早瀬耕さんのデビュー作である『グリフォンズ・ガーデン』を読みました。
『プラネタリウムの外側』を読んだことから他の作品が気になり本作を読みましたが、1992年に書かれたと思えないぐらい内容が先進的でした。
世界の不思議や在り方について考えさせられる一冊です。
『グリフォンズ・ガーデン』のあらすじ
東京の大学院で修士課程を収めた主人公は、就職のため恋人の由美子とともに札幌を訪れた。
勤務先の知能工学研究所は、グリフォンの石像が見守る深い森のなかにあり、グリフォンズ・ガーデンと呼ばれていた。
主人公は、研究所が保持しており世界には公表されていないバイオ・コンピュータIDA-10の中に、人工知能の技術を用いて新しい世界を構築しようとする。
主人公が存在する「PRIMARY WORLD」と主人公が創った「DUAL WORLD」の二つの世界で物語が進んでいく。
感想(ネタバレあり)
二人の主人公の物語
本作は、短いタームで「PRIMARY WORLD」と「DUAL WORLD」の二つの世界が交互に描かれていきます。
「PRIMARY WORLD」の主人公は、大学院を修了し研究所に着任したところから物語が始まります。
主人公は、IDA-10を使い新しい世界を作ったことから、自分が存在する世界も自分が創った世界のように誰かが創った世界なのではないかと疑念を抱きます。
「DUAL WORLD」の主人公は、学部の学生時代から物語が開始します。創造主であるの主人公や由美子をモデルとしているため「PRIMARY WORLD」の主人公の学生時代を描くかのように物語は進行していきます。
それぞれの物語が繰り広げられている世界は異なるがそれぞれの世界が互いに影響を与えているのが本作のおもしろいポイントです。
無限と有限
本作では度々無限と有限についての話題が現れます。
その一つとして、主人公とDUAL WORLDの主人公の彼女の佳奈が合わせ鏡について議論する場面があります。
佳奈が合わせ鏡は無限を証明できる神秘的なものと言うのに対し、主人公は合わせ鏡はいつか鏡どうし反射し続けると光よりも大きさが小さくなるため有限のものであると言います。
PRIMARY WORLD の主人公は、自分が創った世界の主人公にも同じような世界を作らせようとします。世界は無限に作られていくのでしょうか、それともいつかはループから抜け出す有限なのでしょうか。
無限と有限の話題は、本作にも大きく関わっており非常に興味深いです。
技術の進歩
本作の時代設定は、1980年代となっていて第五世代コンピュータの全盛期です。
第五世代コンピュータは、ハードウェアの「人工知能が人間知能(人間脳)を越えること」を目的としてしました。そんな時代を描いている本作と現代の技術を比較するのは非常に興味深いです。
1.記憶装置の容量
グリフォンズ・ガーデンでは、主人公の上司である藤野さんが100GBの記憶容量を申請する場面がありますがそこで主人公はもしTBも記憶容量があっても使いきれないだろうといいます。
しかし、現代ではTB単位の記憶装置が一般家庭で使用されています。
2.機械翻訳の性能の向上
"Time flies like in arrow." という文の機械翻訳について考える場面があります。本来は ”時間は矢のようにとぶ。” と訳すのが正解ですが本作では1980年代の方法では ”時蠅は矢が好きだ” と翻訳されると考察されています。
現在は、google翻訳を用いて翻訳すると正しい訳がされているためここでも時代の進歩を感じます。
上記の二つ以外にも様々な技術を現代と比較することができます。
まだ実現されていない技術もありますが、昔のSF小説を読んでいると現在発売されたばかりのSF小説の技術もいつかは叶うような気がするので楽しみですね。
最後に
本作は好みは分かれるのかもしれませんがSF小説らしい終わり方をしていて私はとても好きです!
終わり方を話すとネタバレになってしまうので言えませんが、SF小説が好きな人にはぜひ読んでもらいたいです。
また理系の方で人工知能などの技術に興味がある人が読んでも楽しめると思います。
最後の最後まで、世界の表現のされ方に魅了される作品でした。
ぜひお手に取って読んでみてください。