としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:恋愛小説

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三浦しをんさんの『ロマンス小説の七日間』を読みました。

冒頭がロマンス小説から始まったため、ロマンス小説の世界の七日間を描いた本なのかなと思いながら読んでいたんですが、実際はロマンス小説翻訳家の七日間の生活を描いた作品でした。

ロマンス小説翻訳家の苦悩が描かれていてとても面白かったです。

以下、あらすじと感想になります。



『ロマンス小説の七日間』のあらすじ


あかりは海外ロマンス小説の翻訳を生業とする28歳の独身女性。

彼女は今ボーイフレンドの神名と同棲中である。

あかりは締め切りが残り七日間の中世騎士と女領主の恋物語の翻訳を翻訳し始めた。

そのロマンス小説のよく分からない時代設定にあかりが頭を抱えている中、神名が突然会社を辞めてきたと言って帰宅する。

神名の突然の退職宣言に困惑するあかりは、思わずその気持ちを自分が翻訳する小説にぶつけてしまい、中世騎士と女領主の恋物語があらぬ方向へと変わってしまう…。

現実の悩みが原因で現実での出来事がどんどん小説に反映されていく中、あるトラブルが発生する。

ロマンス小説と現実世界を行き来する、新感覚恋愛小説。



感想(ネタバレあり)


改変されまくりのロマンス小説に笑いが止まらない


普段ロマンス小説を読むことがないため、冒頭のロマンス小説部分を読んだときはあまり面白くないかなとか思っていたのですが、あかりがどんどんあらぬ方向に翻訳(創作)していくロマンス小説を読んでいくと笑いが止まらなくなりむちゃくちゃ面白かったです。

ロマンス小説の第三章を読んでいると現実世界の二日目であかりが語っていた内容と違うなとか思いながら読んでいたのですが、三日目を読むとあかりが作品を改変していることが分かったときは、「あかりやってしまったな!!」という気持ちになりました。

その後のウォリックが殺されてしまうシーンを読んでいると一日目で結末はアリエノールとウォリックが結ばれて終わるって書いていたのに主人公を殺してしまったことがすごく衝撃的でした。

まさか、結末が分かっているロマンス小説の主人公が殺されるなんて予想していなかったので結構な衝撃でしたね(笑)


『ロマンス小説の七日間』を読んでいると現実の翻訳家の方ってどんな気持ちで本を訳しているのかがすごく気になりました。

あとがきで三浦しをんさんも書いていたのですが、実際にあかりのようにロマンス小説を改変して翻訳しようとする人なんいません。

ただ、仕事として割り切っていても内容にツッコミがとまらない翻訳家の方とかはいそうですね。

また、作中であかりが性的描写で体毛の表現は日本人の読者にはいらないから入れないでくれと編集から注意を受けている場面がありました。

これを読んで翻訳の仕事って国や文化にあわせて翻訳する必要があるので、語学の知識だけでなく他の様々な知識や気配りが必要なんだなということが分かりました。

こういうのを見ると原作と翻訳された本を読み比べてみるのも面白そうだなとか思ったりしますね。





現実世界とロマンス小説のギャップ


この作品はロマンス小説を改変しまくるあかりを見ているだけでも面白いのですが、現実世界とロマンス小説のギャップを比較するのも面白かったです。

ロマンス小説と恋愛小説が並行して物語が進んでいくため、現実の複雑な恋愛につかれている人がシンプルでロマンティックな作品に手を出したくなる気持ちも分かりました。

ロマンス小説では、あかりが神名に告げられたみたいに恋人がいきなり仕事を辞めてくることなんてないし、恋人の浮気を気に掛ける必要とかはありません。

物語のゴールも決まっているため途中で苦悩があっても最終的には解決することが分かっています。

一方現実世界の恋愛は予想外の出来事の連続です。

自分が決めていたゴールが突然他人や恋人によって捻じ曲げられてしまうなんていうことはよくあることです。

この作品はロマンス小説のように思い通りにいかない恋愛の苦悩を描いていたのが良かったです。

主人公が28歳で結婚を考える年齢であるため、より一層親近感がわいてきたんでしょうね。おそらく主人公が学生とかだったらここまで面白い作品にならなかったと思います。



まとめ


『ロマンス小説の七日間』は現実と物語の恋愛のギャップを面白おかしく描いている作品でした。

また、ロマンス小説の楽しみ方を教えてくれる作品でもあるため、普段はあまりロマンス小説を読みませんが、王道展開のロマンス小説が読みたくなりました。





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三秋縋さんの『君の話』を読んだので感想を書いていきます。

三秋縋さんの作品は『三日間の幸福』しか読んだことがありませんが、『君の話』は初版がすぐに完売しその後重版をつづけているという人気作であるため読む前から期待が高まっていました。

表紙のイラストも美しく、イラストを描いた紺野真弓さんのファンになりそうです。



『君の話』のあらすじ


二十歳の夏、僕は一度も出会ったことのない女の子、夏凪灯花と再会した。

彼女との思い出は全て架空。架空の青春時代、架空の夏、架空の幼馴染。

夏凪灯花は記憶改変技術によって僕の脳に植えつけられた<義億>の中だけの存在であり、実在しない人物のはずだった。

「君は、色んなことを忘れてるんだよ」と彼女は寂しげに笑う。

「でもね、それは多分、忘れる必要があったからなの」

これは恋の話だ。その恋は、出会う前から続いていて、始まる前に終わっていた。


感想(ネタバレあり)


読み終わった直後の感想は、夏が終わってほしくないと思いました。夏がいつまでも続けば感動的な本作をいつまでも楽しむことができるのに…。

物語の終盤では主人公に感情移入してしまい涙がとまりませんでした。小説を読んでここまで泣いたのは久しぶりだと思うぐらい泣いてしまいました。喫茶店で読んでいたため周りの人には変な人に見えただろうな。

『君の話』は、三秋縋さんの作品を読んだことがない人でも恋愛小説や恋愛ドラマが好きな人ならば楽しめる作品となっています。また三秋縋さんの文章の特徴として物語上で難しい言葉が出てきても解説などがはいるため読みやすい作品となっています。


以下ネタバレを含みますので本作をまだ読んでいない人は物語を楽しんでから読んでください。





















もし現実で記憶改変技術が実現しており自分の記憶の中に<義億>を植え付けることができるとするのならばあなたは義億を植え付けたいと思いますか?

私は、植え付けてみたいです。植え付けてみたいといっても、本作の主人公である天谷千尋の両親のように義億が生活の中心となってしまうほど義億に溺れたくはありません。

ただ自分に自信をつけるための成功体験や自分が昔やり残したことに近い義億を新たに手に入れることができるのならばほしいです。


<義億>というテーマについて


本作のテーマである<義億>はとても面白い題材思います。義億は、同じものであったとしても人によって良いものになったり悪いものになったりするものでしょう。天谷と灯火が同じ義億を持っているのにそれぞれその義億に対する考えが違うのが良い例です。

天谷千尋は、これまでの虚無であった人生の記憶を消すレーテを処方したつもりが実はグリーングリーンを処方させられており、自分が望んでいない義億を手に入れてしまいます。

最初のうちは天谷にとってグリーングリーンの義億は悪いものでしたが、ある夏の日に架空の存在しないはずの少女にであったことをきっかけに義億に対する考え方が少しずつ変化していきます。

一方、天谷に処方したグリーングリーン(正確にはボーイミーツガール)を作成した夏凪灯花(本名じゃないけど)にとってこの義億は小さいときから自分が憧れていた幼馴染との生活を義億化したものであり灯火にとっては理想的なものでした。

片方が良い思いを持っているのにもう片方が悪い思いを持っているということは、現実の記憶にもありそうですね。『君の話』が現実には存在しない<義億>というものを取扱っているのに現実の話であるように感じるのは、義億と記憶は変わらないものであるということを綺麗に表現できているからだと私は思います。


天谷と灯花の嘘


天谷と灯花は、二人が普通に生きていれば出会うことのない関係でした。灯花の嘘から作られた義億をきっかけに二人の関係は進んでいきます。

基本的に嘘をつくことはあまり良いことではないと思いますが、灯花と天谷がお互いについていた嘘は悪い嘘ではなく優しい嘘であるためこういった嘘であるのならばありなのかもしれません。

誰もがこんな嘘であるならば自分も騙されてみたいと思うのではないのでしょうか。


最後に


『君の話』は読了後、本当に読んで良かったなという作品になりました。ここまで本記事を
読んでくださった人の中でまだ本作を読んでいない人はぜひ読んでください。

今考えたら<義億>って小説などの物語に似ている気がしますね。私たちは記憶改変技術がないかわりに物語を読むことで自分にはない経験をして新しい義億を作り出しているのかもしれませんね。

三秋縋さんの作品はとても面白かったのでこれを機会に次は『恋する寄生虫』とか読んでみようかな。

『恋する寄生虫』も読みました。感想を書いているのでよかったら読んでください。








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三秋縋さんの『恋する寄生虫』を読みました。

一見ありきたりな恋愛小説ですが、読んでいると寄生虫という題材をすごく上手に扱っていると分かる作品でした。

また、結末が個人的にはけっこう衝撃的でした。



『恋する寄生虫』のあらすじ


失業中の青年、高坂健吾は極度な潔癖症で人と触れ合うことができない。

そんな高坂の唯一の趣味はコンピュータウイルスを作成することだ。

ある日彼がコンピュータウイルスを作成しているのが和泉という男性にばれてしまい、警察に突き出される代わりにある依頼を受けることになる。

その依頼とは、不登校の少女・佐薙ひじりと仲良くなれというものだった。

共通点が多い高坂と佐薙は次第に惹かれあい、やがて恋に落ちる。


しかし、この幸せは長くは続かない。

二人の恋は、彼らの体の中に潜む寄生虫によってもたらされた「操り人形の恋」に過ぎなかった…。


感想(ネタバレあり)


スタートラインに立てない社会不適合者


高坂は潔癖症で失業中、佐薙は視線恐怖症で不登校ということでこの物語に出てくる主人公とヒロインは脅迫障害が原因で日常生活に支障を与えています。

一般的な人からすると潔癖症なんて豆に手洗いや掃除をするぐらいでただの綺麗好きという印象が強いかもしれませんが、潔癖症がひどい人はそんなレベルではないということが本作を通して分かりました。

一方、佐薙の視線恐怖症も人と目を見て話すことができない、周りからの目が気になるなど人だらけの世の中で生きていくにはなかなか辛そうです。

彼らは好きで脅迫障害になってしまったわけではないので、それだけが原因で社会に出ることができないことを考えると社会の理不尽さを感じてしまいます。

高坂も佐薙も知的であり一般的に見れば有能な部類の人たちなので欠点だけではなく長所を見ることが大切なんでしょうね。

脅迫障害もそれぞれの個性だと捉えて、差別をするのではなくそういう人たちでも生きやすいように世の中変えていく必要があるということを本作を通して感じました。(高坂とか完全リモートな仕事に着いたらすごく有能そうな気がします。)





操り人形の恋


社会に溶け込むことができない高坂と佐薙は、互いの似た境遇に惹かれあい恋に落ちます。

しかし、この恋は彼らの中に住む寄生虫が引き起こしたものでした。

これを読んですごい設定だなと思いましたが、実は現実にもこのような寄生虫がいるのかもしれません。

異性の中で好みな人の声や香りがありのも実は私たちの中に寄生虫が潜んでいて恋愛衝動を起こしているのかも…。世界の多くの夫婦は寄生虫の影響を受けていたり…。


作中で和泉や爪実は寄生虫によるまがいものの恋は薬で治すべきだと考えていますが、佐薙が物語の中で言っていた通りまがいものでも自分の意志で身を任せて幸せなのなら、操り人形でも悪くないのかもしれません。

人に自分の意志で恋するのと自分の意志で寄生虫に任せて恋することの何が違うのか聞かれたらすごく難しい問題ですよね。

結局、自分の意志とはなんなんでしょうね…。



ラストシーンについて


この物語の結末は、高坂と佐薙が結ばれて今後も仲良くやっていくよといったハッピーエンドではありません。

もし、物語をハッピーエンドで終わらせたいなら296ページの「高坂はゆっくりと目を閉じた。」という言葉で高坂の身の視点で描かれた物語として本作は終わっていたでしょう。

しかし、作者の三秋縋さんは最後に佐薙視点で物語を描きました。

最後に佐薙視点で物語を書いた理由は、佐薙が寄生虫を失っても高坂に恋をしていることから、人間は寄生虫に一方的に操られているわけではなく自分意志で生きているんだということを読者に教えたかったからだと私は考えています。


次に高坂が目を覚ました時かもう少し先かは分かりませんが、物語の結末から佐薙が近いうちに高坂の前から姿を消してしまうことが明白です。

佐薙を失った高坂のことを考えると「恋する寄生虫」は本当に切ない作品ですね。


最後に


「恋する寄生虫」は色々と考えさせられて非常に面白い作品でした。

三秋縋さんの作品ってライトノベルのように読みやすいのにメッセージ性が深いという不思議な作品が多い気がしますね。


また、恋する寄生虫は2021年には林遣都と小松菜奈主演で映画化されるみたいなのでそちらも楽しみです。

公開されたら絶対に見に行こう!






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森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』を久しぶりに読み返しました。

本作は様々な賞を獲得したり、2017年にはアニメ映画化されるほどの大人気作で、森見登美彦さんの代表的な作品です。

読んでいると自宅にいるにも関わらず、自分も先輩や乙女と京都の街を冒険しているような気分になれました。

以下、あらすじと感想を書いていきます。






あらすじ


「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。

しかし、「黒髪の乙女」は何度出会っても先輩の想いには気がつかない。

先輩も彼女に自分の気持ちを伝えることができず、頻発する偶然の出会いがあるたびに「奇遇ですねえ!」と言うばかり。

そんな二人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者や珍事件との出会いばかり。

先輩は幾多の珍事件のなかで黒髪の乙女に想いを伝えることができるのか。



感想(ネタバレあり)



純粋な『黒髪の乙女』


先輩が想いを寄せる、サークルの後輩の黒髪の乙女がとにかくかわいい作品です。

黒髪の乙女は純粋な性格で人を疑うということを知りません。その日出会った人に何度胸を触られたとしても、偶然手があたっているだけだと思うような人物です。

しかし、その純粋さが原因で先輩が何度偶然を装って出会ったとしても、先輩の「奇遇ですね」という言葉を信じてしまい、なかなか先輩の想いに気がつきません。

先輩が彼女と結ばれるために必死に努力しているのに、想いが実らない様子が読者をやきもきさせます。

ただ、物語を読み進めるにつれて、先輩の想いに気がつき純粋無垢な少女から恋する乙女へと変化していきます。

最後まで読んだ人は恋する乙女になった彼女にやっと想いに気づいたかと安堵すること間違えないでしょう。



とにかく遠回りな『先輩』


『黒髪の乙女』との恋愛を成功させるために、先輩は様々な手を打ちますがとにかく遠回りな方法を選びます。

読んでいる多くの人は、直接遊びに誘ったりしたら気持ちをもっと簡単に伝えられるのにとやきもきしたに違いがありません。

黒髪の乙女が古本市に行くと分かれば、普通でしたら一緒に行きましょうと誘うでしょう。

しかし、先輩は偶然出会い、同じ一冊の本をとろうとして手が触れるという少女マンガのような運命の出会いを求めて彼女を追いかけます。そんな先輩の様子を読んでいるとおもしろいのですが、何だか少しだけ切ない気持ちになってしまいます。

もしかしたら現実でも、人生で恋愛をした経験がなければ、先輩のように草食系の中の草食系のような行動をしてしまう人がいるのかもしれません。

ただ、先輩のように彼女をこっそり追いかけているとストーカーとして訴えられる危険があるので気をつけないといけませんね(笑)。





登場人物の感情や行動が伝わりやすい独特な文体


森見登美彦さんの書く文章は他の作家では味わえない個性的なものです。

特に先輩や乙女の心理を描写する文章が上手で彼らがどのようなことを考えているのかが、伝わりやすいため読んでいるこちらも彼らと一緒に四苦八苦しているような気分になります。

個人的に一番気に入っている文章を紹介しておきます。

彼女が後輩として入部してきて以来、すすんで彼女の後塵を拝し、その後ろ姿を見つめに見つめて数ヶ月、もはや私は彼女の後ろ姿に関する世界的権威と言われる男だ。

『夜は短し歩けよ乙女』 p.81より

『私は彼女の後ろ姿に関する世界的権威』という表現がとても好きで、どんだけ彼女の背中を追っかけて来たんだよっていう感じです。

他にも魅力的な文章がたくさんで読んでいてとても楽しい気持ちになります。



最後に


『夜は短し歩けよ乙女』を久しぶりに読み返しましたが、とてもおもしろかったです。

映画を見たことがないのでそちらも見てみたいです。

また、関連作品である『四畳半神話大系』も読み返したくなりました。近いうちに読み返そうかな。







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