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本城雅人さんの『去り際のアーチ』を読みました。

『去り際のアーチ』はプロ野球に関する短編が8編収録されています。

主人公がプロ野球選手の他にコーチ、審判、ウグイス嬢など多様な視点でかかれている短編集でした。

以下、各物語の感想を書いていきます。






塀際の魔術師


この物語の主人公は全盛期を過ぎた2000本安打直前の4番バッター、宇恵康彦です。宇恵の最後の去り際がかっこいい作品でした。

最終的に1999本でシーズンを終わってしまいましたが、ずるずるプロを続けるのではなく辞めたのがよかったです。最後に幻となった2000本安打のグッズをファンに無料で配布して、感謝の気持ちを忘れないのもかっこいいですね。

タイトルの「塀際の魔術師」は昔の守備の上手かった宇恵のことをさしているのかと思っていたのですが、違いました。

ラストシーンの風にのってホームランが入ったことがこれまで頑張ってきた、宇恵の気持ちをのせた魔法だったんでしょうね。



スイートアンドビター


この物語の主人公はジャガーズの元監督で現在は解説者を行っている滝澤寿郎です。滝澤のジャガーズに対する愛や感謝を感じられる作品でした。

ジャガーズに対して批判的な解説を行う久保谷と批判を行わない滝澤を比較している作品でした。

ラストシーンで滝澤は、久保谷の真似をして批判的な解説を行います。

しかし、その解説のやり方が自分にはあってないと悟り、ジャガーズと幸せな生活をおくってきたんだから解説をいつ辞めてもいいと思う滝澤には去り際の美しさを感じます。

また、解説を聞いているとたまに批判がきつい解説者がいますが、久保谷のようにジャガーズの選手がファンから批判される怒りのはけ口になっていると思うとそういった実況者もかっこいいですね。






カラスのさえずり


この物語の主人公は中部ドルフィンズのウグイス嬢の大島佐絵です。

大島は昔ながらのウグイス嬢のやり方を批判してくるDJのケンジと対立します。

ケンジの対抗策として、昔ながらのウグイス嬢のやり方を続けるのではなくケンジの盛り上げ方の元となっているメジャーリーグ風の盛り上げ方をしようとした部分が個人的には好きです。

いつまでも昔の方法を続けるのではなく新しいやり方を導入しようとする大島の心意気が素敵ですね。


また、大島のウグイス嬢にあこがれて入社した石堂にウグイス嬢を続けてほしいという、ウグイス嬢にかける大島の情熱もかっこいいと思います。

何か一つのことに夢中になれる人は何歳になっても素敵に感じます。



永遠のジュニア


この物語の主人公は北関ソニックスの石田和一朗です。

北関グループの会長であった親の栄光のおかげで、北関ソニックスのオーナーをしている石田はオーナーとしての仕事ができているか悩んでしまいます。

石田は今まで自分に自身がなかったことが原因でファンと直接向き合ってきませんでした。

しかし、元父の秘書であり、現在は自分の秘書の田崎から表舞台にあがった石田を支えるのが自分の役目だという言葉をうけて、石田は考え方をかえます。

石田がラストシーンで過去の自分の殻をやぶってファンと直接向き合うシーンが爽快な作品でした。



トモ、任せたぞ!


この物語の主人公はヘッドコーチの聡司です。

ヘッドコーチって中間管理で選手と監督の板ばさみになって大変なんだなと感じる作品でした。

聡司は監督に自分の意見は伝えるが、最終的な決定を監督に任せていたことが原因で選手や他のコーチたちからは嫌われる存在でした。

最終的にヘッドコーチをやめて少年野球の監督に着いたことで自分が正しいと思う意見を言うことの大切さに聡司は気づきます。

この物語を読んで上司に対して言いにくいことはあるけど間違っていることははっきり言うことが大切だと感じました。



旅立ちのフダ


この物語の主人公はダブ屋の鉄平です。鉄平は父と野球を見にきたときに昔ダブ屋からチケットを購入したときのことを思い出してダブ屋になりました。

とにかく鉄平のダブ屋の師匠であり、恩人でもある庄司がとてもいい人です。

庄司は若者に対して安い値段でチケットを販売したりすることに、鉄平は疑問を持ちますが、これは未来ある若者に対する庄司の優しさです。

庄司は、鉄平には危険な仕事をまわさなかったことを鉄平はその場では理解できませんでしたが、物語のラストでは鉄平は庄司の優しさに気づくことができたと思います。

これからはダブ屋ではなく他のまっとうな仕事をしてほしいです。


関係ないですけどダブ屋ってまだあるんですかね。インターネットが普及した世の中ではほとんど需要がなさそう…。



笑えない男


こちらは文庫版のために書き下ろされた作品です。

主人公は大学野球で活躍している、投手の誠一です。

誠一はプロとしての道を本心では歩みたいが、会社を経営する彼女の父に大学に通うお金を支援してもらう代わりに婿入りする約束をしています。

しかし、ラストシーンで彼女の父にプロに行きたいと言ったら、父はあっさり引き下がりそのうえ彼女との結婚も認めてくれるというオチでした。

個人的にはこの物語は非現実的な要素が多すぎてあまり好きではありません。(もちろんいい物語なのですが)

ここまでトントン拍子で人生が上手くいくと最初から成功が約束されていたみたいであまり主人公に共感できませんでした。



人生退場劇場


「人生退場劇場」は『去り際のアーチ』のラストとして文句ない作品でした。

今までの物語の主人公は自分で去り際を決めていました。しかし多くの人は自分で去り際のタイミングを把握するのが難しくなかなか辞めるとはいいだせません。

「人生退場劇場」は誰かに去り際を教えてもらうことで思い上がっていた人間が辞めることができるということを語っている作品です。

この短編集を飾るのにこれ以上の作品はないでしょうね。



最後に


『去り際のアーチ』すごくおもしろかったのですが、読了後、野球に詳しかったらもっとおもしろかったのだろうなと感じる作品でした。

この主人公は現実のこの人がモデルになっているとかもありそうですね。

この記事を読んで興味をもってくれた方がいましたらぜひ読んで見てください。