
西尾維新さんの『デリバリールーム』を読みました。
文章は西尾維新さんらしく軽い文章となっているのですが、女性の妊娠と代理出産というものをテーマにしていて、改めて母となる女性は凄いんだなということを感じさせられました。
以下、あらすじと感想になります。
『デリバリールーム』のあらすじ
中学生にして妊娠した儘宮宮子のもとに、ある日一通の手紙が届いた。
その手紙はデリバリールームの招待状ということで、妊娠した人間に参加費50万円で幸せで安全な出産と、愛する我が子の輝かしい未来を獲得する未曾有のチャンスと書かれていた。
正直異常な内容の招待状であるが、異常なことが原因で妊娠した儘宮宮子はこの招待状を受け入れ、小説家である父を脅して参加費50万円を手に入れた。
いざデリバリールームの招待状に書かれた会場に向かうとそこでそれぞれ複雑な事情を抱えた妊婦たちと宮子は出会うことになる。
果たしてデリバリールームで宮子たちを待ち構えているものはなんなんだろうか。
妊婦たちが幸せな出産を求めて争う新感覚バトルロイヤルがいざ開幕。
感想(ネタバレあり)
妊婦同士のバトルロワイアルということで、最初は妊婦同士で殴りあいをするとかいうえげつない内容なのかとか思っていたのですが、知性を活かす感じのバトルばかりで安心することができ楽しく読むことができました。
ただ、デリバリールームの謎についてしっかりと触れられていなかったり、父親の子どもを宮子が代理出産する問題が解決できていないなど少し読了後にもやもや感も残りました。
宮子について
この物語の軸は母親の代わりに父親の子を代理出産する宮子の心境の変化を描いていることです。
個人的には物語のスタートの時点で中絶が可能な時期を超えていたのは少しいまいちだなと思いました。
多くの妊娠している女性と出会う中でそれぞれの妊婦の気持ちを知り、宮子が自分が望んでできたわけではない子どもを産むかどうか決める物語といった感じのようにした方が個人的には良かったのではないのかなと思いました。
あくまで宮子としては子どもを産むことは母親から命令された決定事項として受け入れていたのもあり、宮子の葛藤が少なく全体的に物語が淡々と進んでいったなという印象が残りました。
物語が淡々と進んでいくからこそサクサク読めるという面白さもあったのですが…。
ラストでも宮子は代理出産を受け入れていますが、なんとなく家族問題が解決していないじゃないかと感じてしまいました。
甘藍社について
甘藍社についてはAIを生み出すAIを作るために妊婦のリアルなテストデータが欲しかったという設定は個人的には好みなのですが、その他の設定があまりこだわっていないなという印象でした。
甘藍社はあくまで宮子たち妊婦を出会わせるための存在だというのは分かるのですがもう少し設定にこだわってほしかった…。
世界を牛耳っている秘密結社だという雑な設定で片付けられており残念でした。
室長の産超については代理出産を推進するための存在だということが表彰式で分かり物語を象徴するようないいキャラだなと感じました。
日本では法律的に代理出産って難しいらしいですが、産超のように癌で子どもが欲しくても手に入れることができない人も存在するため法的整備を進めてほしいなと感じました。
バトルロワイアルについて
各ステージに現れるテーマが「性別当てゲーム」、「参道ゲーム」、「想像妊娠ゲーム」、「ベビーシャワーゲーム」、「分娩ゲーム」といった感じで全て妊婦に関係するゲームとなっていました。
この本を読むまでベビーシャワーというイベントを知らなかったのですが女性はみんな知っているのかな…。
個人的に一番面白いと思ったゲームは「分娩ゲーム」です。
男性に陣痛の痛さを疑似体験させる機器を使ったゲームというのが個人的に好きでした。
陣痛を体験したことがない宮子の苦しみから陣痛って本当に痛いんだなということを感じることができました。
もし仮に現実にこのような装置があって、女性が妊娠した時に男性が疑似体験をしないといけないとかなったらさらに少子化が進むような気がしますね…。
その反面、今以上に女性を尊敬する男性が増えそうな気もしますが。
陣痛という痛みを伴って子どもを産むことができる女性の強さを感じました。
まとめ
『デリバリールーム』は出産を経験した女性の強さを感じることができる作品でした。
それと代理出産といった新しい医療技術について考えさせられる物語でもありました。
西尾維新さんの作品が好きな方は楽しんで読めると思うのでぜひ読んでみてください。