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話題になっている夏川草介さんの『本を守ろうとする猫の話』を読みました。

夏川草介さんといえば『神様のカルテ』の印象が強いので、医療系の作品しか書いていないのかなと思っていました。

『本を守ろうとする猫の話』はどうして本を読むのかなどを説いてくれる作品で、読書家にとっては改めて本をよむ理由を考えさせられる作品で非常に面白かったです。

以下、あらすじと感想になります。




『本を守ろうとする猫の話』のあらすじ


夏木林太郎は幼い頃に両親が離婚したことが原因で、これまでずっと祖父とともに二人で暮らしてきた。

祖父は「夏木書店」という小さな古書店を営んでおり、林太郎は祖父の影響を受けてか昔から本を読むのが好きだった。

林太郎が高校生になったころ祖父が突然なくなり、林太郎は叔母に引き取られることが決まる。

叔母に引き取られると転校することになるため、友人のいない林太郎は学校にはいかず夏木書店の本の整理をして引っ越しまでの時間を過ごそうとする。

そんな林太郎のもとにトラネコが現れた。

そのトラネコは不思議なことに人間の言葉を話すのだ。

トラネコが林太郎のもとを訪れた理由は本を守るために林太郎の力を借りたいらしい。

トラネコについて行き夏妃書店の奥に歩いていくと、見覚えのない本を巡る迷宮につながっていた。

本を守るため林太郎は毎日本を100冊読む男、本の内容を一瞬で理解できるようにするために要約の研究をする男、売れる本を出版する男と議論することとなる。

彼らとの議論を通して林太郎は本を守ることができるのだろうか…。



感想(ネタバレあり)


『本を守ろうとする猫の話』を本が好きな人が読んだら、迷宮にでてきた男たちはどこか自分と似ていると思う人が多いような気がします。

実際に私は昔の自分と考え方がにているなと感じた人物がいました。


どうして本を読むのか


本書はどの章も非常に面白かったのですが、個人的に一番好きなのは第一章の「閉じ込める者」が好きです。

この章では本をたくさん読むことには価値があるが、同じ本を何度も読むことは価値がないという男が林太郎の敵として現れます。

本を一度だけ読んで本棚に閉じ込めておくというこの男の行為が昔の自分の読書の仕方に似ていたのでとても印象的でした。

私も学生の頃に本をたくさん読み知識を詰め込むことに価値があると考えていた時期がありました。

当時は一日に一冊本を読むという目標を掲げており、今考えると悪い目標ではないとは思うものの何かを知ることではなく本を読むことが目標になっているなと思います。

林太郎も男に対して以下のような台詞を放っています。
「本には大きな力がある。けれどもそれは、あくまで本の力であって、お前のちからではない。」
夏川草介『本を守ろうとする猫の話』 p.59

昔の私も男のように本をたくさん読んで自分が偉いだろうということを周りに自慢したかっただけなのです。

本というものは偉大で読めば読むほど知識が身についたように感じるかもしれません。

しかしどのように本を読んで得た知識を活かすか、その本の考えに対して自分がどう思っているのかなど自分で考えることが大切なんだということを本作を読んで改めて再認識することができました。



要約本に価値はあるのか


第二章で本を可能な限り短い時間で読めるようにするための研究を行っている男が現れます。

彼は太宰治の走れメロスを「メロスは激怒した。」という一言だけに要約します。

走れメロスを知っている人からしたら間違ってはいない要約だと感じるのですが、走れメロスで大切なのはメロスがなぜ激怒したのか、そしてその後どうなったのかということだと思います。

最近では難解な文学作品などを簡単に読めるように漫画にしたり、2ページほどに要約されている本をよく見ます。

このような本が存在する理由は男の言う通り、現代人は娯楽が多すぎて時間がないからなんでしょう。
「人は今、ゆっくりと本を読むことを忘れてしまった。速読もあらすじも、今の社会が求めているものだとは思わんかね」
夏川草介『本を守ろうとする猫の話』 p.118
正直私は本を短時間で読めるように要約していることは悪いことだとは思いません。

ただ、その要約はあくまで要約した人の主観が入っているものだと知ったうえで読んでもらいたいとは思います。

また、要約本もそれだけを読んで本の内容を知った気にさせるのではなく、読者が原作を読みたくなるようなものが増えてほしいなと思います。



まとめ


本作は夏川草介さんの本に対する愛が伝わってくる作品で面白かったです。

本記事を読んで興味を持った方はぜひ『本を守ろうとする猫の話』を読んでみてください。