としおの読書生活

田舎に住む大学院生であるとしおの読書記録を綴ります。主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にも旅行やパソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:住野よる

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住野よるさんの『か「」く「」し「」ご「」と』(以下かくしごと)が文庫化していたのでさっそく読ませていただきました。

登場人物にちょっとした特殊能力があるという点をのぞいては、他の住野よる作品と比べると重たいテイストの作品ではなく、青春の甘酸っぱい感じのテイストが強かったです。

以下、あらすじと感想を書いていきます。



住野よる『かくしごと』のあらすじ


『かくしごと』の主要人物は京くん、ミッキー、パラ、ヅカ、エルの高校生の男女5人組。

彼らにはそれぞれ、自分の心のなかにだけ秘めているかくしごとがあった。

高校生なら誰もがかくしごとの一つや二つはあるかもしれないが、彼らのかくしごとは少し特別なもの。

そのかくしごととは、人の感情が分かる特別な力を持つというものであった。

特殊能力は特別役にたつものではないけど、その能力が原因でお互いの感情の変化が気になってしかたがない。

お互いのもどかしい想いを描く甘くも爽やかな男女人の日常を描いた青春小説。



感想(ネタバレあり)


とにかく甘酸っぱい青春小説で、読了後にはこんな青春時代をすごしてみたかったと感じてしまいました。

住野よるさんの他の作品も若者向けの作品が多かったですが、今回は特に中高生に焦点を当てた作品だという印象が強かったです。

内容だけではなくタイトルもなんで『かくしごと』ではなく『か「」く「」し「」ご「」と』なんだと読み始める前は思っていましたが、読み終わったあとは遊び心があって面白いなと思いました。

以下、各物語の感想になります。


か、く。し!ご?と


『か、く。し!ご?と』の主人公である京くんの特殊能力は、人の頭の上に浮かぶ感情の記号が見えるというものです。

驚いて入れば「!」、疑問があれば「?」がうかぶというものです。

他の4人の能力と比べると少し見劣りするような気がしますが、人の本音を理解する能力と考えると意外と使えそうな気がします。


この物語は京くんが気になっている相手である、ミッキーがシャンプを変えたという内容で物語がはじまります。

ミッキーがシャンプを変えたことで京くんはミッキーに新しい彼氏ができてしまったのではと不安に思います。

普通女の子が使っているシャンプーを変えたとしてもよっぽど香りが強くない限り気がつかなさそうなのに、そんな些細な変化に気づく京くんはミッキーに夢中な恋する男子ですね。

シャンプの他にも古文でミッキーが答えた問題を覚えていたなど京くんがミッキーに夢中な描写が面白く描かれていてよかったです。

この作品で特に面白いと思ったのは、「ヅカ」と「大塚」のミスリードです。

以下のやりとりを見てミッキーはヅカが好きだったのかと思いましたが

「なんか、三木ちゃんね」
「うん」
「大塚くんのことが気になってるらしいよ」
p.44, 45より

最後のオチで「ヅカ」の本名は高崎博文で京くんの名字が「大塚」であると分かります。

このオチを読んでから途中の場面で京くんが落ち込んでいる思っていた部分が喜んでいた部分だと分かり笑ってしまいました。

初見の読者で騙されなかった人とかいない気がしますね。


か/く\し=ご*と


『か/く\し=ご*と』の主人公であるミッキーの特殊能力は、マイナスだったりプラスだったりする感情の動きが見えるというものです。

便利な能力だけど誰にでもまっすぐぶつかることができるミッキーにはあまり役にたたない能力です。

この物語はミッキーの進路についての悩みが描かれています。

中学からの友人のヅカやいつもはよく分からない性格をしているのに進路を決めているパラをみてミッキーは自分の将来に不安を持っています。

多くの高校生がミッキーのように将来が見えなく、自分がどうなりたいのか分からない人が多いのでこの小説の中で一番共感しやすい物語のように感じました。

パラとミッキーの友情がいい感じに描かれており、もし自分がミッキーの立場でパラのような友人がいたら同姓でも好きになってしまいそうです。


か1く2し3ご4と


『か1く2し3ご4と』の主人公であるパラの特殊能力は、人の鼓動のリズムが数字で見えるというものです。

こんな能力があるパラの前ではどんな嘘をついてもすぐに見抜かれてしまいますね。

パラはこんな能力を持っていることから鼓動が分かりやすく変化している、ミッキーや京くんのことが大好きです。

一方、鼓動に変化がない自分やヅカのことはあまり好きではありません。

そのためパラは万一に自分の大好きなミッキーが嫌いなヅカと幼なじみという理由だけでくっつかないようにするために興味のないヅカに自分のことをすきになってもらおうとアプローチします。

パラがミッキーのことを大好きなのは分かるけど、自分をもう少し大切にしたらいいのになと思ってしまいます。


この物語で個人的に好きなシーンはパラとヅカとのホテルの部屋でのやりとりです。

皆はパラのことをよく分からないパッパラパーのやつだと思っていますが、少し似たところあるヅカだけはパラが無理をしていることに気づいています。

このやりとりをきっかけにパラがヅカのことを王子様呼びしなくなるのに友情が生まれたことを感じることができますよね。






か♠く♦し♣ご♥と


『か♠く♦し♣ご♥と』の主人公であるヅカの特殊能力は、人の喜怒哀楽の感情が見えるというものです。

この物語は、ミッキーに友人として大好きな京くんをとられないようにしているエルの悩みをヅカが解決するという物語です。

今までヅカは自分の可能の範囲では、特殊能力を活かして問題を解決してきました。一方自分では解決できない問題には関わろうとしないどこか冷めた性格の持ち主です。

そんなヅカでしたが、自分が好意をいだいているエルが何か問題を抱えているのが分かるとヅカはどんな手段を使っても問題を解決したいという気持ちを持ち始めます。

ヅカがエルに持っている感情が友情なのか恋愛なのか分からなく葛藤している様子が住野よるチックでけっこう好きな話です。

あと個人的に仲良くなったパラとヅカのやりとりなんかもほほえましくていいなと思いました。


か↓く←し↑ご→と


『か↓く←し↑ご→と』の主人公であるエルの特殊能力は、他人の恋心が誰に向かっているのか分かるというものです。

この特殊能力をみて『か1く2し3ご4と』でエルがパラにヅカに近づきすぎないように注意していた理由に納得がいきました。

この物語は京くんとミッキーがハッピーエンドを向かえますが、その二人の間でエルが四苦八苦するという物語です。

物語の中でエルが10年後の京くん、ヅカ、ミッキー、パラに手紙を書くシーンがありましたが、エルの手紙だけではなく他の4人がお互いにどう思っているのかという手紙も読んでみたいですね。

エルの能力はヅカからエルに矢印が伸びていないことから自分に対する好意は見ることができないということが分かりますが、将来的にヅカから告白された時にエルがどういった反応をするのかが気になりますね。


あと本編とは直結しないけど仲のいい京くんをいじめているエルがとてもかわいいなと感じてしまいました。エルて大人しそうな性格にみせかけて実は小悪魔的なところがありますよね。


最後に


『か「」く「」し「」ご「」と』は大人になってから読んでも青春時代を思い出させてくれる良い作品でした。

裏表紙のQRコードから番外編も読むことができるのでまだ読んでない方はぜひ読んで見てください。





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住野よるさんの『また同じ夢を見ていた』が文庫化されていたので読んでみました。

『また、同じ夢を見ていた』は住野よるさんの2作目の小説です。

まだ、住野よるさんの作品は、『君の膵臓をたべたい』しか読んだことがありませんでしたが前作とは少し毛色の違う感じの物語でおもしろかったです。



『また、同じ夢を見ていた』のあらすじ


「人生とは和風の朝ごはんみたいなものなのよ」小柳奈ノ花は「人生とは~」が口癖のちょっとおませな女の子。

そんな彼女はある日、草むらで一匹の猫に出会う。

そしてその出会いをきっかけに奈ノ花は、とても格好いいお姉さんの"アバズレさん"、手首に傷がある"南さん"といった、様々な過去を持つ女性たちと出会います。

大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の住野よるが贈る、幸せな物語。


感想(ネタバレあり)


『君の膵臓をたべたい』とはまた違う住野よるさんの独特な世界観が広がっていてとても面白い作品でした。

一度読み終わった後、気になる箇所がいくつかありすぐにもう一度読み直してしまいました。読めば読むほど味がでてくるまるでするめのような作品です。

複数回読むことで一度読んだだけでは気づくことのできなかった真実にたどりつけるでしょう。

この作品は「幸せとは何か?」という疑問をひも解く物語ですが、一度だけではなく二度以上読むことで南さん、アバズレさん、おばあさん、小柳奈ノ花自身の幸せを見つけることができます。

また小柳奈ノ花の「人生とは~」から始まる口癖も少しませてみたい年頃の奈ノ花自身を表現できていて、なおかつそれだけではなく言葉の意味を考えると深い言葉になっているのも良かったです。

物語中でたびたび奈ノ花が歌う「三百六十五歩のマーチ歌」も本作のテーマにあっていました。


以下物語の中身についての感想になります。


物語の序盤で私は、奈ノ花、南さん、アバズレさん、おばあちゃんの四人が同一人物であるということに全く気が付きませんでした。序盤から察したという人はあまりいなさそう…。

私は、南さんがいなくなる場面でやっとこの四人が同一人物だったということに気が付きました。

南さんがいなくなる前に奈ノ花に「人生とは、自分で書いた物語だ。推敲と添削、自分次第でハッピーエンドに書きかえられる」というセリフを残しました。

このセリフで人生のある場面で間違った選択をしてしまった奈ノ花が小学生の奈ノ花自身にターニングポイントでミスを犯さないためのアドバイスをしに来てくれていたのだと分かりました。


南さんの幸せの答え


南さんは授業参観に来れなかった親に対して酷い言葉を投げかけてしまい、その後親が事故で亡くなってしまったため謝る機会が一生来なかった奈ノ花です。

南さんは、謝らないまま両親がなくなったことを悔いてリストカットをしてしまいます。

南さんが小学生の奈ノ花に親にどんなことがあってもしっかりと謝るようにしろということを教えてくれたおかげで、小学生の奈ノ花は親に謝ることができ南さんとは別の世界線の奈ノ花として生活を送ることができます。


南さんにとっての幸せの答えは「自分がここにいていいって認めてもらうことだ」です。

両親を亡くし孤児になった南さんは、自分を認めてくれる存在がいなくなったのでそれを取り戻したかったのでしょう。


アバズレさんの幸せの答え


アバズレさんは桐生君のお父さんがスーパーで泥棒をしたことをきっかけに、クラスメイトと喧嘩し、無視されるようになってしまった後関係を修復できなかった奈ノ花です。

クラスメイトと喧嘩した後の奈ノ花はアバズレさんに「誰とも関わらずに生きていく」と相談しに行きますがアバズレさんは奈ノ花が今後一人で生きていくとどういう道をたどるのかが分かっているため「それは駄目」と反対します。

アバズレさんが奈ノ花に人と関われば奈ノ花とアバズレさんのような素敵な出会いが起こることがあるかもしれないということを教えたおかげで、奈ノ花は一人で生きていくのではなくもう一度桐生君のもとを訪れて一人ぼっちではない人生を選択します。


アバズレさんが考える幸せの答えは「誰かのことを真剣に考えられるということだ」です。

他人と関わることがなくなったアバズレさんは色々なものを失ってただ奈ノ花と出会ったおかげで誰かと一緒に過ごすことの幸せさを思い出したのでしょう。





おばあちゃんの幸せの答え


おばあちゃんは、桐生君と向き合うことはできたが関係を修復できずに傷つけたことをずっと後悔しているなのかです。おばあちゃんは桐生君とは恋愛関係にはなることができませんでした。

おばあちゃんのアドバイスを聞いたおかげで小学生の奈ノ花は桐生君との関係を修復することができ、桐生君にとっての幸せとは何であるのかを聞くことができます。

桐生君の『僕の幸せは、僕の絵を好きだって言ってくれる友達が、隣の席に座っていることです。』というセリフを隣の席で聞けて幸せにならない人なんていなさそうですね。


おばあちゃんの考える幸せは「今、私は幸せだったって、言えるってことだ。」です。人生を長く生きていたおばあちゃんだからこそ気が付くことができる幸せのこたえですね。

ところで、おばあちゃんいつ奈ノ花が自分自身であると気が付いたのだろう?


奈ノ花が見つけた幸せの答え


最終章でいままでの物語は奈ノ花が見ていた夢であると分かります。奈ノ花は南さん、アバズレさん、おばあちゃんの三人のアドバイスのおかげで幸せな人生を歩むことができました。

奈ノ花の考える幸せは、「幸せとは、自分が嬉しく感じたり楽しく感じたり、大切な人を大事にしたり、自分のことを大事にしたり、そういった行動や言葉を、自分の意志で選べることです。」というものです。

三人の幸せをまとめた奈ノ花らしい素晴らしい幸せの答えですね。



最後に


本当に素晴らしい作品でした。多くの若い人にこの作品を読んでもらいたいですね。

『また、同じ夢を見ていた』を読んであなた自身の幸せを見つけることができましたか?

もし見つけられなかった人はゆっくりでもいいので奈ノ花のように素敵な自分だけの幸せの答えを見つけてください。


久しぶりに住野よるさんの作品を読みましたがやっぱり面白かったです。まだ読んでいない作品を読む前に『君の膵臓をたべたい』を久しぶりに読み返そうかな。





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住野よるさんの『麦本散歩の好きなもの』を読みました。

今までの住野よるさんの作品は学生を主人公とした作品ばかりでしたが、今回は新卒の社会人が主人公となっており、若い人から大人まで楽しめる作品でした。ただ、普段のテイストとは少し異なる作品であるため人によっては物足りなく感じるかもしれません。

本作は図書館勤務の新卒女子、麦本三歩のなにげない日常のショートストーリーが描かれている作品です。

タイトルが『麦本三歩の好きなもの』ということで、各ショートストーリーのタイトルが "麦本三歩は歩くのが好き "、"麦本三歩は図書館が好き" といいった風に "麦本三歩は~~が好き" という風になっており、麦本三歩が好きな色々なものについて語られています。

読み進めていくにつれキュートな麦本散歩の日常に癒されまくりました。

以下、あらすじと感想を書いていきます。




あらすじ


図書館勤務の20代新卒女子、麦本三歩のなにげない日々を三人称で描いた日常短編小説です。

麦本三歩の好きなものは朝寝坊とチーズ蒸しパンと本。性格は、ぼうっとしていて、おっちょこちょいで少し間抜けです。

彼女の周りは優しい人やおかしな先輩、怖い先輩など様々な人がいて三歩は日々翻弄されています。

この小説は特別な物語ではなく麦本三歩の当たり前の毎日を面白おかしく描いています。



感想(ネタバレあり)



キュートな麦本三歩


本作の主人公である麦本三歩はどこにでもいる普通の女性を描いていますが、なぜかとてもかわいらしく感じてしまい、魅力的です。

多くの読者が麦本三歩の可愛らしさに惹かれてしまったのではないのでしょうか。

私は、本作を読み進めていくにつれて麦本三歩のかわいらしさの虜にされてしまい、読み終わったころには麦本三歩のような友達がほしいと感じてしまいました。

麦本三歩には私たちが日ごろ当たり前だと思っている行動に対しても、好きになることができるポイントを見つけることができる力があります。

例えば作中で麦本三歩が紅茶を飲み、スーパーに売っているチーズ蒸しパンを食べているだけで幸せだと感じるシーンがあります。

こういった行動も初めて実行したときには私たちも幸せに感じるかもしれませんが、ルーティンにしてしまうと当たり前のことだと思い幸せには感じなくなってしまうでしょう。

しかし、麦本三歩ならばそんな当たり前の日常ですら毎日のように幸せであると感じることができます。

このように、あたりまえのことを幸せに感じることができる女性で、毎日を楽しそうに生きているからこそ、私たちは麦本三歩を可愛いと感じてしまうのでしょう。


また、麦本三歩には少し大食いであり、少しドジであるという二つの特徴があします。多くの人はこういった特徴を持つ人をかわいいと思ってしまう傾向があるのではないのでしょうか。

もちろん、ただ大食いだから好きになるのではなく、幸せそうに食事をしている描写が多いというのもあるとは思います。ドジなのもおかしな先輩のように好きではないと感じる人もいるかもしれませんが、多くの人は怖い先輩のようにかわいい奴だなと感じるでしょう。






『麦本三歩の好きなもの』の魅力


本書の魅力は先ほど述べた麦本三歩のかわいらしさもあると思いますが、それ以上に主人公が普通の女性であるため読んでいて共感ができるというところにあると思います。

たとえば "麦本三歩はモントレーが好き" では三歩は朝通勤しようとはしたもののなんとなく仕事に行きたくなくなったという理由で仕事をさぼってしまいます。

しかし、仕事をさぼったはいいものの罪悪感から翌日以降ずるをしてしまったということで三歩は一人苦しむことになります。

多くの人が三歩のこの状況を見て、自分もそんなことが過去にあったなどと共感できるのではないのでしょうか。しかも本書ではこの悩みを解決するために、ひとつの解決案を提示しているので三歩に見習って読者も次からはそうしようということができます

主人公がどこにでもいそうな普通の女性であるがゆえに、読者が共感をしやすいというのが本書の魅力だと私は思います。




この作品が伝えたいこと


本作は麦本三歩の日常を描いている作品です。この作品を通して住野よるさんは、読者に好きなものが増えれば人生が楽しくなるということを伝えたかったのではないのでしょうか。

忙しい現代社会では意味を見出すことができない行動を無駄であると感じがちです。

しかし、三歩のように意味がない行動の中に魅力を見出すことができれば、その無駄だと思っていた行動をすることが楽しくなり、人生が今より少し豊かになるのでしょう。

忙しいからこそ、少しの時間を楽しめる人間になることはとても大切だと思います。

私も三歩のように朝でかけるまでのわずかな時間を幸せに感じたり、色んなスーパーにそれぞれの特徴を見つけてその日の気分で買い物をするような自分の生活を楽しむことができる人間になりたい。



最後に


当たり前の日常を描いている作品でここまでおもしろい作品を久しぶりに読んだ気がします。

男性目線からは三歩がすごく好きになったのですが、女性の読者は本作を読んでどんな風に感じたのかが気になります。




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住野よるさんの『君の膵臓をたべたい』を久しぶりに読み返しました。

住野よるさんのデビュー作ということで最近の作品と比べると少し荒さが目立つのですが、それ以上に心に訴えかけるものが多く、何度読んでも同じシーンで泣いてしまうほど良い作品です。

以下、あらすじと感想を書いていきます。






あらすじ


ある日、高校生の僕は病院で1冊の文庫本を拾う。その本のタイトルは「共病文庫」。

共病文庫は、僕のクラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳であった。

そこには、彼女の余命が膵臓の病気が原因で、もう一年もないと書かれていた。

共病文庫を拾ったことが原因で僕は彼女にとって【ただのクラスメイト】から【秘密を知るクラスメイト】となった。

彼女と食事したり、旅行したり、様々なことを話していくうちに僕は自分と正反対の性格をしている彼女に徐々に惹かれていった。

余命残り一年の彼女とどう過ごしていたか考えていた矢先、世界は、平等に残酷な現実を僕につきつける――。



感想(ネタバレあり)


『君の膵臓を食べたい』はあらすじの表層だけをとらえると、ヒロインが最後に亡くなってしまうどこにでもありそうなお涙頂戴の恋愛物語です。

しかし、この物語をしっかりと読むと住野よるさんはそんな浅はかな考えで本作で伝えたかったわけではないということが分かります。


生きている時間の大切さ


『君の膵臓を食べたい』を読むことで命の大切さを教えられました。

物語を読んでいた読者の多くは、物語の序盤では桜良の命は1年ほどあり来年には死ぬんだろうなと思っていたに違いません。

しかし、実際は通り魔に襲われてしまい、主人公の春樹に継げていた寿命より半年ほど早く亡くなってしまいます。

このことから、今まで人は70代、80代まで生きるのが普通で病気の人でも余命宣告された期間は生きると思っていたのですが、そんなことはなくいつ何が起きて死んでしまうのか分からないということを感じました。

また、桜良はただ無駄に時間を過ごして生きていくのではなく、生きているうちに自分がしたいことをたくさんしようとしていました。

このことから有限である人生の中でいかに充実した時間を過ごすことが大切だということを教えられました。

生きている中でときには休息も必要でしょうが、休息するにしても最大限に充実した休息をするなど何をするにしても時間を大切にして、目一杯過ごしていったほうが良いということを本書から学びました。





人からどう思われているかずっと気にする主人公


物語の中で桜良や他のキャラが主人公の名前を呼ぶ描写がありません。

主人公が呼ばれるときは名前ではなく「【】」で【秘密を知っているクラスメイト】、【仲良し】、【噂されているクラスメイト】のように呼ばれています。

この【】の中身はおそらく人から主人公がどう思われているのかを書いているのではないのだろうか。

主人公は人と避けて過ごそうとしていくうちに無意識に人から自分の評価を決めてしまい、人から自分がどのように思われているのかを確認しようとしません。

この主人公の生き方は作中でも描写されているように「草舟」のようでまわりに流されて生きることができるのですごく楽なのですが、桜良のように同じ時間を過ごしていても生きているとは言えません。

しかし、桜良との出会いをきっかけに主人公は徐々に変化していきラストシーンでは、流されて生きるのではなく自分の意思生きようとしているのが分かります。


おもしろい会話のやりとり


本作は内容自体もすごくよいのですが、主人公と桜良の何気ない会話も表現が不思議な感じでおもしろい物が多いです。

一例をあげると、春樹と桜良が焼肉を食べに行っている場面で、以下の会話のやりとりが物語ででてきます。

桜良:『もう、せっかく店員さんに商品を紹介してもらおうと思ったのに。邪魔しないで。もしかして私と店員さんの仲睦まじさに嫉妬しちゃったの?』

春樹:『あれを仲睦まじいっていうなら、誰もオレンジを天ぷらにしようとは思わないだろうね。』

桜良:『どういう意味?』

春樹:『意味ないことを言ったんだから追求しないでくれる?』

君の膵臓をたべたい P.39より

こういう意味のない会話のやりとりからも、住野よるさんのセンスの良さを感じますね。




タイトル『君の膵臓をたべたい』の意味


「君の膵臓を食べたいと」いう言葉は序盤の春樹と桜良の体の悪い部分を食べると病気が治るというやりとりの中ででてきますが、そんな会話からただつけられたタイトルではありません。

桜良が残した遺書や春樹が送ったメールのなかで、「君の爪の垢でも煎じて飲ませたい」という言葉の代わりに二人だけが分かる「君の膵臓を食べたいと」という言葉を使用しています。

つまりこのタイトルは二人の特別な関係を表したものなのです。

そう考えるとタイトルを聞いただけでもなんだか泣きそうになってしまいますね。



最後に


『君の膵臓をたべたい』は最初に述べた通り何度読み返しても感動する作品です。

もしかしたら小説ではなく映画を見て本記事にたどり着いた方がいるかもしれませんが、そういう方にはぜひ小説版を読んでもらいたいです。

個人的には映画よりも小説の方が表現が豊でおもしろいと思っています。


また、本作を読んで住野よるさんの他の作品を読んだことがないひとは他の作品もおもしろいのでぜひ読んでみてください。








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まもなく映画化することで話題の住野よるさんの『青くて痛くて脆い』を読みました。

『青くて痛くて脆い』というタイトルが主人公の「田端楓」を表現するのにぴったりの作品でした。

また、青春小説だということなのでヒロインの秋好が30ページ目ほどで死んでしまったときは衝撃でした。住野よるさんにしてやられたという感じです。

以下に本書のあらすじと感想を書いていきます。




あらすじ


主人公の田端楓は、人に裏切られることを恐れて、人に不用意に近づきすぎないように生きていくことを信条としている。

大学に入学してもその信条を変えず、目立たないように過ごそうと思っていた。しかし、そんな矢先、彼は秋好秀乃に出会った。

秋好秀乃は理想と情熱にあふれていることが原因で周囲から浮いていており、田端楓とは正反対な人物だった。

そんな二人が出会い、秘密結社モアイを作成したのだが…。



『青くて痛くて脆い』の感想(ネタバレあり)



田端楓が取り戻したかった「モアイ」


秋好が楓の前からいなくなってから、二人が築き上げた「モアイ」は秋好や楓が描いていた理想とは別物になってしまいました。

もともとモアイは「なりたい自分になる」というシンプルなコンセプトで結成されました。

楓と秋好はなりたい自分を目指して講演会の出席やボランティアへの参加などの利益にはならないが理想に近づくための活動を行っていました。


しかし、秋好がいなくなってからは当初結成された目標とは違う団体へと徐々に変化していき、楓が4年生になるころには「就活を支援する団体」に変化していました。

楓はかつて二人で掲げていた理想を取り戻すために、友人の力を借りてかつての「モアイ」を取り戻そうとします。



田端楓の本当の想い


楓は最終的に「モアイ」が企業に学生の連絡先が載っていた名簿を無断で渡しているという不正を暴きかつてとは変わってしまった秋好ひきいるモアイを潰すことに成功します。

しかし、モアイを潰して久しぶりに秋好と再会した楓は自分の本当の想いに気がつきます。

楓は、秋好のために昔のモアイを取り戻そうと活動しているように物語の冒頭では描写されていました。

けれども実際は、昔のモアイを取り戻すことで楓は再び秋好が自分のことだけを見てもらいたかっただけだったのです。楓にとって秋好と二人だけで活動を行っていたモアイは理想の居場所だったのです。


モアイを潰したことで自分の過ちにようやく気が付きましたが、もうその失敗は取り返しがつきません。自分が居場所を失ったからといって、相手に同じことをするのは間違いだったことに楓は気が付きます。





『青くて痛くて脆い』の意味とは


このタイトルには楓の若さゆえにとってしまった過ちが凝縮されています。

若い人は青いため、現実を見ようとせず自分のことだけを考えた理想を追う痛い行動をとることが多いです。しかし、そうした痛い行動はたいてい自分よがりで誤りがあり、それに気づいた若者はとても脆いです。

そうした若者を表現する言葉としてこのタイトルは本当にぴったりだと感じました。


住野よるさんの作品のタイトルって独特なものが多いけど作品を読んだら本当にタイトル通りだ感じる作品ばかりなのですごいなと思います。



最後に


本作は2020年8月28日から吉沢亮と杉咲花のダブル主演で映画化されるみたいなのでそちらもすごく楽しみですね。

理想を追い続ける主人公、田端楓を吉沢亮がどのように演じるのかに注目です。


本記事を読んでくださった方には以下の記事もお勧めですのでお時間があればぜひ読んでください。










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