としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:村田沙耶香

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村田沙耶香さんの『生命式』を読みました。

本作は短編集となっているのですがどの作品も村田沙耶香さんらしい作品の良さがあり村田沙耶香ファンならぜひ読んでもらいたいという作品でした。

以下、あらすじと感想になります。



『生命式』のあらすじ


現在、少子化が大きな問題となっている。

この問題を解決するために私が住む国でいつの間にか誰かが亡くなったときに、その亡くなった人を食べ、その後会場で出会った人と性行為を及び子どもを作るという生命式が行われるようになった。

私は、正直子どものころの生命式がなかったときにたわいもない会話で人を食べるといったことが原因で周りから冷たい目で見られた経験もあり、正直いまだに亡くなった人を食べるのに少し抵抗がある。

ある日、喫煙仲間で私と同じように人を食べるのが苦手だった山本が事故で亡くなった。

彼も他の人とどうよう生命式が行われることとなった。

生命式では一般的に人の肉の臭みを消すために味噌鍋にして食べることが多いが、山本の遺書には自分のどこの部位をどのようにして食べてほしいかと細かく書かれていた。

山本を調理する手伝いをしたこともあり、久しぶりに人の肉を食べてみると山本は美味しかった。

生命式と村田沙耶香が厳選した短編12編が収録された作品。



感想(ネタバレあり)


生命式


一作目から村田沙耶香ワールド全開の作品で衝撃的でした。

カニバリズムが行われている世界感というだけでも衝撃的なのに、生命式という儀式で子どもを増やすための手段として使われていることに衝撃をうけました。

地球星人でもカニバリズムが描かれていましたが、村田沙耶香さんはカニバリズムが好きなのかな??

現実の世界では人肉を食べるのは禁忌とされています(もしかしたら食べている部族とかあるかもしれないが)。

この物語の世界ではいつしか生命式を行うことが当たり前となっているため、人の価値観というものは周りの人間の行動によってすぐに変化してしまうのだなということを感じさせられる作品でした。

ゴキブリなどは仲間の死体を食べるというので生物的にはありの行為かもしれませんが、正直私としては受け入れがたい世界感でした。

でも少子化が進んでいる世の中では生命式はないにしろいつしか子どもを育てるための工場みたいなのはできる可能性があるかもと感じました。


素敵な素材


人の素材を使った服や家具が美しいという価値観がある世界を描いた作品です。

生命式と近い世界感の作品でした。

本作では、生きている人間の素材を材料とすることはなく、死んだ人間を素材として使われていたため、現実世界の皮の財布などを作る素材を人間にしただけだと言われたらそれまでなのですがやはり抵抗を感じる作品でした。

この作品を読んでいると、他の動物は財布などの素材として使えるのにどうして人間を素材として使ったら駄目なのだろうかという疑問が生じます。

しかし、現実世界では倫理的に考えて人を素材にするっていうのはNGですよね。

ただ、ナオキのように死んだ自分の父などを素材として作られた美しいものをみたらこういう文化もありかもしれないと思う可能性も否めないと感じたため、人間の倫理観ってなんなんだろうと悩まされる作品となっていました。





素晴らしい食卓


この作品は本作で収録されている作品の中で個人的に一番好みの作品でした。

文化によって違う、食事に対する価値観というものを狭い世界で上手に描いた作品となっています。

私自身も日本のどちらかというと都会と呼ばれる場所に長年住んでいたこともあり、イナゴは食べられるよという話を聞いたことがあるものの食べるのに抵抗があります。

同じように中国では犬を食べる文化があるらしいですが、愛玩動物として犬を可愛がっている日本ではありえない文化ですよね。

人それぞれ文化により食事の価値観は違いますが、文化の違う人を否定もせず受け入れもせず自分独自の文化を楽しんでくれというのがこの物語の結論でした。

ただ、物語の最後で夫が全ての食べ物を受け入れていましたが、もしどんな文化でも許容する人が現実世界にもいたらそれはそれで恐怖を感じるのかもしれません…。


夏の夜の口付け


3ページほどの作品にも関わらず、価値観が違うけど似ている人を上手に描いた作品でした。

こういう性格が違うけどなんか似ているという友情は読んでいていいものだなと感じますね。


二人家族


先ほどの夏の夜の口どけと同じ登場人物を描いた作品です。

家族の在り方って人それぞれでこういう友人同士が家族のように一緒に過ごすって素敵だなと思う作品でした。

こういう親の子どもって他人からみたらかわいそうとか思うのかもしれませんが、昔の時代を考えるとみんなで一致団結して子どもを育てるというのは全然ありだと思います。

それに父親はいないけどその代わりに母親が二人いるなんで子どもからしてみたら自慢できることで素敵だなと思いました。

また、自分が死ぬ直前になっても家族のように仲の良い友人と最後まで一緒にいることができるというのは本当に羨ましいことだと思いました。





大きな星の時間


眠れなくなった国の人を描いている作品でした。

私もときには眠ることは時間の無駄だから、睡眠時間を削る方法がないかなとか思うこともありますが、正直彼らのように眠ることができなかったら苦しいのだろうなと思いました。

おそらく私は一生眠ることのない生活ができるようにしてあげようかと魔法使いに言われたとしても断るに違いありません。

人にとって睡眠というのは体を休めるためだけではなく、心を落ち着かせるために必要だと感じさせられました。


ポチ


わずか10ページの作品で社会の恐ろしさを描いている作品で、読んでいて寒気が走りました。

会社で飼いならされている私たちは、ポチのようにペットのように自由なく生きているのかもしれないと考えると恐ろしく感じます。

会社に飼いならされることがないように自分の意志で行動できる人間にならなければと思わされました。

あとこの物語に登場するユキは不気味な存在ですね。普通の少女がおっさんをペットとして飼うのか…。

真面目そうに見える裏側に恐怖を感じました。


魔法のからだ


少女から女性へと変化する主人公の様子を描いた作品でした。

この作品は男性である私が読んでいた場合、共感できないところも多々あり少し個人的には残念だと感じる作品でした。

ただ、女性が読んだら主人公の気持ちに共感できて面白い作品なのかもしれませんね。


かぜのこいびと


カーテンを主人公とした独創的な作品でした。

まさか、物質を主人公にするとは!!

風太がユキオのことを好きになるシーンなどの結構読んでいて斬新で面白かったです。


パズル


良い感じの作品が続いた中で、村田沙耶香ワールドに再び引き戻されました。

人間の暖かみを自分の内臓と描いたりなかなか気持ちの悪い作品です。

物語の最後は早苗が全ての人間を内蔵として受け入れるさまなどマリアのような慈愛も感じましたがそれ以上に恐怖心が勝ってしまいました…。



街を食べる



田舎の祖母の家での生活を思い出し、街に生える食べられる野草に魅了された女性の物語です。

人の先入観って簡単に変わるんだなと思わされる作品でした。

主人公も最初は都会の汚い空気で育った野草に抵抗感を感じていましたが、街を食べてるんだと思うことで抵抗感がなくなっていきました。

物語の最後では同僚に田舎で採れた野草だといって自身が集めた野草を食べてもらうシーンがありますが、同僚は主人公の言葉を信じて田舎で採れたものだと思い美味しそうに食べます。

現実世界でも良く分からない料理があったとしても、有名シェフが作った料理だと聞けば美味しそうに食べること間違いないので、人間の先入観ってすごいんだなと感じました。


孵化


場の空気にあわせて自分の性格を変化させる女性の物語でした。

自分の周りに主人公のような女性がいて彼女のように人によって対応を変化させていたら猫を被りやがってとか思うかもしれませんが、実際に彼女ほどまではいかないかもしれませんが多くの人は場の状況に合わせて自分の性格を変化させているのでしょうね。

私も、友人の前の自分、家族の前の自分、会社での自分など場の状況にあわせて自分を変化させています。

人と上手に付き合うためには周りの空気を読むということが大切なときもあるでしょうね。

この物語を読んでいると本当の自分ってなんなんだろうと考えさせられます。

どの自分も本当の自分なのかもしれないですが、本作をしめる短編として素晴らしい作品でした。



まとめ


各短編の感想を書きましたがどの作品も村田沙耶香さんらしい独特な雰囲気がありおもしろかったです。

もしかしたらこの物語を読んだ人の中には自分の人生の一作を見つけることができる可能性があると思うほど濃い作品でした。







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村田沙耶香さんの『丸の内魔法少女ミラクリーナ』を読みました。

村田沙耶香さんと言えばコンビニ人間などどこか不思議な物語を書く人です。

タイトルだけでは本作がどんな作品か予想できませんでしたが、本作は4つの物語を収録した短編集になっています。

笑えるような話から、深く考えさせられる作品までありとても面白かったです。

以下、あらすじと感想になります。




あらすじ


36歳のOL・茅ヶ崎リナには小学生のときからの親友以外に隠していることがある。

それは、彼女が魔法のコンパクトで「魔法少女ミラクリーナ」に変身できるということだ…。(これは茅ヶ崎リナの妄想である)

彼女は魔法少女に変身することで、オフィスで降りかかってくる無理難題など社会生活におけるあらゆるストレスに対応することができる。

そんな彼女だが、親友の恋人であるモラハラ男と何故だかなりゆきで魔法少女ごっこをするはめになってしまった。

魔法少女になって喜ぶモラハラ男を見て、魔法少女であることにうんざりしたリナは魔法少女を引退することを決意する。

魔法少女を引退した後のリナの生活は、以前のようには上手くいかなかった。

しばらくしてリナが再び魔法少女に復帰するチャンスが現れる。

ポップな出だしだが一転、強烈な皮肉とパンチの効いた結末を迎える表題作。

その他、初恋の相手を期間限定で監禁する物語を描く『秘密の花園』、性別を告白することを禁じられたスクールライフを描く『無性教室』、怒りという感情がなくなった『変容』が収録されている短編集。



感想



丸の内魔法少女ミラクリーナ


タイトルの魔法少女という文字を見たとき、村田沙耶香さんの別の作品である『地球星人』のような悪い物語を想像をしてしまったが、本作は心温まるいい作品だった。

最初にリナが魔法少女ごっこを始めて27年という設定を見たときは思わず笑いが吹き出してしまった。

また、親友のレイコの彼氏である正志がノリノリで魔法少女を演じている場面も、リナとしては嫌な場面のは分かるが、読者としては笑いがとまらなかった。

本作は笑いも多い作品だが、社会の問題なども色々考えて作られた作品だ。

リナは魔法少女という設定で過ごすことで普通の社会人として生き続けていることだ。

彼女は魔法少女であり続けることで社会人として生きるストレスを吹き飛ばしているが、ストレスの多い現代社会をできる大人として生き延びていくにはリナぐらいの吹っ飛んだ考え方が必要かもしれないとも感じてしまった。

ただ、もし私がポムポムに話しかけているリナのような人をみたら目を反らして、恐らく今後関わらないでおこうと思ってしまうだろう(笑)

本作は、「大人になって魔法少女で居続ける人をどう思う?」という作者の問いかけがある作品だと私は感じた。

正志のような間違った方法でストレスを発散してしまうような魔法少女ならそんな人間はこの世には存在しなくてもよいと思う。

しかし、リナは正志と違い人を傷つけることはない。リナが魔法の力を使うのは親友を笑顔にするためだ。

子どものころの夢は馬鹿にしがちだが、大切な人を守ることができる魔法が使えるのなら私も魔法少女になりたいと思ってしまう作品だった。





秘密の花園


世界に生きているほとんどの人は、いい思い出か悪い思い出かは分からないが初恋を体験したことがあるに違いない。

どんな思い出だとしても初恋を忘れることは難しい。

『秘密の花園』は、初恋を忘れる方法を村田沙耶香さんなりに描いた作品だ。

本作で描かれている初恋の忘れ方は、初恋の相手がどれだけくだらない相手であるかを感じてみるということだ。

物語の主人公である内山は初恋の相手である早川を忘れるために、早川を一週間監禁するという行為を実践した。

初恋の早川が理想の相手であるかどうかを判断するために、内山は早川の真似をして煙草を吸ってみたり、キスをしてみた。

しかし様々なことをするうちに、内山にとって初恋の相手はあくまで小学生の早川で大学生の早川ではなかったと分かった。


この初恋の忘れ方は正直現実で行うのは無理だと思う。

ただ、この作品を通して初恋なんて実際はくだらないものだから早く忘れてしまえということを伝えられた気がする。

良い年齢で初恋を忘れられない人がいたらこの物語のような妄想をして初恋を忘れてみてはいかがでしょうか。


無性教室


性別を告白することが禁止の学園ライフを描いた作品でした。

確かに読み始めから登場人物の性別が推測しにくいようにところどころ表現に工夫がなされています。

タイトルでも予測できる通り表面的なテーマとしてはジェンダー問題を描いた作品である。

近年、LGBTの人に対する差別が問題に上がっています。

本作では、性別が分からないようにすることで、LGBTでいじめられる人を生み出さないようにしていました。

正直この解決策は、本当に問題の解決になっているとは私は思いませんでした。

ただ、ミズキとコウのように性別を気にせず恋をしやすくなるということも考えたら完全には否定できませんね…。



本作を読んでいて面白いなということは性別を告白しないような社会を作ったことで実際に性別というものが必要ないと感じた人間が出現していることです。

これはもう一つの本作のテーマでもあり、近年の性に関心のない人々のことを描きたかったのではないかと思います。

ここでは性別のない人のことを無性と呼ぶことにします。

無性の人は、男性にも女性に興奮を覚えません。同じように現代社会では性に関心のない人々も増えています。

無性というのは生物学的には正しくないとは思いますが、心がある人間の自由な生き方としてはありですよね。

様々な人たちを受け入れて、社会をより良くするにはどうしたらいいのかということを考えるきっかけになる作品でした。


変容


個人的に一番ゾッとするような話でした。

近頃の若者はという言葉を皆さん一度は耳にしたこと、あるいは口に出したことがあると思います。

本作は、そんな若者の変化を描いている作品でした。

本作の内容は、主人公真琴が物語の序盤では最近の若者が「怒り」という感情を知らないことに疑問をいだいていました。

物語が進むにつれて、若者だけではなく大人も「怒り」という感情を知らないことに怒ることを覚えている真琴は怒りを覚えます。

「怒り」という感情を教えるために仲間を引き連れて、よく分からないパーティに乗り込みますが、最終的には真琴も「怒り」を忘れ「まみまぬんでら」してしまいます。


本作を読んで自分が一番怖いと思ったのは人間の感情などもファッションと同じように流行りがあり、それは一部の人たちが決めているということでした。

この作品を読むと今自分が好きな本を読むということも社会的に操作されて好きになるようにコントロールされているかもしれないという風に感じてしまいました…。

ファッションや趣味などに流行りがありますが、周りに流されずに自分な好きなものを堂々と好きということができる人になりたいと感じさせられる作品でした。



まとめ


本作は様々な社会問題をテーマにした短編集が収録されている作品でした。

社会に対する問題を理解して、それをどのように乗り越えるか色々と考えるきっかけになりよかったです。

未読の方は面白いし勉強になるので、ぜひ読んでみてください。







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