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第7回ネット小説大賞受賞作である櫻いいよさんの『それでも僕らは、屋上で誰かを想っていた』を読みました。

第1章を読んだ時点では、ありきたりの青春小説であまり惹かれないなと感じていたのですが、読み進めると物語にどんどん惹かれていきました。

以下、感想になりますがネタバレも含みますので未読の方はご注意ください。





『それでも僕らは、屋上で誰かを想っていた』の感想

読了後、最初に思ったことは人と向き合うときは誠実に向き合わないとダメなんだなと感じました。

本作は仲が良かった5人の友情は思い出としては残ったが、結局修復できなかったというビターエンドの終わり方をしている作品でした。

蒼汰、小毬、漣、智朗、由宇の5人全員が自分の気持ちを押し隠してできあがった友情関係に満足してしまい、真の自分の姿を語ろうとしなかったことが原因でこのような結末を迎えてしまいました。

もし彼らが自分たちの秘密を友人に正直に話すことができていたらまた違う結末を迎えていたのでしょうね。

以降は蒼汰、小毬、漣について本作を読んでどう感じたか述べていきます。


蒼汰、小毬、漣の関係

この三人の関係は1章と2章を読んだ時点では以下のようになっていると思っていました。
図1

この時点では、漣は小毬を手に入れるために蒼汰と千春をくっつけようとするなんてなかなか策士だなとか蒼汰も過去に何があったのかは分からないけれど小毬に正直になれよとか思っていました。


ただ、物語を読み進めていくと実際の関係は以下のようになっていると分かります。
図2

漣が小毬ではなく蒼汰のことが好きだというのにはかなり驚かされてしまいました。
まさか小毬を取り合う物語ではなく、蒼汰を取り合う物語だったとは…。


蒼汰という人間

蒼汰は小毬のことが好きでした。
しかし、蒼汰が小学生のころ父親が浮気をして母親のことを傷つけたことをきっかけに、蒼汰は自分も父の血をひいているから大切な人をいつか傷つけてしまうという風に考えてしまいます。

これが原因で、蒼汰は本当に大切な小毬を自分の手では幸せにすることができないと思いこみ、小毬を大切に思いながらも一定の距離をとろうとします。

また、家族の関係を守るために蒼汰は常に笑顔で過ごすようになります。
自分が笑顔であり続ければ周りの人の関係は悪くならないと信じて…。


蒼汰は複雑な関係が原因で生まれたかわいそうなキャラクターであると感じました。
もし父が浮気をしていなかったら蒼汰は小毬へ想いを伝えることをためらわなかったのでしょう。
また、蒼汰の笑顔が原因で人を傷つけることもなかったのでしょう。





漣の複雑な想い

漣は蒼汰のことが好きだという想いを打ち切るために数多くの女性と付き合っていました。
しかし、どんな女性と付き合っても漣の蒼汰のことが好きだという想いは消えません。

そこで、漣は蒼汰が誰かと付き合い始めれば蒼汰への想いを打ち切ることができと考えて現状を変えようとして物語が動き始めます。

実際、漣のような思春期の時期に親友だと思っていた人間に恋愛感情を抱くということは起こりそうな気がします。
親友へ恋愛感情を持ってしまったら、漣のようにどうすればいいか分からなくなる気がします。

もし、親友に思いを打ち明けた結果、親友がそんな自分を受け入れてくれたら、それはすごく嬉しいことでしょう。
ただ、実際に思いを打ち明けた時、たいていの人は漣のような人物を拒絶してしまう気がします。

親友を失いたくないが、蒼汰への想いを打ち切ることができないという漣の葛藤がすごく上手に描かれていました。


大切な人を失いたくない小毬

小毬は読む人によっては嫌いな人もいそうなキャラクターだと感じました。

正直、蒼汰のことが大好きなのに蒼汰への想いを打ち明けない(打ち明けようとしたことはるけれど)小毬は読んでいてかなりじれったく感じます。

ただ、昔からずっと一緒にいた幼馴染を一瞬で失ってしまうのではないかという小毬の気持ちも分かります。

恋愛が成就されなかったとき、今までどおり相手が自分との関係を保ってくれるかどうかは分かりません。

小毬はそういった恋愛が原因で人間関係が壊れるのを恐れている人の気持ちを上手に表現しているキャラクターでした。


最後に

『それでも僕らは、屋上で誰かを想っていた』を読んで、本当に大切な人と向き合うときは自分を偽ってはいけないのだなと勉強になりました。

この記事では智朗と由宇については触れませんでしたがこの二人も親からのプレッシャーにつぶれそうな高校生と誰かに愛されたがっている高校生として上手に描かれていました。

まだ『それでも僕らは、屋上で誰かを想っていた』を読んでいない人はぜひ読んでみてください。