのにな。
まとめ
久しぶりに有川浩さんのお仕事小説を読んだのだが、『イマジン?』も元気と情熱をもらえる作品でした。
これをきっかけに『空飛ぶ広報室』や『県庁おもてなし課』などのお仕事小説を読み直したいなと思いました。