森見登美彦さんの『熱帯』を読みました。
帯に売り文句として「あなたが思うより不可解です。」と書かれていたが、その売り文句通り本当に不可解な物語でした。
物語中で奇妙な小説として登場した熱帯に、本書を読み進めていくにつれて自分もどんどんとらわれていきました。
この記事では私なりの熱帯の考察を書いていきます。
『熱帯』のあらすじ
森見登美彦が学生時代に読んでいた「熱帯」という本がある。
その本は、「汝にかかわりなきことを語るなかれ しからずんば汝は好まざることを聞くならん」という謎めいた文章で始まる奇妙な小説だ。
内容もとにかくなんだかよく分からない小説なのだが、森見はその本に心を惹かれ大事に毎日少しずつ読んでいた。
森見がその本を読み始めてから三日目に熱帯は森見の手元から忽然と消えてしまう。
その本を買い直せばいいと思っていた森見であったがいくら書店を探せどその本は森見の前に二度と現れることはなかった。
そのため森見は熱帯の結末を知らない…。
それから数十年後、有名作家となった森見は再び熱帯を東京へとでた。
東京にはすでに熱帯に夢中になった一団がいたが、彼らもみな熱帯を読んでいる途中にその本が消失してしまい熱帯の結末を知らない。
熱帯を読んだものはみんな物語にでてくる摩訶不思議な光景に心をとらわれている。
熱帯とはどのような小説なのか、そして森見たちは熱帯の結末を知ることができるのか。
一つの物語を追いかけた摩訶不思議な物語がここにはじまる。
感想(ネタバレあり)
熱帯を読了した直後の私の感想はけっきょくどういうことだというものだった。
佐山尚一が書いた熱帯を追う物語を読んでいたと思っていたのだが気づいたら、佐山尚一が不可思議な世界で書いた熱帯という物語に出会って物語はしめられていた。
読んでいる途中は場面が最初の森見さんが熱帯を探しているシーンに戻ってくるとばかり思っていたため正直衝撃的な終わり方すぎて言葉を失ってしまった。
白石さんに手紙を残した池内氏は、京都で消息不明となった千夜さんは、熱帯という物語を残して消えていった佐山尚一は…自分の頭のなかを整理することができない。
熱帯という不可思議な物語の真実を見つけ出す作品を読んでいたと思ったら、いつの間にか物語の中で物語が語られていく、千夜一夜物語のような作品となっていき、いつしか自分が熱帯という世界に囚われていたのだ。
熱帯の不気味さに正直冷汗が止まらない…。
とりあえず落ち着いてもう一度熱帯を読み直して自分なりに熱帯を考察してみることにした。
自分なりの考察
よく分からない考察ではあるが、私たちは熱帯を探す物語ではなく、熱帯を途中まで読んだ森見さんが書いた熱帯という物語を読まされていたのだ。
自分で文章を書いていてもよく分からないがここで熱帯という物語について整理してみたい。
熱帯という物語が複数個あるとしよう。
一つは森見さんや白石さん、池内さんが追っていた熱帯。これを熱帯1としよう。
この熱帯1は佐山尚一が5章の最後で一人書き続けていた手記だと思ってよいだろう。
彼らの世界で佐山尚一なる人物が存在を消しているのは、おそらくその世界に存在していた佐山尚一という人物が別の世界線に飛ばされてしまったからではないのだろうか。
後記の佐山の言葉から佐山が別の世界線で生きていることがなんとなくだが想像できる。
二つ目は、千夜さんが持っていた熱帯だ。
作中で千夜さんが消えたときに手紙に残した「私の『熱帯』だけが本物なの」という言葉は印象的だ。
これは恐らく熱帯という物語に登場した人物はそれぞれの熱帯の世界で感じた熱帯という作品を持っているという意味だと私は解釈した。
千夜さんは佐山が体験した熱帯という物語の中で一人の登場人物として現れた。
おそらく千夜さんの持っていた熱帯は物語の途中で、千夜さんの視点に切り替わって進められていっているのではないのだろうか。
千夜さんが持つ熱帯を熱帯2としよう。
そして最後は私たちが読む、森見登美彦が書いた熱帯だ。これを熱帯3としよう。
我々は物語の途中で熱帯1を読んでいたと思っていたのだが実際読んでいたのは森見さんが書いた熱帯3だったのだ。
おそらく森見さんは物語を読んだ人がその物語を書いても同じ物語を作ることはできないということを伝えたかったのではないのだろうか。
物語が終わったように感じなかった熱帯を参考に私が熱帯を書いたら部分的には元の熱帯という作品に似たような小説になるかもしれないが、それはあくまで私の解釈によって自由に書かれた熱帯になるに違いない。
人によって物語の解釈は千差万別だということを森見さんは読者に伝えたかったのではないのだろうか。
ここまで読んでいるとよく分からない考察だが、自分が理解しているつもりになっていたらそれでいいのだろう。
まとめ
この物語をどう感じるかは人によってかなりの差があるだろうが私的には非常に満足できる作品であった。
千夜一夜物語を知っていたらこの作品をより楽しめたのかもしれないので、いつかは千夜一夜物語を読んで再び熱帯を読んでみたい。