としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:住野よる

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住野よるさん『腹を割ったら血が出るだけさ』を読みました。

最初は周りを気にしてばかりいる人間を描いただけの作品だと思いながら読んでいて、なかなか読み進みませんでした。

しかし、読んでいるうちに実際に今の若者の多くはSNSなどでこの登場人物たちのように自分を偽っているのかもなと考え始めることができなかなかおもしろかったです。

人によっては合わないと感じる人も多いのかもしれませんが、個人的には満足できる作品でした。

以下、あらすじと感想になります。



『腹を割ったら血が出るだけさ』のあらすじ


茜寧は世間一般から見れば他の女子高生たちと同じような趣味や好みを持ち、友達や恋人に囲まれ充実した高校生活を送っている少女だ。

しかし、そんな平凡な彼女は「愛されたい」という感情のために自分を偽って生きているにすぎない。

友人との会話でも友人が自分のことを好きになってくれるように考えながら発言や口頭をしている。

愛されたいという感情に囚われながら生活をしていた茜寧だったが、「少女のマーチ」という小説に感化されいつか自分を理解し受け入れてくれる人が出てきてくれるかもしれないと思うようになる。

そんなときに「少女のマーチ」に登場するアイそっくりの逢に出会う。

逢が自分を受け入れてくれる人物だと感じた茜寧は、「少女のマーチ」の物語になぞらえるように逢との仲を深めようとする…。

自分を偽る茜寧、真実しか考えない逢、過去を塗り替えたアイドル樹里亜の考え方が違う三人の物語が交差する青春群像劇。




感想(ネタバレあり)


個人的にこの作品は表面的だけを読めば浅いけど、深く考えれば現代人の悩みを表現している作品だなと思いました。

現代を生きる人の多くはSNSや普段の生活でどこか自分を偽りながら生きています。

そんな生活を送る中、心のどこかで自分を偽りながら生きることに嫌気を感じている人は少なくないのかもしれません。

この作品はそんな人たちに「自分を偽ることは悪くない。無理に腹をわらなくてもいい。」ということを住野よるさんなりに伝えようとした作品だと私は感じました


本作の登場人物である茜寧、樹里亜それと逢はそれぞれ違う生き方をしています。

茜寧は人から愛されるために現在進行系で自分を偽りながら生きています。

樹里亜はアイドルとして多くの人に愛される存在になるために過去の自分を亡かったものとして、今のボーイッシュな性格が本来の自分であると偽り生きています。

一方、逢は自分が好きな服を着たりするなど自分に正直に生きています。

偽りだらけの生活を送っている人からしてみれば、逢のように自分をさらけ出して生きている人は偉いと感じるかもしれません。

しかし、茜寧や樹理亜のように自分を偽りながら生きるのは悪いことではないと思います。

茜寧は愛されるために自分を偽って生きていることに苦しんでいますが、物語の最後では愛されるために生きているのも真実の自分だと理解し、偽ることに心を痛めながらも自分の生き方を受け入れようとします。

樹理亜も過去の自分が褒められることを今の努力が否定されているという風に苦しみながらも、最終的にはアイドルとして受け入れてもられるなら過去も現在もどんな生き方をしていても自分は自分だと前向きな気持ちで歩み始めます。

この二人のように自分が幸せに過ごすことができるのなら無理に腹を割って生きようとしなくてもいいのではないのでしょうか。

茜寧や樹理亜にとっての逢のように本当に困ったときに腹を割れる存在さえ作ることができれば、自分を偽っていても幸せに生きることができるように思います。



まとめ


『腹を割ったら血が出るだけさ』は今までの住野よるさんの作品以上にターゲットを悩める若者にしぼっている作品だと思いました。

腹を割ることができず偽りだらけの自分に苦しんでいる人は共感できる作品だし、それ以外の人たちにとってもそういった人たちの気持ちを理解できると思うのでぜひ読んでみてください。




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住野よるさんの『よるのばけもの』を読みました。

最初は、少年が夜になると化け物に変わってしまうということで、ファンタジー要素が強い作品を想像していました。

しかし、読み進めていくとすごく現実的な作品であることが分かり色々と考えさせられました。

以下、あらすじと感想になります。




『よるのばけもの』のあらすじ


夜になると、僕は化け物になる。

寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。

化け物になるようになった日から、僕は夜眠ることができない。

ある日の夜、いつものように化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍び込んだ。

夜中だし誰もいないと思っていた教室には、なぜかクラスメイトでいじめられっ子である矢野さつきがいた。

彼女は、僕のことを見ると少しだけ驚いた様子を見せて「何し、てんの?」と問いかけてきた。

僕が自分のロッカーを漁っていたのもあって、彼女に僕の正体がばれてしまった。

その日から僕は、彼女に正体をばらされないという条件と引き換えに夜の学校に通い、彼女と夜の休み時間をともに過ごすようになる。

彼女と過ごし、彼女のことを理解していくうちに、この世界について僕にある疑問が湧いてくる…。

この物語は『今』を変えていく、少年の小さな勇気の物語。



感想(ネタバレあり)



本音が言えない世界


『よるのばけもの』に登場する多くの人物は主人公のあっちー君をはじめ、世界のあり方(この物語での世界とはクラスのこと)について疑問を持っており、その疑問の正体を知っているにも関わらず本音を言えません。

なぜ本音を言えないかというと、少しでも周りと違うことをしてしまうと、共感の意識の輪からはじかれてしまうからです。

本作では、ヒロインの矢野さつきがクラスでいじめられています。

矢野さつき以外のクラスメイトは、矢野さつきはいじめの対象だという仲間意識を持つことで自分がのけ者にされることを防ごうとしています。

物語中では、矢野のクラスメイトである井口がうっかり矢野の落とし物を拾ってしまっただけでいじめの対象になりました。

住野よるさんは、若者をはじめ多くの人たちに嘘とたてまえだけで過ごしていて、本音が伝えられない世界には違和感があるということを伝えたくてこの物語を書いたのではないのでしょうか。

人間は一人で生きることができず、それが原因で無駄な仲間意識が生まれ、私たちは本音が言えず苦しんでいるということを痛感させられました。


いじめは誰が悪い?


『よるのばけもの』ではいじめというテーマを扱っていましたが、いじめって結局誰が悪いのかということを改めて考えさせられました。

いじめには、被害者、加害者、傍観者という三役があります。

本作を読んでいるといじめで一番怖いのは、直接的にはいじめには参加しないが、陰でこそこそと参加していたり、見て見ぬふりをしている傍観者が一番怖い存在だと個人的には感じました。

もし傍観者たちが矢野をいじめている現場を白けた目で見たり、注意することができれば矢野に対するいじめはすぐにおさまったと考えられます。ただ、傍観者がこういった行動をできないのも根本にはスクールカーストというものがあるからなんでしょうね…。

多くの傍観者から見たら、誰かがいじめられていて自分の安全が確保されているような環境がいいクラスだと感じている場合もあるので、いじめの問題って本当に難しいなと改めて感じさせられました。


どうして笠井は悪い子と言われた?


緑川からクラスの中心人物である笠井に対して、「笠井くんは悪い子だよ」というセリフがありました。

なぜ笠井はこのようなことを言われたのでしょうか?

結論から申し上げますと、笠井が緑川のことを好きといった嘘の想いをクラスメイトに認識させることで矢野へのいじめを起こしたからです。

作中では直接言及していませんが笠井は緑川のことをおそらく好きではないでしょう。緑川のことを好きと認識させておけば、緑川の本を投げた矢野に対するいじめが起きると考えたゆえに笠井はこの嘘を貫き通しています。

私は、笠井という人物は陰で人を自分の思うように操ることができるのを見て楽しんでいるタイプの人間だと思っています。

そのため、笠井は矢野からも「頭がよ、くて自分がどうす、れば周りがどう動、くか分かって遊んでる男、の子?」という風に表現されたのでしょう。


あっちー君の今後


物語はあっちー君が矢野に挨拶した場面で終わっています。

この終わり方は、正直ハッピーエンドとは言うことができません。

少なくとも今後あっちー君は、矢野や井口のようにクラスメイトからいじめの被害にあうのでしょう。

矢野に挨拶しただけで工藤があっちー君から席を遠ざけたりして、あっちー君が世界の真理にきづいたところでこの世界はこれまで通りと変わらないことが想像できます。

ただ、あっちー君は矢野と違って一人ではありません。あっちー君には矢野がついていて、矢野にもあっちー君がついています。

もしかしたらあっちー君が矢野に挨拶をしたことをきっかけに、緑川と矢野が仲直りできたりすることもあるかもしれません。

あっちー君一人が気が付いただけでは、なかなかクラスの仲間意識を変えることができませんが、行動に移したことでもしかしたら世界がいい方向に向かっていくのかもしれませんね。



まとめ


『よるのばけもの』は人間関係が難しい現実世界で本音を話せるようになるためにはどうしたらいいのかを考えさせられる作品でした。

あっちー君のように間違った仲間意識に気が付くことができる人間が一人でも増えて、この世界からいじめなどが少なくなることを祈るばかりです。





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知り合いに劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』の入場者特典である『父と追憶の誰かに』を譲っていただきました。

本作は30ページほどの短編ですが、『君の膵臓をたべたい』の主人公である春樹の後日談となっています。

以下、あらすじと感想になります。ネタバレも含みますので未読の方はご注意ください。



『父と追憶の誰かに』のあらすじ


平凡な家庭環境で育った平凡な高校生である"ふゆ"は平凡が嫌いだ。

毎日続く平凡な日常に飽き飽きしていた"ふゆ"に平凡ではない出来事が起きた。

その出来事とは、彼女の父親が浮気をしているかもしれないということだった。

平凡な会社員である彼女の父は、女性の名前には常に「さん」を付ける。

しかし、"ふゆ"はある夜父が電話で女性の名前を呼び捨てにしているのを聞いてしまった。

ふゆは父が浮気をしている可能性があることにショックを受けつつも、それ以上に裏でワクワクしてしまう。

そんな彼女は、父の浮気現場を抑えるために休日の父を尾行することを決意する。

はたしてふゆの父は浮気をしていたのだろうか…。



感想(ネタバレあり)


『君の膵臓を食べたい』を読んだ身として、春樹が桜良を失ったあとどのような人生を送っていたのかがすごく気になっていたので『父と追憶の誰かに』を読めてよかったです。

物語の後日談が書かれる作品ってあまりありませんが、大好きな作品の後日談が読めるとやっぱり嬉しいですね。

本作の主人公である、ふゆは春樹の娘でした。

春樹が結婚して子どもができていたということが分かったときはなんだかおかしな話ですが感動を覚え、息子を見送った父みたいな気分になりました。

人嫌いだった春樹が結婚できたのも桜良と関わったおかげでしょうね。


本作は、春樹が浮気を疑われて娘に尾行されるという物語でしたが、実際は春樹が桜良の兄の娘と一緒に墓参りに行っていただけでした。

桜良を失ってから、10年、20年ほどたっても墓参りにいっていることから、春樹にとって桜良との出会いは春樹の人生を変える重要な出来事だということを改めて再認識することができてよかったです。

兄の娘と仲が良いことからも山内家と春樹の付き合いは今でも続いているんでしょうね。


また、春樹が現在出版社で働いているということを知り、その職を選んだ理由は共病文庫の影響なのかなとか一人で想像してしまいニヤニヤしてしまいました。

本作は、本当に短い作品でしたが桜良との出会いが春樹の人生を変えた事実が描かれていてよかったです。



まとめ


『父と追憶の誰かに』を通して『君の膵臓をたべたい』の主人公である春樹が後日どうなったのかを知ることができて良かったです。

住野よるさんの作品が映画化されるたびにこういう作品を書いてほしいと期待してしまいますが、『青くて痛くて脆い』ではこのような特典がなかったのでないのかもしれませんね。

本作もアニメ映画の特典なので、劇場アニメ化したら再びこういう作品を書いてくれることに期待したいですね。






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住野よるさんの『麦本三歩の好きなもの 第二集』 を読みました。

一巻目読んだ時点でもう続編はでないのかなとかなんとなく思っていたので、発売を知ったときはむちゃくちゃ嬉しかったです。

以下、あらすじと感想になります。



『麦本三歩の好きなもの 第二集』のあらすじ


図書館勤務3年目に突入した、20代女子の麦本三歩。

3年目になっても相変わらず仕事ではミスが多く、すぐにぼんやりとする癖が抜けない。

しかし、そんな三歩にもとうとう後輩ができた。

だが、後輩は三歩とうってかわって、真面目でしっかりものの女子!!

三歩はそんな後輩を前に先輩としての威厳を守ることができるのか!?


後輩との出会い以外も、合コンで新たな出会いがあったりなど三歩の社会人三年目は新しいことだらけだ。

しかし、出会いがあれば別れもある…。

心温まる日常小説が再び始まる。



感想(ネタバレあり)


もう再び三歩と会えるっていうだけでも、嬉しいのに内容もとても良かったです。

第一作目では、三歩が社会人一年目ということと第一作目ということも相まって、三歩の初めての社会人生活や三歩の自己紹介的な作品が多くありました。

今回の第二集では、趣味に関する話などもあるのですが、前作と比べると新しい出会いや別れに関する作品が多かった印象です。

第二集のテーマは個人的には『出会いと別れ』だと思っていたりします。



私たちと一緒に成長していく麦本三歩


「麦本三歩は焼売が好き」の冒頭で三歩が社会人3年目とみてこれだけでテンションが上がってしまいました。

第一巻が発売されたのが2019年で第二集の発売日が2021年だから、三歩も私たちと同じで2歳成長しているのです!!

サザエさん方式の世界や時系列が遅い作品では、巻が進むにつれて登場人物との年齢差ができてしまい少し悲しい気分になるのですが、麦本三歩シリーズはそうではないみたいです。

個人的に同じだけ年齢をとる作品って『アフロ田中』シリーズぐらいしかしたなかったので嬉しい!

第一巻では、三歩が私と同年代の人物ということもあり、なかなか共感ができる内容も多かったので、今後もこの共感を味わえると考えると夜も眠れませんね(三歩は寝るのが好きだけど)

もし今後も第三集、第四集と発売されることがあれば三歩も一緒に成長していくことになりそうですね。



三歩の新しい出会い


三歩の先輩や友人も相変わらずいいキャラをしていたのですが、第二集人物もすごく良かったです。

中でも個人的に特に新しい要素だなと思ったのが、「麦本三歩は蟹が好き」の合コンで初登場したお兄さんです。

「麦本三歩は東京タワーが好き」では、お兄さんとのデートで今まで先輩や友人の前では見ることができなかった三歩の新しい顔を見ることができました。

男性キャラが少ないのもありますが、お兄さんといる三歩も新鮮でかわいかったです。

デートでのフリーメイソンの下りは個人的にかなりツボに入り一人でむちゃくちゃ笑ってしまいました。

他の物語でもお兄さんの名前が明示的にはでてきませんが、LINEで連絡を取り合ったり、再度デートの約束をしていたりかなり親しくしているのが分かります。

第三集でお兄さんと三歩がどのように発展するのかに注目ですね。

巻が進んで三歩とお兄さんが子育てする話などがあればかのり癒される気がします(笑)





先輩との別れ


第二集では、三歩にたくさんの出会いもありましたが、悲しい別れもありました。

それは、怖い先輩との別れです。

結婚し、妊娠したことで怖い先輩は図書館をやめることになりました。

社会人としてずっと働いていたら、同期も先輩も後輩もなんかしらの理由で会社を辞めていくことがありますが、3年目の三歩にとってはこれが初めてです。

私も三歩と同様にすごくお世話になった先輩が少し前に退職してしまったので、三歩の悲しむ気持ちが分かりすごく共感してしまいました。

怖い先輩が辞める前に三歩が一人でもやっていけるように認めるように一生懸命ミスをしないように働こうとしている様子は涙なしでは読むことができませんでした。

最後に怖い先輩に認めてもらえた三歩はとても嬉しくて、これからも頑張ろうと思えたんだろうな。

ただ、オチでタイトルの「麦本三歩は復讐ものが好き」を回収していて笑ってしまいました。今までの真面目なシーンはなんだったんだって感じでしたね(笑)


麦本三歩の日常シリーズって三歩が緩い感じだけど、まじめな内容もあってそのギャップが面白さを倍増させているんでしょうね。



第二集で一番好きな物語


第二集の全ての物語が面白かったのですが、個人的に一番を決めるとなると「麦本三歩は楽しい方が好き」がお気に入りです。

これほとんどの二十歳以上の方が共感できるよう内容なんでしょうけど、二日酔いになった日って三歩と同じように酒を止めると誓ってしまいますよね。

「もう、二度と酒いらない・・・。」
『麦本三歩の好きなもの 第二集』より

誓ったにもかかわらず数か月後には同じ失敗をしてしまうという…。

全人類から共感されてしまうような内容もあいまってこの話が一番好きです。



まとめ


第二集も三歩に癒されまくりました。

最近の日常小説では麦本三歩シリーズがナンバーワンの作品ですね。

第二集が出たばかりで気が早いですが第三集の発売が楽しみです。







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住野よるさんの『麦本散歩の好きなもの』を読みました。

今までの住野よるさんの作品は学生を主人公とした作品ばかりでしたが、今回は新卒の社会人が主人公となっており、若い人から大人まで楽しめる作品でした。ただ、普段のテイストとは少し異なる作品であるため人によっては物足りなく感じるかもしれません。

本作は図書館勤務の新卒女子、麦本三歩のなにげない日常のショートストーリーが描かれている作品です。

タイトルが『麦本三歩の好きなもの』ということで、各ショートストーリーのタイトルが "麦本三歩は歩くのが好き "、"麦本三歩は図書館が好き" といいった風に "麦本三歩は~~が好き" という風になっており、麦本三歩が好きな色々なものについて語られています。

読み進めていくにつれキュートな麦本散歩の日常に癒されまくりました。

以下、あらすじと感想を書いていきます。




『麦本三歩の好きなもの』のあらすじ


図書館勤務の20代新卒女子、麦本三歩のなにげない日々を三人称で描いた日常短編小説です。

麦本三歩の好きなものは朝寝坊とチーズ蒸しパンと本。性格は、ぼうっとしていて、おっちょこちょいで少し間抜けです。

彼女の周りは優しい人やおかしな先輩、怖い先輩など様々な人がいて三歩は日々翻弄されています。

この小説は特別な物語ではなく麦本三歩の当たり前の毎日を面白おかしく描いています。



感想(ネタバレあり)



キュートな麦本三歩


本作の主人公である麦本三歩はどこにでもいる普通の女性を描いていますが、なぜかとてもかわいらしく感じてしまい、魅力的です。

多くの読者が麦本三歩の可愛らしさに惹かれてしまったのではないのでしょうか。

私は、本作を読み進めていくにつれて麦本三歩のかわいらしさの虜にされてしまい、読み終わったころには麦本三歩のような友達がほしいと感じてしまいました。

麦本三歩には私たちが日ごろ当たり前だと思っている行動に対しても、好きになることができるポイントを見つけることができる力があります。

例えば作中で麦本三歩が紅茶を飲み、スーパーに売っているチーズ蒸しパンを食べているだけで幸せだと感じるシーンがあります。

こういった行動も初めて実行したときには私たちも幸せに感じるかもしれませんが、ルーティンにしてしまうと当たり前のことだと思い幸せには感じなくなってしまうでしょう。

しかし、麦本三歩ならばそんな当たり前の日常ですら毎日のように幸せであると感じることができます。

このように、あたりまえのことを幸せに感じることができる女性で、毎日を楽しそうに生きているからこそ、私たちは麦本三歩を可愛いと感じてしまうのでしょう。


また、麦本三歩には少し大食いであり、少しドジであるという二つの特徴があします。多くの人はこういった特徴を持つ人をかわいいと思ってしまう傾向があるのではないのでしょうか。

もちろん、ただ大食いだから好きになるのではなく、幸せそうに食事をしている描写が多いというのもあるとは思います。ドジなのもおかしな先輩のように好きではないと感じる人もいるかもしれませんが、多くの人は怖い先輩のようにかわいい奴だなと感じるでしょう。






『麦本三歩の好きなもの』の魅力


本書の魅力は先ほど述べた麦本三歩のかわいらしさもあると思いますが、それ以上に主人公が普通の女性であるため読んでいて共感ができるというところにあると思います。

たとえば "麦本三歩はモントレーが好き" では三歩は朝通勤しようとはしたもののなんとなく仕事に行きたくなくなったという理由で仕事をさぼってしまいます。

しかし、仕事をさぼったはいいものの罪悪感から翌日以降ずるをしてしまったということで三歩は一人苦しむことになります。

多くの人が三歩のこの状況を見て、自分もそんなことが過去にあったなどと共感できるのではないのでしょうか。しかも本書ではこの悩みを解決するために、ひとつの解決案を提示しているので三歩に見習って読者も次からはそうしようということができます

主人公がどこにでもいそうな普通の女性であるがゆえに、読者が共感をしやすいというのが本書の魅力だと私は思います。




この作品が伝えたいこと


本作は麦本三歩の日常を描いている作品です。この作品を通して住野よるさんは、読者に好きなものが増えれば人生が楽しくなるということを伝えたかったのではないのでしょうか。

忙しい現代社会では意味を見出すことができない行動を無駄であると感じがちです。

しかし、三歩のように意味がない行動の中に魅力を見出すことができれば、その無駄だと思っていた行動をすることが楽しくなり、人生が今より少し豊かになるのでしょう。

忙しいからこそ、少しの時間を楽しめる人間になることはとても大切だと思います。

私も三歩のように朝でかけるまでのわずかな時間を幸せに感じたり、色んなスーパーにそれぞれの特徴を見つけてその日の気分で買い物をするような自分の生活を楽しむことができる人間になりたい。



最後に


当たり前の日常を描いている作品でここまでおもしろい作品を久しぶりに読んだ気がします。

男性目線からは三歩がすごく好きになったのですが、女性の読者は本作を読んでどんな風に感じたのかが気になります。

*追記(2021/02/27)
『麦本三歩の好きなもの』の第二集が発売されました!!

また、第一作が文庫化されたみたいです!!








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