としおの読書生活

田舎に住む社会人の読書記録を綴ります。 主に小説や新書の内容紹介と感想を書きます。 読書の他にもワイン、紅茶、パソコン関係などの趣味を詰め込んだブログにしたいです。

タグ:辻村深月

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本屋大賞2018を獲得した辻村深月さんの作品を紹介します。

最初はなんとなく短編が読みたいということで手に取った『家族シアター』でしたが、読み終わったあとはこの本を選んでよかったと思いました。

みなさんは、最近忙しく家族と交流する時間が減ったりしていませんか。そして家族の絆が弱くなっていませんか。

本作はそんな風に忘れしまった家族の絆を思い出させてくれる作品です。





『家族シアター』のあらすじ


最初に本作の構成を紹介します。
  • 「妹」という祝福
  • サイリウム
  • 私のディアマンテ
  • タイムカプセルの八年
  • 1992年の秋空
  • 孫と誕生会
  • タマシイム・マシンの永遠
本書は以上の短編7編から構成されています。


「妹」という祝福


姉からの結婚式での手紙で妹が中学校時代の思い出を馳せる、姉妹の絆を描く物語。

友達からどう思われるかが気になる青春時代。真面目でダサい姉を反面教師として妹は、オシャレな人間でいようとする。対のような二人は、表面上は仲良くないが姉は、オシャレな妹を大切に思っており妹が困ったとき影から支えていた。妹は、姉が自分を支えていると知ったときどんな行動にでるのか。


サイリウム


バンギャの姉とアイドルオタクの弟の物語。

お互いの趣味をバカにしあう姉弟。姉は、アイドルオタクの弟を普段はバカにしているが、同じ誰かのファンであるという立場から誰かを応援することの大切さが分かっている。素直に伝えられない姉の思いを弟は理解することができるのか。


私のディアマンテ


優等生の娘と意識の低い母の物語。

高校の特待生として入学した娘と元キャバ嬢であった母は、昔から価値観が違っていた。しかしある出来事がきっかけで母は娘を支えてあげられる存在へと変化していく。こんな母がいたら幸せだろうと感じさせられる話となっている。


タイムカプセルの八年


教師に憧れる息子と人づきあいが苦手な大学准教授の父の物語。

ある教師のせいで息子の夢が壊れそうなのを防ごうとする父の話。父は、人づきあいが苦手で息子にもあまり興味のないように見えるが、息子を守るために奮闘する父の行動に心がうたれる。色々な種類の父がいるが息子にとってはどんな父であれ憧れの存在であると分かる。


1992年の秋空


宇宙マニアの妹と普通の姉の物語。

妹は小学生にして宇宙が出し好きという自分を持っているのに対して、姉は自分がないことをコンプレックスに感じている。しかしそんな妹も姉に憧れる部分があるという姉妹の素敵な話。それぞれのコンプレックスが、自分にない魅力を互いに尊重しあえるように変化していく。


孫と誕生会


昔ながらの考えを持つおじいちゃんと孫の物語。

海外赴任でほとんど会う機会がなかった息子家族と同居することになったおじいちゃん。孫とおじいちゃんのそれぞれが仲良くしたいという風に思っているがどう接したらよいのか分からない距離感が絶妙に描かれている。おじいちゃんが孫のことを一番に思っているという風な思いが素直に語られたとき思わず涙してしまう。


タマシイム・マシンの永遠


藤子・F・不二雄を敬愛する夫婦が赤ちゃんを連れて帰省する物語。

父が実家で赤ちゃんが大切にされている様子を見て、自分がどんな風に育てられたのかを実感する物語。最も短い短編となっているが、じんわりと胸の奥が温かくなる作品に仕上がっている。



感想


家族シアターのテーマは分かりやすく家族の絆です。

短編一つ一つにそれぞれ違う絆が描かれており、どの作品を読んでも読了後には爽やかな気持ちが残る。

ずっと当たり前のように一緒にいるから、喧嘩したりすることもあるが、長く一緒にいるからこそ仲直りする時間があると気づかされる。

家族同士の衝突は、その時は嫌なものだがそれが解消されると愛情へと変化する

また、家族の絆だけでなく家族以外との絆も描かれているのがこの作品の素晴らしさであると思う。

友人同士の絆、親同士の絆など色々な絆があり、本作を読むことで人とのつながりの大切さがわかる。



最後に


本作は、すべての短編が本当に素晴らしい作品となっている。

現在、昔の時代と比べると家族や近隣住民とのつながりは希薄になっている。

そういった関係はあまりよろしくないと思うので大人から子どもまで多くの人に本作を読んでもらい絆を取り戻してもらいたい。





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辻村深月さんの『青空と逃げる』が文庫化されていたので読みました。

マスコミや世間の悪意から様々な地へと逃げる母と息子を描いた作品で、最初から最後まで親子のつながりに心を打たれる物語でした。

以下、あらすじと感想になります。



『青空と逃げる』のあらすじ


僕の父は劇団員だ。

最近、有名な女優さんがでている大きな劇に出ることが決まったようで、遅くまで練習しているのか深夜まで帰ってこない。

ある日の深夜、いつものように父が帰ってくるのが待てず母と寝ていたら突然電話の音が鳴り響いた。

電話にでてみると、病院からの電話で父が交通事故にあったという電話だった。

母と一緒に病院に駆けつけ、父の命が無事だったことを聞き安堵した僕らは一度父の着替えなどを取りに家に戻ることにした。

家に戻って荷物の準備しようとすると見知らぬマスコミの人が家を訪ねてきた。

マスコミから僕と母は父が女優の遥山真樹が運転していた車で事故にあったことを知る。

それから僕と母は病院を訪れることはなかったが、父は事故から数週間たっても帰ってこない。

母が病院に電話をすると父は僕たちの知らぬ間に退院していたようだ…。

マスコミ、遥山の芸能事務所、世間の目などの悪意に押しつぶされそうになった僕たちは、母の提案で東京を逃げて夏休みの間高知で過ごすことにした。

高知での生活は楽しかったがそこにも遥山の芸能事務所の関係者が訪れ再び僕たちは逃げることとなった。

兵庫、大分、仙台と様々な場所に逃げていくうちに僕と母は父のいる場所を知ることとなる。

父の不倫疑惑が原因で壊れてしまった家族は元のかたちに戻ることができるのだろうか…。



感想(ネタバレあり)


感動的なラスト


最初にラストシーンの感想になってしまうのですが、感動的でとにかく涙が止まりませんでした。それと同時に辻村深月さんの物語を作る巧みさに震えました。

読者目線では物語の最初から最後までどうして拳は早苗に黙って病院をさったのか、力のタオルケットに隠れていた包丁と血はなんなのかなど疑問がありまくりでした。

しかし、息子の力はこの読者の疑問を最初から最後まで分かりながら母と逃走していたと分かったときは衝撃が走りました。

早苗も力が拳と出会ったのではと疑ってはいたものの高知にいたときから既に連絡を取っていたとは…。

私たち読者は力の視点ではなく、早苗の視点で物語を読まされていたのですね!!

ラストでは父が病院を去った理由や包丁の正体なども分かりすごくすっきりした気持ちで、早苗と力が拳と再会できたことに感動することができて良かったです。





母である早苗の変化


物語が始まった当初、早苗は夫の拳が浮気した可能性があったことやマスコミや芸能事務所の関係者が自宅を訪れることにストレスを感じて自分のことばかり考えている様子が描かれていました。

息子の力のことを考える余裕もなく、周りの人間に気をつかう余裕がなかった様子から私は、早苗に対して最初にあまり強くない人間だなという印象を抱きました。

もちろん、早苗のような状況におかれたら自分のことで精一杯になるのは分かるんですけどね…。

物語が進み大分で働き始め、安波たちに出会ったことがきっかけで早苗は変化していきました。

まず、今まで自分のことで精一杯だったのですが力のことを気にかけはじめます。

誕生部プレゼントをあげたり、お小遣いを渡したり些細なことに感じるかもしれませんが早苗に母親らしさを感じ始めました。

また、仕事では早苗の劇団員であったときの特技を活かして耳の聞こえないお客さんのために歌ってあげたり早苗の強さを感じます。

今までパートしかしたことのなかった早苗が自分の劇団員時代の特技が様々な場所で活かせることに気づくシーンは感動的です。

この物語で力の成長も分かりやすいのですが、私が最も成長したと思う人物は早苗でした。

母親としてではなく、早苗の人間としての成長は本書の一番の見どころであると思いました。


母から自立していく力


力は小学五年生だということもあり思春期の少年らしく描かれています。

母と一緒に寝るのが恥ずかしいなど反抗的な態度を見せる反面、母と父のことが大好きであることが伝わってきます。

力の成長を最初に見せた場面は、家島での優芽との出会いです。

自分よりも二つ年上の優芽と出会い異性として意識していく様子から力の子どもから大人への成長が感じられます。

母と優芽の前では一人称が変わっていたりして、男の子はこうして恋をして母から自立していくんだなということを感じました。

そして舞台は家島から大分、仙台へと変わっていきます。

大分にいたころの力はまだ母に依存して生きているという印象が強かったです。

しかし、仙台に訪れて母が病気で倒れてしまったことで力は成長しなければならない状況におちいります。

父である拳からの電話越しのアドバイスもありましたが、東京にいたころの力では母が病気で倒れたからと言って知らない人に助けを求める勇気はなかったでしょう。

見知らぬ人に母を助けてくれと頼んだ力からは、本当に母から自立して一人で生きていく力がついたことを感じました。

また、物語のラストでは東京の友人から逃げずに戻っていく場面も見せ、力は母との逃走劇を通して少年から男へと成長したことを感じました。





人を苦しめるマスコミ


『青空と逃げる』を読んで全ての人がそうではないとは分かっているものの、改めてマスコミが嫌いだと感じました。

早苗と力が逃走を始めた一つの原因は、拳と遥山が浮気をしていたかどうか関係なくマスコミが面白おかしく記事を書いたりしたことが原因です。

もし、マスコミが真摯に事実を調査していたら二人が浮気をしていなかったことも分かり、力が学校でいじめられる原因を作ることはなかったでしょう。

本作でも物語の途中で時間がたつにつれて拳と遥山のことが世間で噂されることが減ったという描写がありましたが、マスコミが世間が興味があるような面白おかしいことを短期的に適当に発表していることが分かります。

物語が終わった後の家族三人は東京での生活を再開します。

遥山の芸能事務所の関係者は拳からの説明で遥山と拳は関係がなかったことを理解するでしょうが、マスコミはこの事実が分かったとしても良くて雑誌の端にちょこっとだけこの事実を書くぐらいしか想像できません。

そのため世間からしてみたら、拳と遥山は浮気をしていた、力の父は浮気していたなどのレッテルは消えることがない気がします…。

そのため、事実を確認せずに違うことばかり書くマスコミを本書を読んで改めて嫌いだと感じました。

『青空と逃げる』は新聞連載で出来上がった作品ですが、読売新聞は他のマスコミと違いそのようなことをしてないという自信があったから本作を最後まで載せたのかが気になりますね。



まとめ


『青空と逃げる』は母と息子の成長を描いた感動的な作品でありながら、辻村深月さんの巧みな文章による面白さもある作品でした。

近いうちに本作が映画化やドラマ化されそうな気がしますね。






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2018年に本屋大賞を受賞した辻村深月さんの『かがみの孤城』 が文庫化されていたので読みました。

さすが、本屋大賞を獲得した作品なだけあって、内容もまとまっており最初から最後まで面白かったです。

以下、あらすじと感想になります。ネタバレありなので未読の方はご注意ください。



『かがみの孤城』のあらすじ


中学校入学早々、イケてる女子グループからいじめにあい、自宅に閉じこもっていた"こころ"。

ある日、いつものように学校に行けず自宅にいると、突然部屋の鏡が光始めた。

鏡に手を伸ばすと体が吸い込まれていき、その先にあったものは西洋の城のような建物だった。

城にはオオカミのような面をつけた少女と"こころ"と似たような境遇の中学生7人が集められていた。

オオカミのような少女によれば"こころ"たちは、来年の3月30日までに城に隠された鍵を見つけると、どんな願いでも叶えられるようだ。

鍵探しを行っていく中で、7人は次第に仲が良くなっていき、それぞれの事情が明らかになっていく。

城の終わりが刻々と近づいていくが、果たして"こころ"たちは鍵を見つけることができ、彼女たちの願いを叶えることができるのか。



感想(ネタバレあり)


最初にも述べた通り、物語の主題が少年少女の成長ということに焦点が当てられており、最後までこの主題がぶれることがなかったため、内容がまとまっており非常におもしろかったです。

また物語に隠されていたトリックもおもしろくて気が付いたらなるほどと思うものばかりでした。


鍵の隠し場所


鍵の隠されていた場所はどこなのだろうと考えながら読んでいたので、鍵を隠すトリックが『オオカミと7匹の子ヤギ』の童話をもとに作られていたと知ってなるほどと感心してしまいました。

オオカミがでてきて、少年少女たちのことを赤ずきんちゃんと呼んでいたのがフェイクでありヒントだったというのがすごいなと思いました。

確かにオオカミさまは、こころたちにお腹の中に石をつめるなよなどとヒントになりそうなワードを言っていたのでどこかで気づきそうですが、こころたちと同様に気が付かなかった私は、推理力がかなり低いんでしょうね…。


こころたちは別の時代をすごしていた


集められた7人がこころとリオン以外が別の年代を生きていると気が付いたときは結構な衝撃でした。

みんなが同じ中学校の生徒であると気が付き、マサムネの提案で3学期の始業式にみんなで学校に行こうとしたときに私は彼らが別の時代を生きているということに気が付きましたが、他の方はどのあたりで気がついのだろうか。

こころがマサムネのゲーム機を見て、知らないゲーム機だという部分で気が付いた人がいたら、その人はかなりの推理力がある人なんでしょうね。

ちなみに私はこの時点では本当にマサムネの親にゲーム業界の知り合いがいるのかと思っていました。

このトリックを知った後にそれぞれが同じ学校であると気がついた場面などを読み返すと、同じ場所に住んでいるにも関わらずそれぞれの会話に微妙に矛盾があることが分かりおもしろいですね。





オオカミさまの正体


オオカミさまの正体がリオンの姉であったというのは最後の最後まで気が付きませんでした。

確かに物語の中でリオンだけは一人学校に通っているなど少しイレギュラーな存在なので、なにかあるのだろうなとは思っていたのですが…。

正体を知った後にかかみの孤城は、美央が知っている物語やドールハウスから構成されていて、リオンたちと遊ぶために作られた世界だと知ったときは、号泣してしまいました。

城のリミットが年度末ではない理由も美央の命日と絡めているのもすごいなと感じました。


助けを求めることの大切さ


かがみの孤城で過ごした一年を通してこころたちは成長しました。

彼らは様々な面で成長しましたが、一番の成果は助けを求めることの重要性に気が付いたことだと私は思います。

こころたちは常に誰に相談することもなく一人で悩みを抱えていました。しかし、彼らはアキがオオカミに食べられたことをきっかけに助けを求めることの重要性に気が付きました。

また、彼女らはそれと同時に助けを求める人を助けようとする気持ちも手に入れました。

物語の終わりで、アキもとい喜多嶋先生のこころが「心の教室」に入る前の描写がすごく良かったです。

かがみの孤城でこころたちに救われた喜多嶋先生が、今度はこころたちを助けようと決意している場面でアキの成長を感じることができました。

助けを求めることって一見すごく簡単そうに感じますが、悩んでいる人たちからしたらすごく難しいことです。

『かがみの孤城』を読んで、助けを求められない人に手を伸ばせるように自分も成長しないといけないなということを実感させられました。



まとめ


『かがみの孤城』をようやく読みましたが、物語の面白さもテーマ選びも文句のつけようがない作品でした。

最後に余談になりますが、需要はないかもしれないけど彼女たちが今後どう生きていったかというスピンオフ作品をいつか読んでみたいなと思いました。(辻村深月さん書いてくれないかな…)





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辻村深月さんの『朝が来る』が文庫化していたので読んでみました。

『朝が来る』は2016年にドラマにもなっている作品みたいです。本作を読んだ後にドラマの配役を見たのですが旦那役にココリコの田中さんはなんかピンとこなかったな。

映画では井浦新が旦那やくみたいでイメージにぴったりで安心しました。(2020年10月11日追記)

本作は家族の絆を描いた作品なので家族の関係で悩んでいる人にはぜひ読んでもらいたいです。



『朝が来る』のあらすじ


長くて辛い不妊治療の末、特別養子縁組という手段を選んだ栗原清和・佐都子夫婦は民間団体の仲介で男子を授かる。朝斗と名づけた我が子はやがて幼稚園に通うまでに成長し、家族は平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、夫婦のもとに電話が。それは息子となった朝斗を「返してほしい」というものだった——。



感想


『朝が来る』は色々と考えさせられる作品でした。物語を楽しんで読むというより特別養子縁組や本当の家族の絆について考えさせられる作品であったという印象が強いです。

本作は40代で子どもを授かった栗原夫婦と10代で子どもを妊娠・出産した片倉ひかりの二つの視点から構成されている作品となっています。

特別養子縁組で朝斗を授かった栗原佐都子の視点では、血のつながりがなくても朝斗が大切であることや特別養子縁組で朝斗を授かるまでの過程が語られており、不妊治療に対する男女間の考えの違いや、養子に対する日本国内での考え方が分かります。

一方朝斗を生んだ実の母である片倉ひかりの視点では、10代で子どもを産むことになった苦難や朝斗を産んだ後の人生について書かれています。若くして妊娠した女性の一例が描かれています。

『朝が来る』では望まれずに生まれてくる子ども、子どもを授かることができない夫婦、避妊の考えが甘く若くして妊娠してしまった女性など実社会で実際に問題となっていることが取り上げられています。

こうした問題に関心のある方にはぜひ読んでほしいです。またこうした問題について詳しく知らない人でも本作をきっかけに興味を持ってほしいと思いました。

私は特に男性に読んでもらいたいと思った作品でした。多くの男性は不妊治療に関して女性だけの問題であると考える方が多いと思いますが男性にも問題がある場合があると知ってもらいたいです。


以下多くのネタバレありの感想になります。







栗原夫妻の家族に対する思い


第一章では、朝斗が養子であるが栗原夫妻にとってどれだけ大切な存在であるかが語られています。

朝斗が大空君がジャングルジムから落とされたという疑いをかけられた場面でも朝斗が大空君のことを落としていないという発言を佐都子は信じようとします。

普通の親ならば大空君一家が同じマンションに住んでいるため問題を荒立ててしまうのは自分にとって嫌なので、朝斗が悪くないと思っていてもとりあえず謝っておこうとなる人が多いのではないのでしょうか。しかし。佐都子は不安になることもありましたが謝りませんでした。

結果的に大空君が親に怒られるのが嫌で嘘をついたということでしたが、佐都子のように朝斗が本当のことを言ってるにしろ嘘を言っているにしろ真実が分かるまで信じてあげるというのは家族の絆を育むうえでとても重要なことなんでしょうね。

また片倉ひかりと話し合いをした場面でも栗原夫妻の朝斗に対する思いが分かります。

朝斗にはベビーバトンの方針であるということは関係なく昔から少しずつ自分たちは産みの親ではないということを教えていました。もし朝斗が産みの親に会いたいと言い出せば夫婦はどうにかして片倉ひかりの連絡先を探し出し合わせたに違いありません。

また栗原夫婦は朝斗のことを大切にしていると同時に朝斗を産んだ片倉ひかりにとても感謝していました。

そのため朝斗をネタにしてお金をゆすろうとする女性が片倉ひかりである信じようとしませんでした。彼女に感謝し尊敬しているからこそ朝斗の年齢を間違うなどの小さな疑問が脅迫してお金を盗ろうとしている女性が片倉ひかり本人ではないと確信をもって言うことができたのだろう。


朝斗を授かるまでの長い道のり


第二章では、特別養子縁組の制度で朝斗を授かるまでの栗原夫婦の長い道のりが描かれています。

30代半ばで母親に不妊治療をしたほうがいいのではと言われたことをきっかけに、栗原夫婦は話し合い不妊治療を始めることを決めました。

当初は妻である佐都子のみが不妊治療に通っており夫はどこか他人事でした。こういった妻だけが不妊治療を行っているというのは実社会でもよくある問題みたいで男性は自分が原因でないと思っている人が多いみたいです。

けっきょく妻が夫にも不妊治療に一緒に行くように促したおかげで子どもができない原因は夫にあることが分かりました。

夫は無精子症であるみたいで、原因が分かってから不妊治療を続けるか夫は葛藤しますが最終的に治療を行うことを決意します。女性の不妊治療も過酷ですが男性の不妊治療も多くの時間や痛みが伴うため仕事を続けながら行うのは大変みたいです。

不妊治療を夫婦で続けて四年が経過したころ力尽きた夫の表情を見た佐都子は「もうやめよいうか」と清和に優しい言葉をかけます。

「止めたいって言えなくてごめん」と話す夫の言葉は読んでいて涙が止まらない場面でした。

こうして二人はこれからも二人だけで生きていくことを決めますが、その直後に自宅で特別養子縁組に関する番組を見ます。

特別養子縁組に興味を持ったのは佐都子だけだと思っていましたがインターネットで調べてみると清和が検索した履歴が残っていました。

このことから夫婦ともに特別養子縁組で子どもを授かりたいことが分かり、ベビーバトンの説明会に行くことを決めます。

ベビーバトンの説明会の前半では特別養子縁組を組む条件が厳しいなど暗い話ばかりでしたが、後半には特別養子縁組で実際に子どもを授かった家族が表れて子どもの良さについて語ります。

この説明会の中で特別養子縁組は、「親が子どものを探すためではなく、子どもが親を探すための制度」と説明され栗原夫婦は大人の事情ではなく子どものための制度であるということが分かり子どもを授かる準備を整えます。

それからすぐに広島で赤ちゃんが生まれたという知らせをうけ病院まで直接行き栗原夫婦は朝斗を授かります。その後、片倉ひかりに赤ちゃんを産んでくれたことのお礼を言いにいきます。

朝斗の名前の由来の「朝が来たような思いがしたこと」という台詞から夫婦が朝斗を授かったことで長いトンネルから抜け出せたのが分かりますね。

この章を読んで親のためではなく子どもの未来を助けるために養子をとることは悪いことではないと分かりました。現在の日本では養子は少ないでしょうが、朝斗のような子どもを助けるために養子のための制度を充実させてほしいですね。


片倉ひかりの人生


第三章は、片倉ひかりが赤ちゃんを産む少し前の場面から始まります。

片倉ひかりは四人家族の次女ですがこの家族の父と母は真面目すぎて少しおかしな考えを持っています。

真面目であるがゆえに娘たちの若いうちからの交際を認めなかったり、娘たちが悪い友人と付き合っていないか確認するために携帯を無断で除くなどプライバシーのない家族です。(ここまでするのなら携帯なんて与えなければいいのに)

姉は親の期待通りの私立中学校に合格するなど親の考えていたレール通りの成長を歩みます。一方妹であるひかりは受験に失敗し公立中学校に進学することになってしまいこのあたりから両親との溝ができてきます。

ひかりは中学2年のときにクラスの人気者の巧と両親に内緒で交際を開始します。交際を開始してからしばらくで体の関係を持ちその後ひかりは妊娠してしまいます。

この妊娠するまでの場面は、辻村深月さんが若い男女は避妊についての認識が甘いことを表現したかったのでしょう。またひかりは真面目すぎる親に縛られすぎたばかりにこういった大人びた行動をとりたがったため両親の教育方法にも責任があります。

妊娠が発覚後既に中絶できない段階まできており、出産するしかなく両親はベビーバトンに連絡し広島で出産することが決まりました。妊娠した後も巧も子どもを欲しがっているなどと考えているひかりは読んでいてかなり気の毒でした。

広島では他のベニーバトンの世話になり妊娠している人たちとの共同生活を送ることになりました。同室のコノミは夜の街で働いた末に妊娠してしまった人でした。コノミたちなどからひかりは多くのことを学びました。

もしここでコノミたちに出会わなければひかりの人生はこの先落ちるところまで落ちっていってたのだろう…。

出産が終わり栗原夫婦に子どもを預けたひかりは栃木県に戻ります。母親は世間体を気にして学校には肺炎と伝えていたので妊娠の事実を隠せました。

学校にはひかりが妊娠した事実は伝わっていなかったが母親は

しかしその後も高校受験を失敗し、それを知った母は自分の敷いたレール通りに進まなかった娘に対して「やっぱりね」といいます。

この一言でひかりは母親との関係をたつために高校に入学してしばらくしてから広島のベビーバトンにいくことを決意します。

広島で妊娠中に生活を送っていた寮を訪問したひかりは浅見に住み込みで働かせてほしいとお願いします。それからしばらくベビーバトンで手伝いをしますがその後活動が終了することを知ります。

ベビーバトンの活動終了後も家に帰りたくないひかりは浅見に別の仕事を紹介してもらいそれは住み込みの新聞販売店の仕事でした。

そこで贅沢はできないが地道に働きますが、そこで夜逃げした同僚の借金の保証人になってしまいひかりも同僚と同様に夜逃げしてしまいます。

夜逃げし東京に向かったひかりは横浜のホテルで清掃員の住み込みの仕事を始めます。

清掃員の仕事も給料は安いがコツコツ真面目に働いていたが、そんなひかりのもとに借金取りの男が現れます。

借金から解放されたいあまりにひかりはホテルの金庫の金に目がとまりその金で借金を返してしまいます。

借金は返せたが金庫からお金を盗ったのが管理人にばれてしまいます。盗んだ金を返済するためにひかりは栗原夫婦に金を借りて返済することを決めました。

ここで第一章で栗原夫婦に子どもを返してほしいといっていたのが本物の片原ひかりであったということが分かります。

しかし。栗原家を訪れたひかりは自分がひかり本人でないと言われ、栗原夫妻がありもしない理想のひかりを自分の家族と同じようにみていることに気づき絶望に落ちます。

生きる希望を失いかけたひかりは栗原家を訪れた一か月後ふらふらとホームレスのように徘徊しているのを佐都子に見つけられます。

佐都子の「一緒に行こう」というセリフで物語は終わってしまいますが、その後は栗原夫妻の助けがあり片原ひかりも幸せあ人生が送れているのではないのでしょうか。


最後に


本作は冒頭でも言ったように実際に起きている社会問題を題材として取り上げている作品です。

年代問わず多くのかたに『朝が来る』を読んでもらい様々な問題を受け入れてほしいです。





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辻村深月さんの本屋大賞受賞後、第一作がついに発売されました!

『噛みあわない会話と、ある過去について』は短編四作が収録されている。

本書の帯裏に「救われるか後悔するかは、あなた次第。」と書かれているが、本書を読み終わった人ならばこの言葉が本書を表現するのに最適な言葉であると分かるでしょう。






『噛みあわない会話と、ある過去について』のあらすじ



ナベちゃんのヨメ


大学時代、コーラス部でよく女子とつるんでいた男を感じさせない男友達ナベちゃん。大学を卒業して七年、ナベちゃんが結婚するという。

部活仲間が集まった席で紹介された婚約者は、ふるまいも発言も、どこかズレていた。

戸惑う私たちに追い打ちをかけたのは、ナベちゃんと婚約者の信じがたい頼み事であった…


パッとしない子


小学校教師の美穂には、有名人になった教え子がいる。教え子の名は高輪佑。国民的アイドルグループ「銘ze」の一員だ。

しかし、美穂が覚えている小学生の彼は、運動会の入場門さ制作で独自の芸術性を見せたこと以外はおとなしくて地味な生徒だった。

TV番組の収録で佑が美穂の働いている小学校を訪れる。久しぶりの再会が彼女にもたらすものは…。


ママ・はは


小学校教員の私は、同僚のスミちゃんの引っ越しを手伝っていた。

保護者会での真面目すぎてずれている児童の母の話をきっかけにスミちゃんの真面目すぎた母親との昔話が語られた。

私は、スミちゃんの話を聞いているうちにある違和感を感じる。その違和感の正体とは…。


早穂とゆかり


地元の雑誌『SONG』のライターをしている早穂は、教育者として有名になった同級生のゆかりの取材を行うことになった。

早穂は、ゆかりは小学生のころは地味で目立たないタイプのイメージがあったため、ゆかりの成功が実感できなかった。

久しぶりに会うゆかりから早穂にある言葉が告げられる…。




感想(ネタバレあり)


噛み合わない会話とある過去についてを読んだときに、辻村深月さんは本物の天才だと感じた。

ここまで読者に強いメッセージを与える小説家は中々いないのではないのだろうか。

本書は、人によって思い出のとらえ方が違うというテーマで書かれている。

思い出のとらえ方が違えば会話が噛みあわない。まさに本書のタイトルがテーマとなっている。

以下、各物語の感想を書いていきます。


ナベちゃんのヨメ


『ナベちゃんのヨメ』では、女性陣はナベちゃんの嫁の自分の友人のふりをして結婚式に出て余興をほしいという発言を不快に感じてしまう。しかし、ナベちゃんは友人に対しての嫁の発言を訂正せず逆に余興をしてくれないなら結婚式に出なくていいと言ってしまう。

そんなナベちゃんを見て友人たちは、ナベちゃんは嫁といても幸せではないと思ってしまうが、ナベちゃんは自分を愛してくれる人間の存在に満足していた。

過去の男友達としてしか見てもらえなかった経験がナベちゃんと友人の間での解釈が異なっていたことを佐和たちは気づいた。

『ナベちゃんのヨメ』は、まさに本書のタイトル通りの物語であった。これを読んだとき自分にも人にこういった思いをさせていた経験があるのではないかと思ってしまった。






パッとしない子


『パッとしない子』は、教師の美穂が教え子でアイドルになった佑から感謝の言葉をもらえると思っていたが、逆で自分や弟に対して「パッとしない子」と知り合いに伝えていたことを恨んでいたという話をされることになった。

この物語を読んでいて私は、美穂みたいな人間と関わりたくないと思ってしまった。美穂は、人によって態度をすぐにかえるような存在で、まるで大人になったのに悪い意味で子どものままの人間だ。

また美穂が作っていたクラスに対して、佑の弟は「先生の王国みたいになっている」という発言を残しているが、教職にかかわっている人間で自分のクラスがそのようになっている人は少なくないのではないのだろうか。教員は人によっては、若いうちから子どもや保護者に先生といわれ続けるため自分がすごく偉い存在に感じる人がいるみたいだがそういった教員が本書を読んでいるのならそういった態度を改めなおしてほしい。

物語の最後に佑は「入場門を作ったのは自分ではなく一つ上の学年だ」という発言を残しているが果たしてこれは真実なのか。私は、美穂のような無責任な教員が児童一人一人のことをきちんと覚えているとは思えないので佑の発言は真実であると思った。


ママ・はは


『ママ・はは』は、本作の物語の中ではテーマにそっているものの毛色が少し異なる物語となっていて不思議な話となっている。

スミちゃんがははのことを恨み続けていたらいつの間にか現実世界がねじ変わってははがママに変わっていたという話であった。

物語の序盤でスミちゃんは児童の真面目すぎる母にたいして「そういうお母さんはきっといなくなるよ」という発言をしているが、最後まで読み終わったときやっとこの発言の恐ろしさに気が付くことができた。現実世界でも自分が知らないだけでもしかしたらこういうことが起きているのかもしれない…。

ははを恨んでいたスミちゃんだけが以前のははの記憶を保っているので私との会話に矛盾が生じているのもこの物語の面白い点だ。

教育熱心すぎる母親に限った話ではないが親は子どもに必ずしも恨まれないいわけではないので、恨まれることがないように子どものことを考えて大切に育てなければならない。


早穂とゆかり


『早穂とゆかり』は小学生のころいじめをしていた早穂といじめられたゆかりが数十年ぶりに会うという物語であった。

この物語は「いじめ」は単純に加害者と被害者だけの構図ではないということを表している。加害者が悪いのは間違いないが、加害者に必ずしも悪意があるわけではない。また被害者にもいじめを受ける原因が少なからずある。

ゆかりは早穂に自分のことを悪意があっていじめていたのかを確認する。もし早穂がゆかりに対して、汚物に触れるようなやり方ではなく人間らしく接することができていたら最後にゆかりからいじめ返されるという落ちではなかったのかもしれない。

早穂の視点で物語が進んでいたがゆかりの視点での物語の進行も読んでみたかった。



最後に


本作は全ての短編が非常に面白く優劣がつけがたいが、あえてつけるならば私は『パッとしない子』が最も好きな話だった。

ここまで本記事を読んでくれた方はほとんどの人がすでに本作を読了済みであると思うが、もしまだ読んでいないのならばすぐにでも読んでもらいたい。

メッセージ性の強い短編が四編ものっていて本当に素晴らしい一冊であった。




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