としおの読書生活

田舎に住む大学院生であるとしおの読書記録を綴ります。主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にも旅行やパソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:短編集

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辻村深月さんの本屋大賞受賞後、第一作がついに発売されました!

『噛みあわない会話と、ある過去について』は短編四作が収録されている。

本書の帯裏に「救われるか後悔するかは、あなた次第。」と書かれているが、本書を読み終わった人ならばこの言葉が本書を表現するのに最適な言葉であると分かるでしょう。






『噛みあわない会話と、ある過去について』のあらすじ



ナベちゃんのヨメ


大学時代、コーラス部でよく女子とつるんでいた男を感じさせない男友達ナベちゃん。大学を卒業して七年、ナベちゃんが結婚するという。

部活仲間が集まった席で紹介された婚約者は、ふるまいも発言も、どこかズレていた。

戸惑う私たちに追い打ちをかけたのは、ナベちゃんと婚約者の信じがたい頼み事であった…


パッとしない子


小学校教師の美穂には、有名人になった教え子がいる。教え子の名は高輪佑。国民的アイドルグループ「銘ze」の一員だ。

しかし、美穂が覚えている小学生の彼は、運動会の入場門さ制作で独自の芸術性を見せたこと以外はおとなしくて地味な生徒だった。

TV番組の収録で佑が美穂の働いている小学校を訪れる。久しぶりの再会が彼女にもたらすものは…。


ママ・はは


小学校教員の私は、同僚のスミちゃんの引っ越しを手伝っていた。

保護者会での真面目すぎてずれている児童の母の話をきっかけにスミちゃんの真面目すぎた母親との昔話が語られた。

私は、スミちゃんの話を聞いているうちにある違和感を感じる。その違和感の正体とは…。


早穂とゆかり


地元の雑誌『SONG』のライターをしている早穂は、教育者として有名になった同級生のゆかりの取材を行うことになった。

早穂は、ゆかりは小学生のころは地味で目立たないタイプのイメージがあったため、ゆかりの成功が実感できなかった。

久しぶりに会うゆかりから早穂にある言葉が告げられる…。




感想(ネタバレあり)


噛み合わない会話とある過去についてを読んだときに、辻村深月さんは本物の天才だと感じた。

ここまで読者に強いメッセージを与える小説家は中々いないのではないのだろうか。

本書は、人によって思い出のとらえ方が違うというテーマで書かれている。

思い出のとらえ方が違えば会話が噛みあわない。まさに本書のタイトルがテーマとなっている。

以下、各物語の感想を書いていきます。


ナベちゃんのヨメ


『ナベちゃんのヨメ』では、女性陣はナベちゃんの嫁の自分の友人のふりをして結婚式に出て余興をほしいという発言を不快に感じてしまう。しかし、ナベちゃんは友人に対しての嫁の発言を訂正せず逆に余興をしてくれないなら結婚式に出なくていいと言ってしまう。

そんなナベちゃんを見て友人たちは、ナベちゃんは嫁といても幸せではないと思ってしまうが、ナベちゃんは自分を愛してくれる人間の存在に満足していた。

過去の男友達としてしか見てもらえなかった経験がナベちゃんと友人の間での解釈が異なっていたことを佐和たちは気づいた。

『ナベちゃんのヨメ』は、まさに本書のタイトル通りの物語であった。これを読んだとき自分にも人にこういった思いをさせていた経験があるのではないかと思ってしまった。






パッとしない子


『パッとしない子』は、教師の美穂が教え子でアイドルになった佑から感謝の言葉をもらえると思っていたが、逆で自分や弟に対して「パッとしない子」と知り合いに伝えていたことを恨んでいたという話をされることになった。

この物語を読んでいて私は、美穂みたいな人間と関わりたくないと思ってしまった。美穂は、人によって態度をすぐにかえるような存在で、まるで大人になったのに悪い意味で子どものままの人間だ。

また美穂が作っていたクラスに対して、佑の弟は「先生の王国みたいになっている」という発言を残しているが、教職にかかわっている人間で自分のクラスがそのようになっている人は少なくないのではないのだろうか。教員は人によっては、若いうちから子どもや保護者に先生といわれ続けるため自分がすごく偉い存在に感じる人がいるみたいだがそういった教員が本書を読んでいるのならそういった態度を改めなおしてほしい。

物語の最後に佑は「入場門を作ったのは自分ではなく一つ上の学年だ」という発言を残しているが果たしてこれは真実なのか。私は、美穂のような無責任な教員が児童一人一人のことをきちんと覚えているとは思えないので佑の発言は真実であると思った。


ママ・はは


『ママ・はは』は、本作の物語の中ではテーマにそっているものの毛色が少し異なる物語となっていて不思議な話となっている。

スミちゃんがははのことを恨み続けていたらいつの間にか現実世界がねじ変わってははがママに変わっていたという話であった。

物語の序盤でスミちゃんは児童の真面目すぎる母にたいして「そういうお母さんはきっといなくなるよ」という発言をしているが、最後まで読み終わったときやっとこの発言の恐ろしさに気が付くことができた。現実世界でも自分が知らないだけでもしかしたらこういうことが起きているのかもしれない…。

ははを恨んでいたスミちゃんだけが以前のははの記憶を保っているので私との会話に矛盾が生じているのもこの物語の面白い点だ。

教育熱心すぎる母親に限った話ではないが親は子どもに必ずしも恨まれないいわけではないので、恨まれることがないように子どものことを考えて大切に育てなければならない。


早穂とゆかり


『早穂とゆかり』は小学生のころいじめをしていた早穂といじめられたゆかりが数十年ぶりに会うという物語であった。

この物語は「いじめ」は単純に加害者と被害者だけの構図ではないということを表している。加害者が悪いのは間違いないが、加害者に必ずしも悪意があるわけではない。また被害者にもいじめを受ける原因が少なからずある。

ゆかりは早穂に自分のことを悪意があっていじめていたのかを確認する。もし早穂がゆかりに対して、汚物に触れるようなやり方ではなく人間らしく接することができていたら最後にゆかりからいじめ返されるという落ちではなかったのかもしれない。

早穂の視点で物語が進んでいたがゆかりの視点での物語の進行も読んでみたかった。



最後に


本作は全ての短編が非常に面白く優劣がつけがたいが、あえてつけるならば私は『パッとしない子』が最も好きな話だった。

ここまで本記事を読んでくれた方はほとんどの人がすでに本作を読了済みであると思うが、もしまだ読んでいないのならばすぐにでも読んでもらいたい。

メッセージ性の強い短編が四編ものっていて本当に素晴らしい一冊であった。




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本城雅人さんの『去り際のアーチ』を読みました。

『去り際のアーチ』はプロ野球に関する短編が8編収録されています。

主人公がプロ野球選手の他にコーチ、審判、ウグイス嬢など多様な視点でかかれている短編集でした。

以下、各物語の感想を書いていきます。






塀際の魔術師


この物語の主人公は全盛期を過ぎた2000本安打直前の4番バッター、宇恵康彦です。宇恵の最後の去り際がかっこいい作品でした。

最終的に1999本でシーズンを終わってしまいましたが、ずるずるプロを続けるのではなく辞めたのがよかったです。最後に幻となった2000本安打のグッズをファンに無料で配布して、感謝の気持ちを忘れないのもかっこいいですね。

タイトルの「塀際の魔術師」は昔の守備の上手かった宇恵のことをさしているのかと思っていたのですが、違いました。

ラストシーンの風にのってホームランが入ったことがこれまで頑張ってきた、宇恵の気持ちをのせた魔法だったんでしょうね。



スイートアンドビター


この物語の主人公はジャガーズの元監督で現在は解説者を行っている滝澤寿郎です。滝澤のジャガーズに対する愛や感謝を感じられる作品でした。

ジャガーズに対して批判的な解説を行う久保谷と批判を行わない滝澤を比較している作品でした。

ラストシーンで滝澤は、久保谷の真似をして批判的な解説を行います。

しかし、その解説のやり方が自分にはあってないと悟り、ジャガーズと幸せな生活をおくってきたんだから解説をいつ辞めてもいいと思う滝澤には去り際の美しさを感じます。

また、解説を聞いているとたまに批判がきつい解説者がいますが、久保谷のようにジャガーズの選手がファンから批判される怒りのはけ口になっていると思うとそういった実況者もかっこいいですね。






カラスのさえずり


この物語の主人公は中部ドルフィンズのウグイス嬢の大島佐絵です。

大島は昔ながらのウグイス嬢のやり方を批判してくるDJのケンジと対立します。

ケンジの対抗策として、昔ながらのウグイス嬢のやり方を続けるのではなくケンジの盛り上げ方の元となっているメジャーリーグ風の盛り上げ方をしようとした部分が個人的には好きです。

いつまでも昔の方法を続けるのではなく新しいやり方を導入しようとする大島の心意気が素敵ですね。


また、大島のウグイス嬢にあこがれて入社した石堂にウグイス嬢を続けてほしいという、ウグイス嬢にかける大島の情熱もかっこいいと思います。

何か一つのことに夢中になれる人は何歳になっても素敵に感じます。



永遠のジュニア


この物語の主人公は北関ソニックスの石田和一朗です。

北関グループの会長であった親の栄光のおかげで、北関ソニックスのオーナーをしている石田はオーナーとしての仕事ができているか悩んでしまいます。

石田は今まで自分に自身がなかったことが原因でファンと直接向き合ってきませんでした。

しかし、元父の秘書であり、現在は自分の秘書の田崎から表舞台にあがった石田を支えるのが自分の役目だという言葉をうけて、石田は考え方をかえます。

石田がラストシーンで過去の自分の殻をやぶってファンと直接向き合うシーンが爽快な作品でした。



トモ、任せたぞ!


この物語の主人公はヘッドコーチの聡司です。

ヘッドコーチって中間管理で選手と監督の板ばさみになって大変なんだなと感じる作品でした。

聡司は監督に自分の意見は伝えるが、最終的な決定を監督に任せていたことが原因で選手や他のコーチたちからは嫌われる存在でした。

最終的にヘッドコーチをやめて少年野球の監督に着いたことで自分が正しいと思う意見を言うことの大切さに聡司は気づきます。

この物語を読んで上司に対して言いにくいことはあるけど間違っていることははっきり言うことが大切だと感じました。



旅立ちのフダ


この物語の主人公はダブ屋の鉄平です。鉄平は父と野球を見にきたときに昔ダブ屋からチケットを購入したときのことを思い出してダブ屋になりました。

とにかく鉄平のダブ屋の師匠であり、恩人でもある庄司がとてもいい人です。

庄司は若者に対して安い値段でチケットを販売したりすることに、鉄平は疑問を持ちますが、これは未来ある若者に対する庄司の優しさです。

庄司は、鉄平には危険な仕事をまわさなかったことを鉄平はその場では理解できませんでしたが、物語のラストでは鉄平は庄司の優しさに気づくことができたと思います。

これからはダブ屋ではなく他のまっとうな仕事をしてほしいです。


関係ないですけどダブ屋ってまだあるんですかね。インターネットが普及した世の中ではほとんど需要がなさそう…。



笑えない男


こちらは文庫版のために書き下ろされた作品です。

主人公は大学野球で活躍している、投手の誠一です。

誠一はプロとしての道を本心では歩みたいが、会社を経営する彼女の父に大学に通うお金を支援してもらう代わりに婿入りする約束をしています。

しかし、ラストシーンで彼女の父にプロに行きたいと言ったら、父はあっさり引き下がりそのうえ彼女との結婚も認めてくれるというオチでした。

個人的にはこの物語は非現実的な要素が多すぎてあまり好きではありません。(もちろんいい物語なのですが)

ここまでトントン拍子で人生が上手くいくと最初から成功が約束されていたみたいであまり主人公に共感できませんでした。



人生退場劇場


「人生退場劇場」は『去り際のアーチ』のラストとして文句ない作品でした。

今までの物語の主人公は自分で去り際を決めていました。しかし多くの人は自分で去り際のタイミングを把握するのが難しくなかなか辞めるとはいいだせません。

「人生退場劇場」は誰かに去り際を教えてもらうことで思い上がっていた人間が辞めることができるということを語っている作品です。

この短編集を飾るのにこれ以上の作品はないでしょうね。



最後に


『去り際のアーチ』すごくおもしろかったのですが、読了後、野球に詳しかったらもっとおもしろかったのだろうなと感じる作品でした。

この主人公は現実のこの人がモデルになっているとかもありそうですね。

この記事を読んで興味をもってくれた方がいましたらぜひ読んで見てください。







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