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相川英輔さんの『ハンナのいない10月は』を読みました。

『ハンナのいない10月は』は大学を舞台にした作品ですが、現代の少子化の影響に伴う大学統合をテーマの一つにしているのが独特でおもしろかったです。

また、学生の視点だけではなく、大学教員の視点からみた大学を描いているのも魅力的でした。

以下、あらすじと感想を書いていきます。





『ハンナのいない10月は』のあらすじ


正徳大学4年の佐藤大地は、内定を獲得することができ残る大学生活は単位を取得するだけだ。

就職活動の影響で授業の出席日数が足りないため、大地はそれぞれの授業を担当する先生に単位取得の配慮を願い出るのだが、「文学」を担当する森川先生だけが特殊な条件を提示してきた。

「この部屋にある本から、僕が最も好きな一冊を当ててごらん。正解できたら単位を与えるよ」

森川の研究室には2000冊ほどの本が置かれているが、はたして大地は森川の最も好きな本を見つけて無事大学を卒業することができるのか…。

また、大地の卒業をかけた物語の裏では正徳大学を貶めようとする黒幕が暗躍している。森川たち正徳大学の教員たちは正徳大学を守ることができるのか。

正徳大学を舞台にした青春ミステリ小説が今始まる。


感想(ネタバレあり)



森川先生の本に対する思い


大地は森川の最も好きな本が「さかさま川の水」だと予測し、森川はそれに対して「正解だよ」と言いました。

しかし、実際は以下の台詞から分かるとおり森川は全ての本を大切にしていて本には優劣をつけていませんでした。

本に順位なんてつけられない。どれも同じぐらい大切だよ。格好つけじゃなくて、本当にそう思うんだ。ある意味、僕は本に生かされているようなものだからね。沢山読んで、分析したり論じたりしたからこうやってここで働くことができている。僕に居場所を与えてくれたのは本なんだ。優劣なんてつけられないよ
『ハンナのいない10月は』 p.168より

この台詞を読んで、私は今までこの本は面白かった、面白くなかったなどと本に優劣をつけていたことを反省してしまいました。

もちろん読んでいる本の中にはおもしろくないと感じる本もあるかもしれません。けれども、これからはなぜその本を面白くないのかをしっかりと分析して、おもしろくないから駄目な本だったとすごに優劣をつけるのをやめたいと思いました。





受けてみたい「文学」の授業


『ハンナのいない10月は』を読んで、とりあえず森川先生の「文学」の授業を受けてみたいと感じました。

森川は、最も好きな一冊を見つけた大地に出席日数は足りないが単位を与えましたが、そのことが原因で最終章ではネットで誹謗中傷をあびます。

しかし、「文学」の授業を過去に実際に受講した在学生やOBから、森川先生の授業は少し変わっているがとてもためになったという森川に加勢する意見をもらうことができます。

なかなか印象に残らない教養の授業で過去の受講者がどんな内容だったのかを覚えているなんてよっぽど面白い授業だったに違いありません。

また、森川が大地に単位を与えた場面からも分かるように、森川はただ授業を受けている学生ではなく真剣にシラバスに掲載されている目標に向かい学習している学生を高く評価していることが分かります。

また、単位を落としてしまった学生にどこが悪かったのかを真剣に話したという過去もあり、森川の教育的指導力の高さが分かります。

なので、私は森川の文学の授業を受講してみたいと感じました。


大学の裏側


大学といえば学生を育ている場や研究としての場の印象が強いですが、『ハンナのいない10月は』では大学の裏側についてもしっかりと書かれていました。

この物語の舞台となっている正徳大学はおそらく私立の大学であると考えることができますが、オープンキャンパスの場面では定員割れを起こさないために、高校生に大学の魅力を伝えようと大学全体で頑張っていました。

このことから大学も何もしなくても学生が入学してきてくれるような場所ではなく、会社と同じで大学同士で学生獲得のために激しい競争があることが分かります。

こんかいの物語ではこの競争の裏でスパイが存在していたりしますが、実際に企業スパイ的な人って存在するんですかね?

もし存在していたとしたら結構な大問題な気がします(笑)。


また、近年の大学では専門科目に重点が置かれていて教養科目はないがしろにされていることが書かれていました。実際に最近まで学生だった私からしてみても教養科目ってとりあえず単位をとるためだけに受けている授業という印象が強かったです。

しかし、教養科目は学生の視野を広げるために儲けられている授業なので、多様性が広がる今、教養科目はとても大切な授業です。

『ハンナのいない10月は』では教養科目の重要性も伝えたかったのかもしれません。


他にも学内での派閥争いや、講師と教授陣の格差などが他の作品ではなかなか描かれないことがかかれていて面白かったです。



最後に


『ハンナのいない10月は』は、今後の正徳大学がどうなるのかが気になる終わり方をしていたので、もし続編がでるようなことが必ず読みたいと思いました。

本作をまだ未読の方はぜひ読んで見てください。