としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:池井戸潤

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池井戸潤さんの下町ロケットシリーズの第二弾となる『下町ロケット2 ガウディ計画』を読みました。ガウディ計画も前作以上に面白かったです。

シリーズものとなると、第一弾が最も面白くその後失速していく作品が多いイメージがあるのですが、池井戸潤さんの作品はシリーズものでもそういうことが起きず、逆にシリーズを重ねていく毎にパワーアップするという印象があります。

以下感想を書いていきます。ネタバレもあるので未読の方はご注意ください。


『下町ロケット ガウディ計画』の感想

佃製作所 VS サヤマ製作所


前作では佃製作所の敵は大企業のみでしたが、こんさくでは打って変わって、佃製作所と同じ中小企業である「サヤマ製作所」がライバルとして出現しました。サヤマ製作所の社長の椎名が二代目であるため、佃製作所と被っている面もあるので王道のライバルという感じがします。

しかしただの王道のライバル展開というわけではありませんでした。どちらがより良い製品を作るかだけで競っているのならば王道なんですが、椎名は佃と違いNASA時代の人脈や経験を活かして大企業への裏回しを上手くこなしていくなかなかの野心家です。

物語冒頭で、一度は日本クラインから佃製作所が人工心臓のバルブの設計を量産前提で受けたのですが、椎名の根回しがありその仕事は結局サヤマ製作所に盗られてしまいます。また、新規開拓の仕事だけではなく、前作で帝国重工に納品したロケットのバルブの更新時期が近いということでその仕事も奪ってやろうと裏で手をまわしていきます。

また椎名は佃製作所から仕事を盗るだけではなく、バルブの設計者として佃製作所で若手の有望株である中里を引き抜いてしまいます。佃航平にとって仕事を盗られたこと以上に部下を引き抜かれたことが屈辱的でした。

これまでの様子から考えると椎名が率いるサヤマ製作所には穴がないように思えますが、そんなサヤマ製作所にも隙がありました。それはベンチャー気質であるがゆえの部下との結びつきの弱さです。

椎名は仕事ができる人間には手厚い待遇をもうけるが、できない人間には厳しかったこともありけっきょく部下からサヤマ製作所の不正がもれてしまいます。まあ、部下から漏れる以前に不正をするのはどうかと思うのですが、椎名の野心家であるからこそ起きたことのような気がしますね。

最終的に、佃製作所は、一度は帝国重工のロケットバルブの仕事を盗られてしまいますが、無事取り戻すことができました。

世の中、真面目な人間が馬鹿を見るような世界かもしれませんが、本書では真面目にものづくりに取り組んでいた人間がいつかは報われるということが証明されました。

実際の仕事の世界でも佃製作所の人々のように真摯にものづくりをしている人間ばかりになってほしいですね。




人の命を救うものづくりの力


私は本書のテーマの一つに「人の命を救うものづくり」というものがあると思います。

本作ではロケットに関する話も出てくるのですが、それ以上に人工心臓や人工弁といった医療機器の開発が物語のメインとなっています。

立花と加納が血栓が詰まりにくい人工弁のために新型バルブを開発しようとしますが、最初はなかなか上手くいきませんでした。悩んだ二人は実際に医療現場に足を運び人工弁を必要とする子どもを見たり、手術の様子を見ることで新たなヒントややる気を取り戻しました。

また、ともに開発している桜田や一村も会社の利益や自分の名声のためではなく、病気で苦しんでいる子どもを救いたいという思いのみで開発を続けていきます。

最終的には血栓が詰まりにくいという問題だけではなく、人工弁をつけやすいように改良したことで手術時間を短縮することができ、子どもの体にも負担がかかりにくい人工弁の開発に成功しました。

もちろん会社が利益なしで仕事を行うというのがきれいごとなのは分かりますが、日本の社会でも本書のように行動に移すことができれば多くの人間を救うことのできる医療機器を開発できるのかもしれません。

ガウディ計画では、日本クラインの社員やアジア医療大学の貴船教授も自分たちの富や名声のために新型の人工心臓を開発しようとしてきました。ですが最終的に、なぜ自分が医療にたずさわりたいと思ったのか、それは多くの人を救うためだという真の医療にかける思いを取り戻すことができました。

法律など色々な問題があるかもしれまえんが人の命を救うことのできる人や道具が現実世界でも今よりさらに増えるといいですね。



最後に


ガウディ計画がすごくおもしろかったので次の『下町ロケット ゴースト』を読むのが楽しみです。またドラマもすごく面白いみたいなので原作と比べる意味もこめて見てみようかな。

まだ本書を読んでない方はぜひ一度お手に取ってみてください。




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ドラマが終わってしまい流行りに乗り遅れた感じがありますが、今更ながら池井戸潤さんの『下町ロケット』の第一作目摩を読んだので簡単な内容紹介と感想を書きます。

ネタバレも含みますので未読の方は注意してください。

『下町ロケット』のあらすじ


 研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。祖業依頼のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。




物語序盤から資金繰りの難しい佃製作所


下町ロケットは中小企業である佃製作所の様子を描いた物語ですが、大企業と比べると色々な面で中小企業の弱さが出ています。

まず、物語がはじまっていきなり、佃製作所の売り上げの一割をになっている取引相手である京浜マシナリーに方針が変わったから取引を打ち切ってくれと言われます。

大企業だとよっぽどのことがない限り、一つの取引先と契約が切れてしまっても会社が倒産しそうなピンチになるようなことはありませんが、中小企業にとって大口の取引先がいなくなることは厳しいです。

佃製作所は、これが原因でいきなり資金繰りが難しくなるという場面から物語が始まってしまいます。


卑劣なナカシマ工業との闘い


大口の取引先を失った佃製作所に、追い打ちをかけるかのような形で大企業であるナカシマ工業が佃製作所の作っているエンジンを自社のエンジンと似ているということで特許侵害で訴えてきます。

本当に特許が侵害されていると思い訴えているのならいいのですが、ナカシマ工業は佃製作所が裁判で弱り資金が付いたところで子会社にしてやろうという汚い法廷戦略を考えています。

物語中盤から現れる帝国重工と違いナカシマ工業は明確な悪として描かれていますね。

佃製作所は裁判は勝てば問題ないという考えで、ナカシマ工業に戦いを挑むのですが佃製作所が雇っている普通の弁護士では、特許や技術に関する知識が少なく、ナカシマ工業が雇っている弁護士には手も足も出ない状況でした。

ピンチの状況が続く中、弁護士である神谷修一との出会いで状況は一変します。神谷修一は特許などの分野に関して日本一と呼ばれる弁護士です、神谷のおかげで佃製作所はナカシマ工業との法廷戦を有利に勧めることができるようになりました。

しかし、まだ佃製作所の問題が消えたわけではありません。いくら神谷が優秀だとしてもナカシマ工業との戦いには時間がかかるため、資金が切れてしまえばおしまいです。

そこで、銀行から出向してきている殿村が資金繰りをはじめます。殿村の努力のかいあり無事資金が集まり、佃製作所はなんとかナカシマ工業に勝利しました。


帝国重工の登場


佃製作所がナカシマ工業と法廷戦をしている中、大企業である帝国重工が登場します。

ただ帝国重工は、ナカシマ工業とは違い絶対的な悪として現れるわけではなく、技術的に佃製作所に先を越されたロケットエンジンのバルブの特許がほしくて現れます。

帝国重工はロケットを製作するプロジェクト「スターダスト計画」でキーとなる部品を自社で全て作るように社長から通達があったのですが、エンジンをいざ開発してみると佃製作所がすでに特許を取得済みという問題が発生します。

一からエンジンの開発をやり直すのには時間がかかるため、帝国重工は佃製作所から特許を買おうとするのですが、裁判で弱っていることをさかてに部長の財前は安く買いたたけるのではないのかと考えます。

しかし、この財前の考えは甘く策略は失敗します。しかたなく特許使用料を支払うと財前は佃に申し込むのですが、佃からの返事は自社で納品したいという回答でした。このことが原因で佃製作所と帝国重工との戦いが始まります。


帝国重工との闘い


もとロケット研究員であった佃航平は、自分もロケットの発射に関わりたいという夢を叶えるために帝国重工に佃製作所からロケットの部品を納入すると従業員に伝えますが、これが一部の従業員から反発を買ってしまします。

従業員の多くは、特許料をもらった方が会社のためになると意見します。部品を納入したい佃航平側と特許料をもらいたい側で争っている中、帝国重工が部品を仕入れるにあたり佃製作所の調査にやってきます。

調査初日、技術職と一般職のどちらも帝国重工の社員にボロボロに言われてしまい、こんな状況では部品を仕入れるわけにはいかないと言われてしまします。

帝国重工の評価は、佃製作所の社員たちのプライドを傷つけました。言われっぱなしでは駄目だと思った社員たちは部品を納入したい側と特許料をもらいたい側で争うのをやめ、佃プライドのために立ち上がります。

努力のかいもあり、佃製作所の部品の納入は認められました。




感想(ネタバレあり)


以下感想になります。


ものづくりにかける情熱


佃航平をはじめ佃製作所の社員全員がものづくりにかける情熱がすさまじいです。

まず、佃と山崎は元研究員ということもあり、今までにない新しい技術を開発してやろうという思いがすさまじいです。

もし佃航平が一般社員から現在の社長職に移行した場合、ロケットエンジンに関する研究開発を行おうとする発想が出てこないと考えられるため、帝国重工と取引ができる企業になることがなかっただろう。またその他の小型エンジンに関しても、大企業から買収したいと思われるほどの技術をもっていることがナカシマ工業との戦いから分かります。

中小企業が生きていくには佃航平のように新しいものをどんどん開発していくイノベーションの気持ちを忘れたらいけないのかもしれません。

また、他の従業員も手作業で機械以上の作業を行うことにこだわりを持っていたり、作ったものにトラブルがあれば社員総出で原因を探ろうとするなど自社製品に対するこだわりの強さが分かります。

この本を読んだら多くの人も。自分も誰かに役立つ新しい技術の開発に取り組みたいと思ってしまう気がします。


魅力的なキャラクターが多すぎる


『下町ロケット』に登場する人物は、全員が主役なんだと思うほど魅力的です。池井戸潤の書き方が上手いためまるで自分がその人物になったかのように読むことができます。

社長の佃航平は、元研究員から道を外れてしまい社長になってしまったという過去があり、物語序盤では心の中に研究員に戻りたいという思いを持ちながら仕事をしています。しかし、物語の終わりには研究員ではなく、社長として佃製作所の一員とやっていきたいという思いをもつところがすごくかっこいいです。

殿村は、銀行から出向してきた社員でありながら佃製作所のことを誰よりも考えているのが分かります。銀行員でありながら自身が所属する銀行にはっきりものを言う態度や、正当に評価できないなら特許を譲るつもりはないという発言など第一章から常に見せ場があり池井戸さんのお気に入りのキャラなのかな?

『オレたち花のバブル組』に出てきた銀行員とは、イメージが大きく違うのですが、前作の経験を生かした人物となっており、私は本作の中で殿村が一番好きです。

また帝国重工の財前も最初は佃製作所のことをただの中小企業とバカにしていますが、実際にものづくりの現場を見ることで佃製作所の実力を素直に認めることのできる器のでかさが魅力的です。

この他にも魅力的なキャラが多数登場しています。


最後に


読み終わってから感じたことは、もっと早くこの作品を知りたかったということです。

とりあえず、まだ残り三冊下町ロケットシリーズがでているのでそちらの方も読んでいこうと思います。

もし未読の方がいれば、当ブログでは語り切れないほど魅力的な作品なのですぐ読むことを推奨します。



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Kindle Singleで読むことができる池井戸潤さんの『なるへそ』を読みました。

珍しく経済的な内容が絡まない池井戸潤さんの短編作品ですが、オチも面白く思わずなるへそと呟いてしまいました。

以下、あらすじと感想になります。


【目次】
あらすじ
感想
まとめ




池井戸潤『なるへそ』のあらすじ


いつも「準備中」の札がかけられている一見お断りの小さな寿司屋『皆藤』。

この店で月に一度、4人の男たちが毎回一人のゲストを招いて『黒焦げ蜘蛛の会』と名付けた買いを開いている。

この夜、招かれたゲストは落語家のごぼう。

話しの流れで、ごぼうは4人の男たちに自らの悩みを打ち明けることになる。

彼の悩みを解決しようと議論を交わす4人であったが、いくら考えても分からない。

そんなときある意外な人物がごぼうの悩みを解決することになった。

池井戸潤が送る短編ミステリ小説。






感想(ネタバレあり)


池井戸潤さんが得意な銀行や企業が関係する経済的な物語ではありませんが、登場人物のテンポの良い会話が面白い作品でした。

この作品自体は30ページほどの短い作品ですが、オチがしっかりしていて短編でここまで面白いミステリ小説が書けるなんてさすがだという感じです。

この物語の主人公が落語家ということもあり、落語的な物語を書こうとしたことが伝わってきました。


この物語のオチは子どもがカタカナの『メルヘン』という文字を『ナルヘソ』と読み間違えているというオチでした。

確かにこうして文字を横に並べてみると、メルヘンとナルヘソを読み間違えてしまうのも分からなくはありませんね。角度を変えたらだんだんそう見えてくる気がします。

物語を読みながら『なるへそ』ってどんな店なんだろうと考えていたため冒頭にも述べた通り、この物語のオチを読んだとき思わずなるへそと呟いてしまいました。

嘘をついていない子どもの言葉に、まんまと騙されている大人5人の様子は何度読んでもおもしろいですね。



まとめ


『なるへそ』はいつもの池井戸潤さんとは違うテイストの作品でしたが、さっくり読める作品で面白かったです。

他にも池井戸潤さんがこういった短編を書いているんだったら読んでみたいですね。





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