としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:湊かなえ

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湊かなえさんの『落日』が文庫化されていたので、早速購入してきました。

本書は主人公の長谷部と千尋がとある事件のドキュメンタリー映画を作成するために過去に起きた事件の真相を少しずつ解明していくという物語でした。

事件の真相が解明されていくにつれて登場人物たちへの真相が大きく変化していき、面白い物語でした。

以下、あらすじと感想になります。



湊かなえ『落日』のあらすじ


新進気鋭の映画監督である長谷部香りには子どもの頃の忘れられない思い出がある。

彼女は忘れられない思い出の真相を知るために15年前に起きた『笹塚町一家殺人事件』という引きこもりの兄がアイドルを目指していた高校生の妹を刺殺し、その後放火して家族全員を死にいたらしめた事件の映画を撮影することを決めた。

そんな長谷部が脚本家として目をつけたのは笹塚町生まれの脚本家、甲斐真尋である。

真尋は東京の大学を中退して脚本家の門を叩いたものの、10年間脚本家としては上手く行っておらず仕事をやめ笹塚町に帰ろうか悩んでいた。

そんなときに長谷部からの誘いを受け真尋は脚本家としてもう一度挑戦してみようとして、長谷部とともに事件に向き合うことにした。

二人で事件について調査していくうちに、この事件には驚くべき真実が隠されていたことが分かる。

長谷部は映画を撮影することで、自身の知りたかった真相を知ることができるのだろうか。

真尋は脚本の作成を通してずっと逃げ続けていた事実と向き合うことができるのだろうか。



感想(ネタバレあり)


真実とはなにか


この作品は「笹塚町一家殺人事件」のドキュメンタリー映画の撮影に向けて物語が進んでいく。

その目標に向けた長谷部と真尋の奮闘を通してドキュメンタリー映画を撮影することの難しさを感じさせられた。

「笹塚町一家殺人事件」の真相を知っている人物は犯人の立石力輝斗だけである。

しかし、力輝斗には直接話しを聞くことができないため、長谷部と真尋は当事者本人からは事件の話を聞くことができず関係者たちから調査していくことになる。

様々な関係者に話を聞いていく場面を見ていて、関係者はあくまで関係者から見た主観でしか話をすることができないんだなと感じさせられた。

関係者の中には、事実を確認せずにマスコミや他人が話していた内容を自分の考えと置き換えて話すものもいたりした。


最終的に真尋は調査した結果と自分なりの解釈を混ぜ合わせて原稿を作成し、長谷部に提出した。

この原稿はこの物語を読んできた我々にとっては事件の真相が解明された答案のような原稿となっている。

しかし、あくまで真尋の主観が入っていてその原稿が事実を描いているかどうかは力輝斗にしか分からない。

今まで私はドキュメンタリー映画は事実を分かりやすく映像を見るものに伝えているものだと思っていたが、その事実もあくまで作成者たちの主観でしかないということをこの作品から学ぶことができた。

自分の目や耳をとおして調べていき、自分がなっとくした時点でその事実が自分にとっての真実となるのだろう。





落日というタイトルの意味


『落日』というタイトルの意味を物語の読み始めは、この物語では真尋や大畠凛子のように若かりしころ輝いていた人物の没落具合からつけているのかと思っていた。

しかし、物語を読み勧めていくにつれて落日というタイトルの解釈は段々と変化していく。

物語の中盤では、長谷部が考えていた夢のある真実が段々と陰りを見せていくことから落日というタイトルなのかもしれないと思った。

長谷部が描いていたサラちゃんは蓋を開けてみれば、虚言癖が多い人物だったという評判ばかり得られてサラちゃんの印象が悪くなっていくさまは落日というタイトルにぴったりだなとも思った。


しかし、物語を読み終えてからの私のタイトルに対する解釈はこれとも違った。

長谷部は父親の自殺をきっかけに人生が陰り始めるが、物語の最後では父親は自殺をしたのではなかったと分かり希望をみいだしている。

真尋は姉がなくなったという事実とようやく向き合うことができ、今後脚本家として生きていくか笹塚町に帰って生きていくかは分からないが、自分の人生を歩み始めることができる。

これらのことから私は最終的に落日というタイトルは「日が落ちて闇が溢れ出したとしても、いつかはまた日が昇り光が満ちてくる」という希望は消えないよという意味を持っているという解釈をした。

誰しも人生日が落ちてつらい時期もあるかもしれないが、いつかは日がのぼり幸せが待っているということを湊かなえさんは我々読者に伝えたかったのかもしれない。



まとめ


『落日』は真実とは何なのかということを描いている作品でとても面白かったです。

最近の湊かなえさんの作品は昔ながらのイヤミス感が残っているながらも、最後に希望が持ているという後味の良い作品が増えてきた気がします。

次の湊かなえさんの作品も楽しみだな。




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2015年に発売された『ユートピア』がとうとう文庫化されました!

帯に書かれている「善意は悪意より恐ろしい。」というコメントを読んだだけでニアミスの女王である湊かなえさんらしい作品であると分かり読む前から楽しみでした。




『ユートピア』のあらすじ


太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。鼻崎町は、先祖代々からの住人と外から来た新たな入居者が混在する町である。

その町で生まれ育った母とともに過ごしている久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車椅子生活を送っている。

一方、陶芸家のすみれは、ある事件と彩也子が久美香にむけて書いた詩をきっかけに、久美香を広告塔に車椅子利用者を支援する福祉ブランドの立ち上げを思いつく。

出だしは上々であったが、久美香が歩いているところを見たという噂がネット上で流れ始め、徐々に歯車が狂い始める…。


ユートピアの魅力


『ユートピア』の魅力は湊かなえさんの作品らしい衝撃の結末もありますが、それ以上に福祉問題と家族についてメッセージ性があるところだと思う。

最初に福祉問題について記していく。

陶芸家のすみれは自分の売名(完全に利用するためではなく慈善の思いもあったが)のために久美香と彩也子の関係を利用しようとしました。

結果としては、ネットに悪い噂が流れすみれの考え通りことはうまく運びませんでした。

現実にもすみれのように福祉事業をきっかけに自分の名を売ろうとする人は多くいます。売名のために多額の寄付をしたりするのは何もしない人間と比べると福祉に貢献しているといえますが果たしてそれは本当に正しいことなんでしょうか。

次に家族についてだが、本書をよい進めていくと家族とはなんなのか、自分にとって自分の家庭はユートピアなのか問いかける場面が多々ある。

物語を読み終わると改めて家族の大切さを知ることができるのではないのだろうか。

本書を読むことで現実に様々ある福祉問題に改めて考え直すことができるのではないのでしょうか。また家族の関係と自分にとってのユートピアとはどういう場所であるのか改めて考えてほしいです。


感想(ネタバレあり)


『ユートピア』もさすが湊かなえさんだという作品になっていました。

序盤は鼻崎町の商店街の祭りの準備のシーンから始まりどちらかといえばのんびりして幸せそうな作品が始まるような始まり方でした。

しかし終わってみれば全然平和な要素が少なく衝撃的な終わり方でした。

物語を読み進めていくと、ところどころに昔あった殺人事件のことが書かれていたので結末はこの殺人事件に関係ある終わり方なんだろうなと思い読んでおり、殺人事件の犯人が健吾であるというのはなんとなく分かり私なりに結末を予測しながら読み進めていました。

読み終わってみれば本書の結末は私が予想していたものと大きくかけ離れており衝撃的でした。この物語にでてきた三つの家族(すみれと健吾は家族ではないが)について私なりの思いを書いていきます。


まず、菜々子の一家についてです。

久美香の足が治っており本当に歩けたということに衝撃を受けました。

久美香の足が治っているというネット上や学校での噂は、私は嘘だと思っていたので最後の彩也子の日記を見たときは衝撃的でした。

久美香は、お父さんとお母さんに仲良くしてもらうために自分の足が治っていることを言い出せませんでした。

つまり久美香が足を怪我している家族の環境が久美香にとってはユートピアにとって近いものであったわけです。

しかし、本当のユートピアに行くために最後足が治ったことを伝えることができてよかったです。

菜々子も久美香のおかげで現在の家族が自分にとってのユートピアだと気が付くことができたのではないのでしょうか。



次にすみれと健吾の関係です。大学時代の元カレである健吾がすみれのために環境の良い街に工房を建ててくれたおかげで、すみれにとって鼻崎町はユートピアとなりました。

しかし、実際は健吾が盗まれた金を取り戻すためにすみれを利用しようとしていただけでした。

ユートピアを失ったすみれは、今後新たなユートピアを見つけることができるんでしょうか。

正直私は、すみれはいつまでも現実に向き合えずユートピアを追い続けていたためそこまで好きな人物ではないがいつかは幸せになってほしいと思う。



最後に光稀の家庭について思いを書いていく。私は正直最初は都会に憧れている光稀の考え方があまり好きではなく、光稀にたいしてもあまり良い印象をいだいていなかった。

しかし、終盤では旦那が自分と娘を都会に住ませるために毎日遅くまで仕事をしていたという告白をうけ改心できたことから光稀という人物の印象が良くなった。

光稀も都会に住む自分ではなく、どんな場所にいたとしても大切な家族がいればそこがユートピアであるということに気が付くことができてよかった。


湊さんはこの物語を通してユートピアとは何なのかということを読者に伝えたかったのだと思う。



最後に


この記事は自分の考えを書き連ねているだけなので読みづらいものとなってしまいましたが、ここまで読んでくれたみなさんありがとうございます。

本記事を読んで、まだ『ユートピア』を読んでいない人はぜひ読んでみてください。



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今回は、湊かなえさんの『豆の上で眠る』を紹介していきます。

湊かなえさんといえばイヤミスの女王ということで衝撃の結末の作品を書くことが多いことで有名ですが、本作も結末に驚かされる作品となっております。


【目次】
あらすじ
感想




『豆の上で眠る』のあらすじ


結衣子が小学一年生の時、二歳上の姉である万祐子が神隠しが起こるという噂がある神社で遊んだ帰りに行方不明になった。

事件の手掛かりとしてスーパーに残された万祐子の帽子、白い車に乗っていたという目撃証言、変質者の噂などがあった。

誘拐から二年がたったある日、万祐子を神社で見つけたという連絡がきた。

家族が万祐子が見つかったと喜ぶ中、二年ぶりにあった万祐子は、結衣子にとって見知らぬ少女であった。

結衣子だけが大学生となった今でも万祐子に対する違和感を抱き続けている。

万祐子はどうして行方不明になったのか。姉は本当に行方不明にあった万祐子であるのか、はたまた別人が万祐子を名乗って成り代わっているのか...



感想(ネタバレあり)


本作も他の湊かなえさんの作品と同じように結末に驚かされる作品となっていました。最後の湊かなえさんからの問いかけに答えるためにもう一度すぐにでも読み返したくなってしまいます。

本作は結衣子の一人称視点で書かれている作品となっています。そのせいか本作を読んでいると自分が結衣子に乗り移っているかのように思ってしまうことがあります。そのため結衣子にとっての異物である万祐子が読者にとっての異物であると感じてしまいます。


最後の「本ものって、何ですか」という問いに答えることのできる人っているんですかね?

本作では、結衣子がずっと本ものであると思っていた万祐子が本ものではなく、実は偽物であると思い込んでいた万祐子が本ものであった。

実際にこんなことがあったら結衣子みたいに本ものってなんなの色んな人に聞きたくなってしまいそうですよね。物語中で結衣子に本ものとは何なのか説明できる人物が誰であるのか考えてみる。

結衣子に本ものとは何であるのかを説明できるのは万祐子が別の人間であると分かっても受け入れることのできた祖母だけであると思う。

祖母は、万祐子が戻ってきた当初は別の人間であるということに結衣子と同じく違和感を感じていた。しかし万祐子にも事情があると思い最終的には万祐子を本ものであると受け入れるようになった。結衣子と同じ立場でありながら受け入れることのできた祖母は万祐子に本ものとは何なのか唯一説明できる人物だろう。

しかし祖母は亡くなっているため結衣子に説明することはできない。


もし物語の続きがあったとすると結衣子は万祐子を本ものだと受け入れてやり直すことができるのかな?受け入れてもう一度本ものの家族を作ってもらい結衣子には、幸せになってほしい。

湊かなえさんらしく疑問が残る作品で本作もおもしろかった。




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湊かなえさんの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』が文庫化されていたので購入してみました。短いながらも湊かなえさんらしいイヤミスが味わえるみたいなので楽しみです。

今度WOWOWで連続ドラマ化するみたいですね。


『ポイズンドーター・ホーリーマザー』のあらすじ


女優の弓香の元に、かつての同級生・理穂から届いた古郷での同窓会の誘い。欠席を表明したのは、今も変わらず抑圧的な母親に会いたくなかったからだ。だが、理穂とメールで連絡を取るうちに思いがけぬ訃報を聞き……。(「ポイズンドーター」)母と娘、姉と妹。友だち、男と女。善意と正しさの掛け違いが、眼前の光景を鮮やかに反転させる。

本作は以下の6つの短編から構成されています。
  • マイディアレスト
  • ベストフレンド
  • 罪深き女
  • 優しい人
  • ポイズンドーター
  • ホーリーマザー
以下各短編についてネタバレを含んだ感想になりますので未読のかたは気を付けてください。





感想(ネタバレあり)


マイディアレスト


マイディアレストは妊婦の妹が殺人事件に巻き込まれて殺害されてしまい、姉が刑事に事情聴取をされている場面から始まります。

物語の序盤では姉に対して妹や母親の態度が酷いなと感じてしまっていたのですが物語を読み進めていくにつれて不穏な空気がでてきます。

最後の場面では、蚤をとる要領で妹のお腹をつぶしてその後顔をつぶしてしまいます。最後の「誰が何度あの夜のことを私に訊いても、答えは同じだ。——蚤取りをしていました。」という文章にはぞっとしてしまいました。

途中ででてきた猫の蚤取りが殺人につながっているとは思いもよりませんでした。

この物語は姉の目線で物語がしんこうしているため姉はかわいそうな人に移りますが、客観的にみると無職でいつまでも結婚せず家族から見ると姉はお荷物でしかありませんね。

母親が姉に対して厳しく、妹に対して厳しくないのも母親が物語中で言っているように年齢の問題であったり、姉を育てたことで育児慣れしてきたというところもあるんでしょうね。

一遍目からここまで衝撃的な作品が掲載されていると思わなかったので驚かされてしまいました。


ベストフレンド


ベストフレンドは大学四年の時に初めて脚本コンクールに応募し、九年目にしてようやく最終選考に残り優秀賞を受賞することができた漣涼香(さざなみすずか)が主人公です。

漣涼香は授賞式の日に最優秀賞の大豆生田薫子(まみゅうだかおるこ)と涼香と同じ優秀賞の直下未来(そそりみらい)と出会います。

授賞式の場で涼香は審査員三人中二人は涼香の作品を最優秀賞に推していたのに涼香のあこがれの存在である野上浩二が病気を盾に薫子の作品を最優秀賞に選んでいたことを知る。

その後涼香が書いた別のプロットが野上の手で映像化されるが評判が上がらず打ち切りされてしまう。一方薫子は脚本家として着実に成功をおさめる。

涼香は成功する薫子と自分の違いに耐えられなくなり、いつしか薫子のことを疎ましく思う。

最後の場面で凱旋帰国する薫子を涼香は花束を持って待つが薫子を刺そうとする人物から薫子をかばって涼香はなくなってしまう。


最後の涼香が刺される場面が本当に衝撃的でした。私は涼香が薫子を恨んで嫉妬から空港で薫子を刺そうとしているのだと思っていました。しかしそれは勘違いであったみたいで涼香は薫子を最初は恨んでいたかもしれないが徐々に才能を認め始めて最後は純粋に脚本家としての良きライバル(親友)として花束を渡しにきただけでした。

一方涼香を刺した直下は、涼香と違い薫子の才能を認めることができず最終的に薫子を殺そうとするという暴挙に出ます。

物語の途中でたびたび出てくる "『』" の台詞は涼香の心情ではなく直下のブログに書き綴られていた言葉だったとは…。

この物語の終わり方は正直爽やかなものではないが最後の最後に涼香と薫子のお互いが脚本家として競いあうことができる親友だと気が付くことができたのは良かったのかもしれない。




罪深き女


この物語は電気店で刃物を振り回して死傷者十五名を出した黒田正幸容疑者の知り合いだとして警察に彼のことを話す天野幸奈が主人公です。

天野幸奈は警察に黒田正幸は母子家庭で苦労していたことを伝え子ども時代には幸奈が母から虐待される正幸に食べ物を与えていたことなどを教えた。

最終的に幸奈と正幸の関係は正幸が幸奈を母親から解放するためにアパートを燃やしてしまいそれぞれが母親を亡くして孤児院に引き取られてしまい二人の関係は終わってしまいます。

そして事件の一週間前に二人は電気店で再開します。幸奈は再会を喜び今の自分が幸せであることを伝えましたが、正幸が幸奈だけ幸せになっていることを恨み殺人事件を起こしたと幸奈は話します。

しかし、今までの幸奈の話を警察から教えられた正幸は反論します。

そもそも正幸はもともと母親に虐待されていなかったが正幸の母の再婚を憎んだ幸奈の母の嫌がらせが原因で暴力を受けるようになった。

火事を起こしたのも幸奈を救うためではなく自分の母の暴力に耐えきれなかったからだ。

殺人事件を起こしたのも運の悪い人生に嫌気がさしただけで正幸は幸奈のことを覚えてすらいなかった。


幸奈の警察への証言は見当違いのものばかりでしたね。幸奈は自分のいいように思い出を解釈していただけで正幸にはなんとも思われていませんでした。

もし正幸が幸奈一家にであっていなければ幸せに暮らせいていたのかがきになりますね。

正直幸奈が不幸に酔いしれているだけだと分かった状態で「罪深き女」をもう一度読み直すと胸糞が悪い話で気持ち悪いですね。


優しい人


会社の同僚ときていたバーベキューで奥山友彦が殺害され、犯人は交際相手の樋口明日実であるとされている。この物語では友彦を知る人物と明日実の心情から事件の真相が浮かび上がってきます。

友彦を知る人物の証言はどれも似たような内容で友彦は自己主張が苦手だが頭がよく優しいというものばかりでした。

明日実の心情では明日実の小さいころからのエピソードが語られている。子どものころから母親に人に優しくするのが当たり前だと教え込まれてきました。

そのため社内でも気持ち悪いといわれている友彦にたいして同情していまい優しくしてしまいました。その結果友彦から勘違いされてしまい、明日実は友彦からのストーカー被害に苦しめられることになります。明日実をそれを上司や警察などに相談するが相手にされません。

明日実は友彦が最後一緒にバーベキューにいけば諦めてくれるといったのでそれを了承します。

しかしバーベキューの場で友彦は彼氏を人質に脅迫し、明日実に結婚をせまります。その行為に嫌悪感をいだいた明日実はテーブルにあった包丁に手を取り友彦を刺し殺します。


友彦の周りの人間の話を聞いてると友彦はとても優しい人物のように見えます。しかしそれは表向きの話でした。ブログで人の悪口をかくなど友彦は裏の顔をもっていました。

一方明日実も表向きは友彦と同じく優しい人です。しかし明日実は優しいのではなく人から頼まれたことを断れずにやっているというタイプでした。

最後の優しい人の証言はとても深いですね。優しいことは素晴らしいのかもしれませんが我慢して優しくしたり無理して優しさを背負わせるのはあまりいいことではないのかもしれませんね。

周りの人間ももし優しい人を見かけたらそれを拍手して見守るのではなくその優しい人の手助けをするべきなんでしょうね。


ポイズンドーター


この物語の主人公は女優である藤吉弓香です。彼女は母親に女で一つで育てられたが、レール通りの人生を歩むのが苦痛となり母親の言動にストレスを感じるようになる。

そんな弓香に社会的なテーマを取り上げて討論する番組のオファーが届く。テーマは "毒親" でした。毒親に苦しんでいる子どもたちの励みになると思い、オファーを引き受ける。

その番組のあと親友である理穂から弓香の母親がなくなったという連絡が届く。

世間では毒親のエピソードや弓香が出版した本が原因で自殺したのではないかと噂されている。


この物語のタイトルは毒娘だ。親をテレビやネットなどで批判するような人間は毒娘(毒息子もいるだろうが)だと言いたいのだろう。

親が子どものころをテレビなどでほめることはあっても批判することはない。一方子どもはネットやテレビを通じて親を批判することがある。

世間一般からみれば毒なのは親ではなく子どもなのかもしれない。




ホーリーマザー


『ホーリーマザー』はポイズンドーターの後の物語で、弓香の友人の理穂視点です。

理穂の義母は弓香の母の友人であり、弓香が母のことを毒親であると公表したことが許せなかった。理穂は義母のことを疎ましく思いながらも義母の抗議文に訂正を加えた週刊誌に送る手助けをした。

そんな中、理穂に弓香から久しぶりに連絡が入りヒステリックな調子で会えないかといわれる。

弓香と再会した理穂は弓香の母の佳香は毒親ではないと反論し、本当の毒親を知っていると伝える。ただ理穂の言いたいことは弓香には通じませんでした。

弓香と別れた理穂は娘から嫌われて毒親だと思われたとしても自分が母にしてもらったように育てたいと考える。いつか娘も母は自分のために厳しかったのだと分かってくれるから。


毒親の基準って難しいですね。少し厳しいぐらいだったら子どもは親のことを毒親だと思うことはないかもしれませんが、継続的に厳しいのが続くと精神的にまいってしまい親のことを毒親認定しまう可能性があります。

一方物語中に登場したマリアの母親のような人物は娘を金儲けのために売るというどをこした毒親だ。理穂は毒親と言っていいのはこういう人物だけであると言っているが本当にそうなのだろうか?

母親が全員完璧な聖母のような存在になるのは無理だろう。たあだ子どもにさえ将来的に聖母(良い母だったと)思ってもらえれば、毒親と悪態づかれることはないので教育成功なのだろう。

弓香も結婚して姑と出会うことがあったら自分の母のことを毒親だといわなかったのかもしれないですね。



まとめ


ここまでご覧いただきありがとうございます。

どの短編もメッセージ性が強く深く考えられる話ばかりでした。また多くの話が読了後後味が悪かったのではないのでしょうか。

私は本作の中では一番『ベストフレンド』が好きです。最後に涼香がなくなったのは後味が悪かったですがまだハッピーエンドと言えるのではないのでしょうか。

みなさんはどの話が好きですか?

他にも湊かなえさんの短編が読みたい方には『サファイア』がおすすめなのでこちらもぜひ読んでみてください。


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湊かなえさんの青春小説『ブロードキャスト』の続編であるドキュメントを読みました。

前回のブロードキャストが青春色が強かったのに対して今回の『ドキュメント』は湊かなえさんらしいイヤミスといった感じの要素もありおもしろかったです。

ブロードキャストにつての内容を思い出したい方は以下の記事をごらんください。



以下、あらすじと感想になります。




『ドキュメント』のあらすじ


中学時代に陸上で夢を追い求めていた町田圭祐は、高校受験の当日交通事故にあい、走ることができない体になってしまった。

そのこともあり高校では憧れていた陸上部ではなく、放送部に入ることになる。

3年生が引退後、圭祐は放送部の同級生の正也た久米さんたちとテレビドキュメント部門に挑戦していた。

テレビドキュメント部門の題材として陸上部の活動を撮影していくことになり、圭祐は中学時代の陸上部の仲間であり、親友である良太の取材をすることになった。

取材が順調に進んでいく中、ある日撮影に使用していたドローンの映像に煙草を持って部室を出てくる、良太の姿が映されていた。

陸上に真剣に向き合ってきた良太がそのようなことをするはずがないと思っている圭祐は、事件解決のために奔走する。

事件について調べていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになっていく。



感想(ネタバレあり)


最初に述べたとおり、今回の『ドキュメント』は前作の『ブロードキャスト』と比べてミステリー要素が強く湊かなえさんらしさが強く表れている作品でした。

単行本化にあたり書き下ろされた終章は、コロナに対する湊かなえさんからの高校生からの応援のメッセージという感じが強かったので、イヤミスという感じではなかったのですが、7章を読み終わった時点では犯人も見つかったのですが、どことない嫌な気持ちにさせられてしまいました。

こういう後味の悪いところが湊かなえさんの作品らしくていいんですけどね。


この作品を通して伝えたかった事


良太が煙草を持っていた映像を陸上部の原島先生に送信した犯人は、放送部の翠先輩でした。

同機は松本(兄)と間接的に別れる原因になった、良太を貶めるために行った行動でした。

この文だけ見たら翠先輩最悪のやつだと感じてしまうかもしれませんが、実際は翠先輩も被害者の一人です。

誰からの被害者なんだと思う方もいるかもしれませんが、皮肉なことに放送に関連するマスコミのでっち上げた記事が原因で翠先輩は良太を貶める行動をしてしまいました。つまり、翠先輩もマスコミによる被害者だったのです。

高校生だけに言える話ではないのですが、日本人はマスコミに対する信頼性をなぜか異様に高く持っています。

そのため、一度世の中に出てしまった記事に関しては、本人がどれだけ否定したとしても記事に書かれているのだからマスコミが正しいのだと感じてしまう人が多いです。

また、現代ではネットが普及したことにより、どんな人でもネット記事を書くことができて注目を集めるためだけの嘘の記事が増えつつあります。

私の解釈になってしまいますが、湊かなえさんはこの『ドキュメント』という作品を通じて私たちにマスコミが書いている記事は全てが真実ではないよということを伝えたかったのではないのかと思っています。

もちろん全てのマスコミ関係者が悪というわけではないのですが、この作品を読んでマスコミ関係の人には自分が書いた記事が原因で人を不幸にする可能性があるということを再度認識してほしいと感じました。


コロナに対する湊かなえさんのメッセージ


文庫化を記念して書き下ろされた終章では、湊かなえさんなりのコロナで苦しんでいる人々に対しての強いメッセージがありました。

もし、昨年の時点でコロナが収束していたら終章はまたちがった作品が書かれていたのではないのかと推測することができます。

現実では、昨年は多くの部活動の大会が中止になってしまい多くの若者たちが実力を発揮できないまま部活動を引退することになりました。

『ドキュメント』の作品内でもコロナの影響で放送部の甲子園のような存在であるJコンが中止されてしまいました。

しかし、本作ではJコンの代替となるコンテストがWeb上で開催されることになり、放送部の2年生たちは悔いの残らないように実力を発揮することができました。

おそらく湊かなえさんは、中学生や高校生たちに対してコロナが原因で自分の望むような結末にならなかったかもしれないけれども、代替の大会などを利用したりしてこれからの未来のために実力を十分発揮して頑張ってほしいということを伝えたかったのではないのでしょうか。

また、こういった大会の運営に関わる人たちに対しても、色々と大変かもしれないが若者たちの夢を叶えるために何かしてほしいということを伝えたかったと私は感じました。



まとめ


『ドキュメント』は個人的には前作よりも自分好みの作品でいい感じに湊かなえさんらしさがありました。

ただ、次回作があるなら圭祐たちの高校最後になるJコンをイヤミス要素少なめの青春要素多めで書いてほしいなという風にも感じてしまいました。

ちなみに今回購入したのはサイン本でした。

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