としおの読書生活

田舎に住む大学院生であるとしおの読書記録を綴ります。主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にも旅行やパソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

カテゴリ:書評 > 小説

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住野よるさんの『か「」く「」し「」ご「」と』(以下かくしごと)が文庫化していたのでさっそく読ませていただきました。

登場人物にちょっとした特殊能力があるという点をのぞいては、他の住野よる作品と比べると重たいテイストの作品ではなく、青春の甘酸っぱい感じのテイストが強かったです。

以下、あらすじと感想を書いていきます。



住野よる『かくしごと』のあらすじ


『かくしごと』の主要人物は京くん、ミッキー、パラ、ヅカ、エルの高校生の男女5人組。

彼らにはそれぞれ、自分の心のなかにだけ秘めているかくしごとがあった。

高校生なら誰もがかくしごとの一つや二つはあるかもしれないが、彼らのかくしごとは少し特別なもの。

そのかくしごととは、人の感情が分かる特別な力を持つというものであった。

特殊能力は特別役にたつものではないけど、その能力が原因でお互いの感情の変化が気になってしかたがない。

お互いのもどかしい想いを描く甘くも爽やかな男女人の日常を描いた青春小説。



感想(ネタバレあり)


とにかく甘酸っぱい青春小説で、読了後にはこんな青春時代をすごしてみたかったと感じてしまいました。

住野よるさんの他の作品も若者向けの作品が多かったですが、今回は特に中高生に焦点を当てた作品だという印象が強かったです。

内容だけではなくタイトルもなんで『かくしごと』ではなく『か「」く「」し「」ご「」と』なんだと読み始める前は思っていましたが、読み終わったあとは遊び心があって面白いなと思いました。

以下、各物語の感想になります。


か、く。し!ご?と


『か、く。し!ご?と』の主人公である京くんの特殊能力は、人の頭の上に浮かぶ感情の記号が見えるというものです。

驚いて入れば「!」、疑問があれば「?」がうかぶというものです。

他の4人の能力と比べると少し見劣りするような気がしますが、人の本音を理解する能力と考えると意外と使えそうな気がします。


この物語は京くんが気になっている相手である、ミッキーがシャンプを変えたという内容で物語がはじまります。

ミッキーがシャンプを変えたことで京くんはミッキーに新しい彼氏ができてしまったのではと不安に思います。

普通女の子が使っているシャンプーを変えたとしてもよっぽど香りが強くない限り気がつかなさそうなのに、そんな些細な変化に気づく京くんはミッキーに夢中な恋する男子ですね。

シャンプの他にも古文でミッキーが答えた問題を覚えていたなど京くんがミッキーに夢中な描写が面白く描かれていてよかったです。

この作品で特に面白いと思ったのは、「ヅカ」と「大塚」のミスリードです。

以下のやりとりを見てミッキーはヅカが好きだったのかと思いましたが

「なんか、三木ちゃんね」
「うん」
「大塚くんのことが気になってるらしいよ」
p.44, 45より

最後のオチで「ヅカ」の本名は高崎博文で京くんの名字が「大塚」であると分かります。

このオチを読んでから途中の場面で京くんが落ち込んでいる思っていた部分が喜んでいた部分だと分かり笑ってしまいました。

初見の読者で騙されなかった人とかいない気がしますね。


か/く\し=ご*と


『か/く\し=ご*と』の主人公であるミッキーの特殊能力は、マイナスだったりプラスだったりする感情の動きが見えるというものです。

便利な能力だけど誰にでもまっすぐぶつかることができるミッキーにはあまり役にたたない能力です。

この物語はミッキーの進路についての悩みが描かれています。

中学からの友人のヅカやいつもはよく分からない性格をしているのに進路を決めているパラをみてミッキーは自分の将来に不安を持っています。

多くの高校生がミッキーのように将来が見えなく、自分がどうなりたいのか分からない人が多いのでこの小説の中で一番共感しやすい物語のように感じました。

パラとミッキーの友情がいい感じに描かれており、もし自分がミッキーの立場でパラのような友人がいたら同姓でも好きになってしまいそうです。


か1く2し3ご4と


『か1く2し3ご4と』の主人公であるパラの特殊能力は、人の鼓動のリズムが数字で見えるというものです。

こんな能力があるパラの前ではどんな嘘をついてもすぐに見抜かれてしまいますね。

パラはこんな能力を持っていることから鼓動が分かりやすく変化している、ミッキーや京くんのことが大好きです。

一方、鼓動に変化がない自分やヅカのことはあまり好きではありません。

そのためパラは万一に自分の大好きなミッキーが嫌いなヅカと幼なじみという理由だけでくっつかないようにするために興味のないヅカに自分のことをすきになってもらおうとアプローチします。

パラがミッキーのことを大好きなのは分かるけど、自分をもう少し大切にしたらいいのになと思ってしまいます。


この物語で個人的に好きなシーンはパラとヅカとのホテルの部屋でのやりとりです。

皆はパラのことをよく分からないパッパラパーのやつだと思っていますが、少し似たところあるヅカだけはパラが無理をしていることに気づいています。

このやりとりをきっかけにパラがヅカのことを王子様呼びしなくなるのに友情が生まれたことを感じることができますよね。






か♠く♦し♣ご♥と


『か♠く♦し♣ご♥と』の主人公であるヅカの特殊能力は、人の喜怒哀楽の感情が見えるというものです。

この物語は、ミッキーに友人として大好きな京くんをとられないようにしているエルの悩みをヅカが解決するという物語です。

今までヅカは自分の可能の範囲では、特殊能力を活かして問題を解決してきました。一方自分では解決できない問題には関わろうとしないどこか冷めた性格の持ち主です。

そんなヅカでしたが、自分が好意をいだいているエルが何か問題を抱えているのが分かるとヅカはどんな手段を使っても問題を解決したいという気持ちを持ち始めます。

ヅカがエルに持っている感情が友情なのか恋愛なのか分からなく葛藤している様子が住野よるチックでけっこう好きな話です。

あと個人的に仲良くなったパラとヅカのやりとりなんかもほほえましくていいなと思いました。


か↓く←し↑ご→と


『か↓く←し↑ご→と』の主人公であるエルの特殊能力は、他人の恋心が誰に向かっているのか分かるというものです。

この特殊能力をみて『か1く2し3ご4と』でエルがパラにヅカに近づきすぎないように注意していた理由に納得がいきました。

この物語は京くんとミッキーがハッピーエンドを向かえますが、その二人の間でエルが四苦八苦するという物語です。

物語の中でエルが10年後の京くん、ヅカ、ミッキー、パラに手紙を書くシーンがありましたが、エルの手紙だけではなく他の4人がお互いにどう思っているのかという手紙も読んでみたいですね。

エルの能力はヅカからエルに矢印が伸びていないことから自分に対する好意は見ることができないということが分かりますが、将来的にヅカから告白された時にエルがどういった反応をするのかが気になりますね。


あと本編とは直結しないけど仲のいい京くんをいじめているエルがとてもかわいいなと感じてしまいました。エルて大人しそうな性格にみせかけて実は小悪魔的なところがありますよね。


最後に


『か「」く「」し「」ご「」と』は大人になってから読んでも青春時代を思い出させてくれる良い作品でした。

裏表紙のQRコードから番外編も読むことができるのでまだ読んでない方はぜひ読んで見てください。





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森見登美彦さんの『四畳半タイムマシンブルース』を読みました。

四畳半神話シリーズの16年ぶりの新作ということでしたが、当時の登場人物のイメージを崩さない笑える作品でした。



『四畳半タイムマシンブルース』のあらすじ


8月11日の炎熱地獄と化した真夏の京都で、学生寮の唯一のオアシスである「私」の部屋のエアコンが動かなくなった。

エアコンが動かなくなった原因は、妖怪のごとき悪友である小津がエアコンのリモコンを水没させたことが原因だ。

エアコンを失ったことでこの夏をどう乗り越えようと、「私」が想いを寄せるクールビューティ明石さんに相談していると、ガラクタだらけの廊下で某青い猫型ロボットが登場するアニメででてくるタイムマシンを発見した。

試しにダイヤルを昨日に合わせて、小津を乗せてみたところ、小津は本当に昨日にタイムスリップしてしまった。

「私」の天才的なひらめきから、タイムマシンを利用して過去から壊れる前のエアコンを回収することになった。

しかし、この安易な考えが原因で宇宙消滅の危機につながる…。


感想(ネタバレあり)


本作は「四畳半神話体系」と「サマータイムマシン・ブルース」のコラボ作品となっています。

私は「サマータイムマシンブルース」を見たことがないため、そちらについてはどれぐらいリスペクトしている作品なのかが分からないのですが、四畳半神話体系の続編という点から見ると登場人物のイメージをくずさない良い作品でした。

四畳半神話体系と同じように主人公である「私」は、常に想い人である明石さんのことばかり考えて一人で色々と葛藤しているし、明石さんは天然な感じだがどこか不思議な魅力がある人だし、悪友の小津は相変わらず不気味で人の不幸を幸せに感じる人物だし、樋口さんなんか25年後でもまだ寮に住んでいるみたいです。

変な登場人物ばかりだけどやっぱり四畳半神話体系っていい作品だなと感じさせられました。


原案の「サマータイムマシン・ブルース」でも、エアコンのリモコンのために昨日と今日だけをタイムトラベルするという物語みたいですが、せっかくタイムマシンを見つけたのにこんなに小さいスケールのことしかしないというところが、四畳半神話とマッチしていていいコラボ作品になった気がします。


一つ本作を読んでいて気になったことがありました。

物語の中で樋口さんは愛用のシャンプのヴィダルサスーンを盗まれてしまいます。

ヴィダルサスーンを盗人から守るために、タイムトラベルした樋口さんは、昨日の樋口さんからヴィダルサスーンを盗みますが、そもそも最初に樋口さんのヴィダルサスーンを盗んだのは誰なんでしょうか?

樋口さんもヴィダルサスーンを盗まれることがなければ過去の自分から盗むなんてことをしないはずなので、原点にもどると「私」が間違えて持って帰っていたりして。





物語の最後で明石さんが「みんながどれだけ好き放題をしても過去は変えられない」と語っています。

これは、ある程度どの時間軸でどのようなことが起きるのか大筋が決まっているため、誰がどんな行動をしても運命は変わらないという解釈でよいのかな。



明石さんが「四畳半神話体系」と「タイムマシンブルース」の映画を新作で撮りたいという感じで物語は終わりましたが個人的にこの終わり方は結構好きです。

妄想になりますが四畳半神話大系も四畳半タイムマシンブルースも「私」や明石さんなどの物語に登場してきた人物が撮影してきた作品という風にも考えることができますね。


最後に


またいつの日か今回みたいなかたちで四畳半神話大系が他作品とコラボということで復活してほしいな。

「サマータイムマシン・ブルース」もAmazon Primeで見れるみたいなので一度見てみよう。






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三秋縋さんの『君の話』を読んだので感想を書いていきます。

三秋縋さんの作品は『三日間の幸福』しか読んだことがありませんが、『君の話』は初版がすぐに完売しその後重版をつづけているという人気作であるため読む前から期待が高まっていました。

表紙のイラストも美しく、イラストを描いた紺野真弓さんのファンになりそうです。



『君の話』のあらすじ


二十歳の夏、僕は一度も出会ったことのない女の子、夏凪灯花と再会した。

彼女との思い出は全て架空。架空の青春時代、架空の夏、架空の幼馴染。

夏凪灯花は記憶改変技術によって僕の脳に植えつけられた<義億>の中だけの存在であり、実在しない人物のはずだった。

「君は、色んなことを忘れてるんだよ」と彼女は寂しげに笑う。

「でもね、それは多分、忘れる必要があったからなの」

これは恋の話だ。その恋は、出会う前から続いていて、始まる前に終わっていた。


感想(ネタバレあり)


読み終わった直後の感想は、夏が終わってほしくないと思いました。夏がいつまでも続けば感動的な本作をいつまでも楽しむことができるのに…。

物語の終盤では主人公に感情移入してしまい涙がとまりませんでした。小説を読んでここまで泣いたのは久しぶりだと思うぐらい泣いてしまいました。喫茶店で読んでいたため周りの人には変な人に見えただろうな。

『君の話』は、三秋縋さんの作品を読んだことがない人でも恋愛小説や恋愛ドラマが好きな人ならば楽しめる作品となっています。また三秋縋さんの文章の特徴として物語上で難しい言葉が出てきても解説などがはいるため読みやすい作品となっています。


以下ネタバレを含みますので本作をまだ読んでいない人は物語を楽しんでから読んでください。





















もし現実で記憶改変技術が実現しており自分の記憶の中に<義億>を植え付けることができるとするのならばあなたは義億を植え付けたいと思いますか?

私は、植え付けてみたいです。植え付けてみたいといっても、本作の主人公である天谷千尋の両親のように義億が生活の中心となってしまうほど義億に溺れたくはありません。

ただ自分に自信をつけるための成功体験や自分が昔やり残したことに近い義億を新たに手に入れることができるのならばほしいです。


<義億>というテーマについて


本作のテーマである<義億>はとても面白い題材思います。義億は、同じものであったとしても人によって良いものになったり悪いものになったりするものでしょう。天谷と灯火が同じ義億を持っているのにそれぞれその義億に対する考えが違うのが良い例です。

天谷千尋は、これまでの虚無であった人生の記憶を消すレーテを処方したつもりが実はグリーングリーンを処方させられており、自分が望んでいない義億を手に入れてしまいます。

最初のうちは天谷にとってグリーングリーンの義億は悪いものでしたが、ある夏の日に架空の存在しないはずの少女にであったことをきっかけに義億に対する考え方が少しずつ変化していきます。

一方、天谷に処方したグリーングリーン(正確にはボーイミーツガール)を作成した夏凪灯花(本名じゃないけど)にとってこの義億は小さいときから自分が憧れていた幼馴染との生活を義億化したものであり灯火にとっては理想的なものでした。

片方が良い思いを持っているのにもう片方が悪い思いを持っているということは、現実の記憶にもありそうですね。『君の話』が現実には存在しない<義億>というものを取扱っているのに現実の話であるように感じるのは、義億と記憶は変わらないものであるということを綺麗に表現できているからだと私は思います。


天谷と灯花の嘘


天谷と灯花は、二人が普通に生きていれば出会うことのない関係でした。灯花の嘘から作られた義億をきっかけに二人の関係は進んでいきます。

基本的に嘘をつくことはあまり良いことではないと思いますが、灯花と天谷がお互いについていた嘘は悪い嘘ではなく優しい嘘であるためこういった嘘であるのならばありなのかもしれません。

誰もがこんな嘘であるならば自分も騙されてみたいと思うのではないのでしょうか。


最後に


『君の話』は読了後、本当に読んで良かったなという作品になりました。ここまで本記事を
読んでくださった人の中でまだ本作を読んでいない人はぜひ読んでください。

今考えたら<義億>って小説などの物語に似ている気がしますね。私たちは記憶改変技術がないかわりに物語を読むことで自分にはない経験をして新しい義億を作り出しているのかもしれませんね。

三秋縋さんの作品はとても面白かったのでこれを機会に次は『恋する寄生虫』とか読んでみようかな。

『恋する寄生虫』も読みました。感想を書いているのでよかったら読んでください。








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三秋縋さんの『恋する寄生虫』を読みました。

一見ありきたりな恋愛小説ですが、読んでいると寄生虫という題材をすごく上手に扱っていると分かる作品でした。

また、結末が個人的にはけっこう衝撃的でした。



『恋する寄生虫』のあらすじ


失業中の青年、高坂健吾は極度な潔癖症で人と触れ合うことができない。

そんな高坂の唯一の趣味はコンピュータウイルスを作成することだ。

ある日彼がコンピュータウイルスを作成しているのが和泉という男性にばれてしまい、警察に突き出される代わりにある依頼を受けることになる。

その依頼とは、不登校の少女・佐薙ひじりと仲良くなれというものだった。

共通点が多い高坂と佐薙は次第に惹かれあい、やがて恋に落ちる。


しかし、この幸せは長くは続かない。

二人の恋は、彼らの体の中に潜む寄生虫によってもたらされた「操り人形の恋」に過ぎなかった…。


感想(ネタバレあり)


スタートラインに立てない社会不適合者


高坂は潔癖症で失業中、佐薙は視線恐怖症で不登校ということでこの物語に出てくる主人公とヒロインは脅迫障害が原因で日常生活に支障を与えています。

一般的な人からすると潔癖症なんて豆に手洗いや掃除をするぐらいでただの綺麗好きという印象が強いかもしれませんが、潔癖症がひどい人はそんなレベルではないということが本作を通して分かりました。

一方、佐薙の視線恐怖症も人と目を見て話すことができない、周りからの目が気になるなど人だらけの世の中で生きていくにはなかなか辛そうです。

彼らは好きで脅迫障害になってしまったわけではないので、それだけが原因で社会に出ることができないことを考えると社会の理不尽さを感じてしまいます。

高坂も佐薙も知的であり一般的に見れば有能な部類の人たちなので欠点だけではなく長所を見ることが大切なんでしょうね。

脅迫障害もそれぞれの個性だと捉えて、差別をするのではなくそういう人たちでも生きやすいように世の中変えていく必要があるということを本作を通して感じました。(高坂とか完全リモートな仕事に着いたらすごく有能そうな気がします。)





操り人形の恋


社会に溶け込むことができない高坂と佐薙は、互いの似た境遇に惹かれあい恋に落ちます。

しかし、この恋は彼らの中に住む寄生虫が引き起こしたものでした。

これを読んですごい設定だなと思いましたが、実は現実にもこのような寄生虫がいるのかもしれません。

異性の中で好みな人の声や香りがありのも実は私たちの中に寄生虫が潜んでいて恋愛衝動を起こしているのかも…。世界の多くの夫婦は寄生虫の影響を受けていたり…。


作中で和泉や爪実は寄生虫によるまがいものの恋は薬で治すべきだと考えていますが、佐薙が物語の中で言っていた通りまがいものでも自分の意志で身を任せて幸せなのなら、操り人形でも悪くないのかもしれません。

人に自分の意志で恋するのと自分の意志で寄生虫に任せて恋することの何が違うのか聞かれたらすごく難しい問題ですよね。

結局、自分の意志とはなんなんでしょうね…。



ラストシーンについて


この物語の結末は、高坂と佐薙が結ばれて今後も仲良くやっていくよといったハッピーエンドではありません。

もし、物語をハッピーエンドで終わらせたいなら296ページの「高坂はゆっくりと目を閉じた。」という言葉で高坂の身の視点で描かれた物語として本作は終わっていたでしょう。

しかし、作者の三秋縋さんは最後に佐薙視点で物語を描きました。

最後に佐薙視点で物語を書いた理由は、佐薙が寄生虫を失っても高坂に恋をしていることから、人間は寄生虫に一方的に操られているわけではなく自分意志で生きているんだということを読者に教えたかったからだと私は考えています。


次に高坂が目を覚ました時かもう少し先かは分かりませんが、物語の結末から佐薙が近いうちに高坂の前から姿を消してしまうことが明白です。

佐薙を失った高坂のことを考えると「恋する寄生虫」は本当に切ない作品ですね。


最後に


「恋する寄生虫」は色々と考えさせられて非常に面白い作品でした。

三秋縋さんの作品ってライトノベルのように読みやすいのにメッセージ性が深いという不思議な作品が多い気がしますね。


また、恋する寄生虫は2021年には林遣都と小松菜奈主演で映画化されるみたいなのでそちらも楽しみです。

公開されたら絶対に見に行こう!






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住野よるさんの『また同じ夢を見ていた』が文庫化されていたので読んでみました。

『また、同じ夢を見ていた』は住野よるさんの2作目の小説です。

まだ、住野よるさんの作品は、『君の膵臓をたべたい』しか読んだことがありませんでしたが前作とは少し毛色の違う感じの物語でおもしろかったです。



『また、同じ夢を見ていた』のあらすじ


「人生とは和風の朝ごはんみたいなものなのよ」小柳奈ノ花は「人生とは~」が口癖のちょっとおませな女の子。

そんな彼女はある日、草むらで一匹の猫に出会う。

そしてその出会いをきっかけに奈ノ花は、とても格好いいお姉さんの"アバズレさん"、手首に傷がある"南さん"といった、様々な過去を持つ女性たちと出会います。

大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の住野よるが贈る、幸せな物語。


感想(ネタバレあり)


『君の膵臓をたべたい』とはまた違う住野よるさんの独特な世界観が広がっていてとても面白い作品でした。

一度読み終わった後、気になる箇所がいくつかありすぐにもう一度読み直してしまいました。読めば読むほど味がでてくるまるでするめのような作品です。

複数回読むことで一度読んだだけでは気づくことのできなかった真実にたどりつけるでしょう。

この作品は「幸せとは何か?」という疑問をひも解く物語ですが、一度だけではなく二度以上読むことで南さん、アバズレさん、おばあさん、小柳奈ノ花自身の幸せを見つけることができます。

また小柳奈ノ花の「人生とは~」から始まる口癖も少しませてみたい年頃の奈ノ花自身を表現できていて、なおかつそれだけではなく言葉の意味を考えると深い言葉になっているのも良かったです。

物語中でたびたび奈ノ花が歌う「三百六十五歩のマーチ歌」も本作のテーマにあっていました。


以下物語の中身についての感想になります。


物語の序盤で私は、奈ノ花、南さん、アバズレさん、おばあちゃんの四人が同一人物であるということに全く気が付きませんでした。序盤から察したという人はあまりいなさそう…。

私は、南さんがいなくなる場面でやっとこの四人が同一人物だったということに気が付きました。

南さんがいなくなる前に奈ノ花に「人生とは、自分で書いた物語だ。推敲と添削、自分次第でハッピーエンドに書きかえられる」というセリフを残しました。

このセリフで人生のある場面で間違った選択をしてしまった奈ノ花が小学生の奈ノ花自身にターニングポイントでミスを犯さないためのアドバイスをしに来てくれていたのだと分かりました。


南さんの幸せの答え


南さんは授業参観に来れなかった親に対して酷い言葉を投げかけてしまい、その後親が事故で亡くなってしまったため謝る機会が一生来なかった奈ノ花です。

南さんは、謝らないまま両親がなくなったことを悔いてリストカットをしてしまいます。

南さんが小学生の奈ノ花に親にどんなことがあってもしっかりと謝るようにしろということを教えてくれたおかげで、小学生の奈ノ花は親に謝ることができ南さんとは別の世界線の奈ノ花として生活を送ることができます。


南さんにとっての幸せの答えは「自分がここにいていいって認めてもらうことだ」です。

両親を亡くし孤児になった南さんは、自分を認めてくれる存在がいなくなったのでそれを取り戻したかったのでしょう。


アバズレさんの幸せの答え


アバズレさんは桐生君のお父さんがスーパーで泥棒をしたことをきっかけに、クラスメイトと喧嘩し、無視されるようになってしまった後関係を修復できなかった奈ノ花です。

クラスメイトと喧嘩した後の奈ノ花はアバズレさんに「誰とも関わらずに生きていく」と相談しに行きますがアバズレさんは奈ノ花が今後一人で生きていくとどういう道をたどるのかが分かっているため「それは駄目」と反対します。

アバズレさんが奈ノ花に人と関われば奈ノ花とアバズレさんのような素敵な出会いが起こることがあるかもしれないということを教えたおかげで、奈ノ花は一人で生きていくのではなくもう一度桐生君のもとを訪れて一人ぼっちではない人生を選択します。


アバズレさんが考える幸せの答えは「誰かのことを真剣に考えられるということだ」です。

他人と関わることがなくなったアバズレさんは色々なものを失ってただ奈ノ花と出会ったおかげで誰かと一緒に過ごすことの幸せさを思い出したのでしょう。





おばあちゃんの幸せの答え


おばあちゃんは、桐生君と向き合うことはできたが関係を修復できずに傷つけたことをずっと後悔しているなのかです。おばあちゃんは桐生君とは恋愛関係にはなることができませんでした。

おばあちゃんのアドバイスを聞いたおかげで小学生の奈ノ花は桐生君との関係を修復することができ、桐生君にとっての幸せとは何であるのかを聞くことができます。

桐生君の『僕の幸せは、僕の絵を好きだって言ってくれる友達が、隣の席に座っていることです。』というセリフを隣の席で聞けて幸せにならない人なんていなさそうですね。


おばあちゃんの考える幸せは「今、私は幸せだったって、言えるってことだ。」です。人生を長く生きていたおばあちゃんだからこそ気が付くことができる幸せのこたえですね。

ところで、おばあちゃんいつ奈ノ花が自分自身であると気が付いたのだろう?


奈ノ花が見つけた幸せの答え


最終章でいままでの物語は奈ノ花が見ていた夢であると分かります。奈ノ花は南さん、アバズレさん、おばあちゃんの三人のアドバイスのおかげで幸せな人生を歩むことができました。

奈ノ花の考える幸せは、「幸せとは、自分が嬉しく感じたり楽しく感じたり、大切な人を大事にしたり、自分のことを大事にしたり、そういった行動や言葉を、自分の意志で選べることです。」というものです。

三人の幸せをまとめた奈ノ花らしい素晴らしい幸せの答えですね。



最後に


本当に素晴らしい作品でした。多くの若い人にこの作品を読んでもらいたいですね。

『また、同じ夢を見ていた』を読んであなた自身の幸せを見つけることができましたか?

もし見つけられなかった人はゆっくりでもいいので奈ノ花のように素敵な自分だけの幸せの答えを見つけてください。


久しぶりに住野よるさんの作品を読みましたがやっぱり面白かったです。まだ読んでいない作品を読む前に『君の膵臓をたべたい』を久しぶりに読み返そうかな。





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