としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:朝井リョウ

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朝井リョウさんの『世にも奇妙な君物語』が文庫化していたのでさっそく購入してみました。

本作は「世にも奇妙な物語」の大ファンだという朝井さんが、番組での映像化を目指して書かれた短編集です。

全部で五編の奇妙な話が詰め込まれていますがどの物語もオチが絶妙でとてもおもしろかったです。

以下感想になりますがネタバレを含むので未読の方は注意してください。




『世にも奇妙な君物語』のあらすじ


異様な世界観。複数の伏線。先の読めない展開。想像を超えた結末と、それに続く恐怖。もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。待ち受ける「意外な真相」に、心の準備をお願いします。各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに——では始めましょう。





感想(ネタバレあり)

シェアハウさない


シェアハウスの記事を書こうとしていたライターの浩子がシェアハウスの住民たちと接していくうちに住人に少し不信感を持ち始める…。

浩子は「シェアハウスが本当にシェアしているものはなんのか」という記事を書くために密かに住人たちがシェアしているものを探そうとしていたがなかなか見つけることができなかった。

最後の最後にシェアしているものの正体を見つけるがそれは異常性癖者たちがお互いの異常な性衝動をみはりあうことで抑止するというものだった。

物語の中盤で浩子が昔犯罪にあったことからなんとなく犯罪者の集団がシェアしている家だとは分かっていたが、犯罪を隠ぺいするための家だと思っていたので、お互いの性衝動を抑えあうために住んでいたのには驚きだった。

物語は悲惨な結末で終わってしまうが実に世にも奇妙な物語っぽいないようで本書の一作目にふさわしい作品となっていた。


リア充裁判


コミュニケーション能力が高いリア充が本当に正しいのが疑問を持っている知子は、ある日コミュニケーション能力をはかる裁判に招待される。そこで裁判官に批判されるリア充たちを見て知子は自分が正しかったと確信するのだが…。


オチが絶妙すぎる話でした。

主人公の知子が考えていた理想のオチで終わるのかと思いきや、まさかその世界が主人公の描く漫画の世界だっととは…。しかも知子が非リア充でコミュニケーション能力がなく大学内で唯一就職活動に失敗している人間だという。

物語を読んでいる途中はコミュニケーション能力がない人間をなくそうとする国策は間違っているんだと思わされるんですが、最後まで読み切るとけっきょくはどんなことをするにもコミュニケーション能力って大切なんだなと感じさせられました。

コミュニケーション能力がなくても成功をおさめて認められている人間って現実世界でも確かにほとんどいないなと思わされる物語だった。




立て!金次郎


親からの評価を気にする幼稚園で働く孝次郎。そんな幼稚園の現状がおかしいと感じる考次郎は園の考えに背き、自分の考えに従って行動した結果、親からの評価につながったのだが…。


物語終盤まで来ると今回の物語はハッピーエンドで終わりそうだなと思ったのですが、この作品も最後の最後にまさかのどんでん返しが待ち構えていました。

オチの内容は、保護者が事前に褒める先生やいじめる先生を決めておいて幼稚園の先生を絶妙にコントロールするというものでした。

どんでんがえしがなければ世にも奇妙な要素がないんですけど、このオチを読んだときは衝撃的でした。孝次郎の努力のおかげで上手くいったと思ったのにそれをくつがえされてしまいました。

もしかしたら現実世界のモンスターペアレントのなかにも教師をコントロールするためにクレームを入れている人がいるのかもしれませんね…。


13.5文字しか集中して読めな


インタネットニュース記事を書くライターとして働く香織。自分の仕事に誇りを持ち、尊敬する上司を持ち、自分の息子からも憧れられており順風満帆な生活を送っているのだが…。


まずタイトルの文字数が13.5文字(半角は0.5文字とする)っていうがいいですね。

ネットニュースの記事に対する朝井リョウさんなりの批判が入っている作品でした。ネットニュースは新聞と違って紙面に限りがないのでいくらでも記事数が増やせるがどうでもいい内容の記事も量産されているという朝井リョウさんのネットニュースに対する批判が入っている作品でした。

最後に息子が授業参観で母親の浮気調査と浮気の様子を記事にしていましたが母親としては衝撃的ですよね。息子は母に憧れて母の真似事をしているんですが自分の浮気がばれていたとは…。

息子の成長を素直に喜べなさそうだ。




脇役バトルロワイアル


主演オーディションの最終選考に残った淳平。最終オーディションが行われる部屋に入るとそこには自分を含めて普段は脇役ばかり演じる役者たちがいた。不思議なオーディションに合格して淳平は主演になれたのか。

今までの四話に脇役として登場した役者たちが集められていて本当にテレビの世にも奇妙な物語を見ているかのように読める作品でした。登場人物の名前も実際の役者によせられており誰が誰なのか想像しやすかったです。

場面を説明するなどの脇役的な行動をしたら失格となるというのも秀逸で、朝井リョウさんが脇役の行動をよく分析しているのが分かる作品でした。

周りの脇役たちがみんないなくなり淳平が合格したと思ったら最後の最後に真の主役が現れるというのに笑わされてしまいました。

五編の中で一番笑える作品となっています。


最後に


皆さんはどの物語が一番好きですか?私は『立て!金次郎』が一番好きです。

朝井リョウさんの描く『世にも奇妙な君物語』がいつか実際に世にも奇妙な物語で映像化されてほしいですね。





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今回は、朝井リョウさんが書いた『武道館』を紹介します。

 本書は2015年4月に発売され、翌年の2016年にはドラマ化もしています。そして人2018年3月に文庫化しました。

朝井リョウさんといえば平成生まれの作家で、若者の気持ちが込められた作品を書くことで有名です。本書も若者に焦点が当てられています。

武道館で若者といえばどんな人を想像しますか?柔道、空手などの武道をしている学生ですか?

本作品は武道家ではなく、武道館を目指しているアイドルの目線で書かれた本です。

昨今、アイドルはCDに握手券が付属しているのに賛否両論があったり、恋愛禁止であるなど様々な問題を抱えていますがそういった問題に対して朝井リョウさんがどう考えているのかということが書かれている作品となっています。




『武道館』のあらすじ


女子高生の愛子はNEXT YOUというアイドルグループのメンバーの一人である。

NEXT YOUの結成から一年が過ぎたある日グループの中心的存在でありダブルセンターとして活躍していた杏佳から女優業に専念するためにNEXT YOUを卒業したいという申し出があった。

杏佳の卒業によりNEXT YOUの二年目はほぼゼロからのスタートになったが、愛子たちは、日々レッスンを重ねたり、ファンが喜ぶ工夫を考える努力を行うことで着実に武道館の夢が近づいてきた。

そんな中、NEXT YOUにもある出来事をきっかけに、恋愛禁止、炎上、得点商法、握手会などの全てのアイドルが抱える問題が降りかかってくる。

果たして、NEXT YOUは武道館でライブを行うことができるのか…。



テーマはアイドル


本作のテーマはアイドルです。アイドルの目線から見たアイドルとしての働き方や日常生活、炎上などの様々な問題などが書かれています。

本作の冒頭ではメンバーの一人が卒業してしまいます。ファンから見るとメンバが一人いなくなってしまうことは非常に寂しいことです。

そのメンバーが推しメンであればグループの追っかけをやめてしまう人もでてくるでしょう。

では、メンバーから見て一人卒業してしまうのにはどういう問題があるのでしょうか。

問題には様々なものがあり、メンバーが欠けたことによるパフォーマンスの見直し、 そのメンバーの推していたファンが離れてしまうなど。

上記のような問題をアイドル目線で書かれているのが本作の特徴だ。またアイドルとしてではなく一人の人間としてどう考えているのか書かれているのも本作の魅力だ。



感想(ネタバレあり)


『武道館』を読んでアイドルについて色々と考えさせられました。正直私はアイドルの握手券商法などがあまり好きでないため握手券商法をしているアイドルはあまり好きになれません。

しかし本作では、握手券を買って来てくれるファンに対して愛子が「自分に会いに来てくれる人全員にアイドルではなく一人の人間としてお礼を言いたくなる」と考えている描写があります。

この描写を見て私は、そういう風に考えてくれてファンを大切にしてくれるアイドルがいるのならば、握手券をCDなどに付属することを全面的に否定するのは間違っているのかなと思いました。

また本作では、恋愛が原因でNEXT YOUが解散の危機におちいってしまう場面があります。

愛子も翠も一人の少女として好きになってしまった相手に会いたくて我慢が出来きないという場面がありますが、これを見てアイドルの恋愛禁止を提唱しているファンがどう考えるのかが気になります。

愛子は自分も恋愛をしている一人の少女として翠のことを止めることができませんでした。

反対にるりかは、アイドルとしての自覚がかけているということで愛子と翠に対してすごく怒っていました。

きっとるりかは、アイドルはファンに夢を売るのが仕事であると考えているキャラだたのでしょう。

そしてアイドルファンの代弁をするために朝井さんが意図して用意したキャラなのではないのかと思います。

『武道館』を読んだアイドルファンの方がいましたらアイドルの恋愛についてどう考えているのかコメントで教えてほしいです。



最後に


アイドルファンの人もそうでない人もアイドルとはどういうものなのかを考え直すことができるのでぜひ本作を読んでほしいです。

また若い男女の甘酸っぱい恋愛が好きだという方も楽しめる作品になっていると思います。


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朝井リョウさんの『スペードの3』を読みました。

本作は他の朝井リョウさんの作品と異なり少しダークな感じの物語になっていました。

以下、あらすじと感想になります。


『スペードの3』のあらすじ


ミュージカル女優、つかさのファンクラブ「ファミリア」を束ねている「家」のメンバーである美知代。

彼女は他の「ファミリア」の一因には大手化粧品会社である姫々に務めていると言っているが、実際は関連会社の事務である。

そんな劣等感を持って生きている美知代が優越感を覚えることができるのは「ファミリア」での仕事だけである。

ある日、「ファミリア」に新しく入りたいと現れたのは小学校のクラスメイトであるアキであった。

アキが現れたことをきっかけに美知代の「ファミリア」での立場が徐々に怪しくなっていく…。

美知代、アキ、つかさというそれぞれ違う立場の三人を主人公として物語は動き出す。



感想(ネタバレあり)



第1章 スペードの3


本章はファミリアの家である美知代を主人公とした作品でした。

美知代は小学生時代の学級委員という立場からいつまでも抜け出せないまま大人になった痛い存在でした。

小学生時代は足が速い、いい子、頭がいいなどで人気者になることができ周りの人間にチヤホヤされます。

しかし、大人になってしまったらそのようなことだけでは評価をされなくなってしまいます。

美知代は小学生のことから成長することができず、いつまでも自分から人にアプローチすることができずに人に評価をされるのを待っている存在でした。

憧れの会社に入ることができなかった美知代は、自分が学級委員としていることができる場所としてファミリアを選びました。

しかし、そんなファミリアも小学生時代の美知代を知るアキによってくずされてしまいます。

美知代の痛い立場を読んでいるとまるで自分も小学生から成長できていないような気がして少し苦しくなりました。

この物語の救いとしては最後に美知代が改心することができたので良かったです。恐らく朝井リョウさんは読者にいつまでも子どもの立場ではいることができないということを伝えたかったのでしょうね。


それと本章では物語の終盤でアキが尾上愛季ではなく、地味でいじめられっ子だった明元むつ美だったということが分かります。

読んでいてアキが尾上愛季であることには違和感を覚えつつも全然気づくことができなかったので、巧みなトリックに驚かされました。





第2章 ハートの2


第二章は明元むつ美の中学時代が描かれている作品でした。

第一章と比べると学生の人が共感しやすい内容で朝井リョウさんらしい作品だなという印象が残りました。

明元むつ美は小学校の同級生と違う地区の中学校に通い始めたことをきっかけに自分を変えようとしていきます。

最初は友人からの呼ばれ方をむっちゃんからアキに変えるなど些細なものでしたが、ラストシーンでは自分の人生をリセットするかのように髪の毛にはさみを入れてバッサリと切り落としていきます。

第一章で描かれていた小学生時代から大人になるまでのアキの変化にはこの中学時代が大きく影響していることが分かります。

同じ環境にいる中で自分の立ち位置を変えるというのはすごく難しいことです。

もし、アキのように自分を変えたいならば新しい環境で勇気を出して自分を変えようとする意志が必要だということを学べる作品でした。


第3章 ダイヤのエース


第3章はミュージカル女優のつかさを主人公としていました。

第1章、第2章を読んでいた感じつかさは成功者というイメージでしたが、第3章を読んでつかさのミュージカル女優としての苦悩を知ることができます。

どんな成功者でもほとんどの人が誰かしらに劣等感を感じています。

つかさは、同期である円に対して常に劣等感を感じていました。

円はミュージカル女優になったきっかけとしてまるでミュージカルの物語であるかのようなエピソードを持っていましたが、つかさにはそのような劇的なエピソードはありません。

つかさの今の自分には満足できておらず円のようになりたいという想いが強く伝わってきました。

ただ、物語の最後では不正アクセスにより引退表明のブログが投稿されましたが、それをきっかけにつかさは自分という存在を見つめなおすことができて成長ができるんでしょうね。



まとめ


本作は三人の性格の女性を主人公とした連作でした。

どんなに憧れる存在だったとしてもその人はその人なりの苦労があることが分かりました。

また、アキのゆうに自分という存在を変えるためには勇気をもって一歩踏み出す必要があるということを再認識しました。

関係ないですが、この本の影響かミュージカルが見に行きたくなってきた(笑)






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