5006229_s

南杏子さんの『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』を読みました。

本作は終末期医療をテーマとしている作品で、医者ではない多くの人も向き合う可能性があるテーマであるため他の医療作品と比べて読んでいて色々と考えさせられる作品でした。

また、著者の南杏子さんは現役の内科医ということで作品にリアリティがあるのもいい点でした。

医者として働きながら小説までだしてしまうなんで南杏子さんはすごい才能の持ち主ですね…。

以下、あらすじと感想になります。


『サイレントブレス 看取りのカルテ』のあらすじ


大学病院の総合診療科に勤務する水戸倫子。

彼女は患者を思い丁寧な診察をするため、一回の診察に他の医師よりも長い時間がかかり同僚や看護師からは要領が悪いと思われている。

ある日、上司の大河内教授から訪問クリニックへの事実上の左遷を一方的に言い渡さる。

病院ではなく訪問クリニックに左遷されたことにショックを受けた倫子だったが、患者はそんな彼女を待ってはくれない。

訪問診察を開始してみて彼女は癌末期でありながら抗がん剤の治療を拒否する女性患者と出会う。

そんな彼女と向き合っていると、倫子はこれまで大学病院で病気を治療することが正義だと信じていたが、患者にとってそれが一番の幸せではない可能性があることに気が付く…。

在宅で最後を迎えたい患者とそんな患者の最後を看取っていく医者の新感覚医療小説が始まる。





感想(ネタバレあり)


医者の正義


本作は終末期医療という現代医学会での新しい問題を題材とした作品で非常に新鮮でした。

これまで読んできた医療関係の作品は医者がどんな手段を使っても患者を救うことが正義でした。

しかし、本作では患者が自分が希望する通りに人間らしい最後を迎えることができるというのが正義であり、主人公の倫子も患者の負担にならないような治療はするが、患者の希望なしで植物状態に近い状態になるような無理な治療は行いませんでした。


この作品を読んで私は本当に正しい医者とはどんな人のことを指すのだろうということを疑問に思いました。

自分がもし患者の親族なような立場でしたら、倫子の母が父に行っていたように少しでも長く生きてほしいと思うに違いありません。

一方もし自分が患者の立場なら倫子に最後を看取られてきた患者たちのように意識があるうちに人間らしく終わらせてほしいと思うでしょう。

人の立ち位置によってその医者の行動が正しいかどうかはきっと大きく変わってくるのでしょう。

私はこの作品を読んでいろいろ考えたうえで、正しい医者とは親族の意志ではなく患者の意志を最後まで尊重してくれる医者だと思いました。

周りの人間にどんな状態でも長生きしてほしいと言われたとしても、自分の最後を決めるのは患者本人です。

そのため、これからの医者には患者を救うことを第一とするのではなく、患者の声を聞くことを第一にすることが大切なのかもと思いました。

これはあくまで個人的な意見なので賛否両論はあるでしょうがこの作品を読んだ人は正しい医者とはどんな人物だと思ったのかが気になりますね。


終末期医療について


私はこの作品を読むまで恥ずかしながら終末期医療という言葉を知りませんでした。

『サイレント・ブレス  看取りのカルテ』を読んでもし自分に終末期が来たら、この作品にでてきた多くの人物たちのように残された人生を充実して人間と死なせてほしいと思いました。

こう思ったのはもちろん自分の幸せのためもありますが、残された家族のことなども考えてそうしてほしいと思いました。

終末期医療についていろいろと調べてみると延命治療をした場合、生きれば生きるほど当たり前のことですが多くの費用がかかるということが分かりました。

そのため、身動きできないような自分を延命させるのにお金を使うぐらいなら家族の幸せのためにお金を使ってほしいと思いました。

また、本作の患者のほとんどは自宅で最期を迎えていますが、現在の日本で最期を自宅で迎える人って欧米とかと比べるとかなり少ないらしいですね。

この作品の影響もあるのでしょうが私も最後は自宅で最期を送りたいですね…。

終末期医療については医療倫理など複雑な問題をまだまだ抱えています。

本作を読んで私のように終末期医療という言葉を知る人が少しでも増えてほしいです。



まとめ


『サイレント・ブレス  看取りのカルテ』は終末期医療をテーマにした新しい医療小説でした。

終末期医療は多くの人に関係があるテーマですので未読の方はぜひ読んでみてください。