『終電の神様』の続編である『終電の神様始発のアフターファイブ』が発売されていたのでさっそく購入してしまいました。
本作も終電の人それぞれの物語を美しく描いていて面白かったです。
【目次】
始発のアフターファイブ
スタンド・バイ・ミー
初心者歓迎、経験いっさい不問
終電の女王
夜の家族
最後に
始発のアフターファイブのあらすじ(ネタバレあり)
この物語の主人公は元商社マンの荘二郎だ。荘二郎は優秀な商社マンとして働いていたが50代のときに部署異動にあってしまい、新しい部署の仕事で大きな損失をだしてしまったことで自身のプライドが傷ついてしまい自主退職した。
その後、ラブホテルで働くようになり、週に6日働きその中で金曜日だけは毎週終電で出勤する。
ある金曜日、荘二郎の仕事は早めに終わり始発の電車をいつも通っているカフェで待つことになった。そのカフェで近くの席に座っていたキャッチのナイジェリア人たちがそろそろ自国に戻ろうと思うが日本の彼女にアメリカ出身であると嘘をついているのでスラム街であるマココには連れて帰ることができないという話が荘二郎の耳に入った。
その話を聞いた荘二郎は自分も元商社マンで海外での暮らしが長かったため日本や他の国で仲良くなったガールフレンドに自分と一緒に来てほしいと言えなかったことや、商社マンとして自分の人生がしたことを思い返す。
始発の電車の時間が近づいてきたころカフェに一人の女性がやってくる。それは先ほどのナイジェリア人の彼女だった。彼女はナイジェリア人がアメリカ出身ではないことを知っておりどうして本当のことを言ってくれないのかそのせいで自分もあなたの国についていくと言い出せないと言った。
その話を聞いた荘二郎はナイジェリア人たちに「私もマココに行ったことがある、マココ生まれの友達はアラカ地区に家を買って幸せに暮らしている」とだけ言い店を出ていった。
店を出た荘二郎は同僚の八神と偶然会い八神を朝食に誘う。二人は疲れた顔をした人が出勤する中、夜に働く人間だけが許される午前5時からのアフターファイブに出かける。
始発のアフターファイブの感想
ナイジェリア人と日本人のカップルは荘二郎がナイジェリアに行っても幸せに暮らすことができるという通り掛けのアドバイスをしたおかげで今後も二人で幸せに暮らせるような気がしますね。
また物語の最後に八神と午前五時からのアフターファイブを満喫しに行くが、今後も二人は一緒にアフターファイブを楽しむ関係になりゆくゆくは恋愛へと発展する気がします。これも終電後の街でナイジェリア人に出会えたことと始発前に八神を見つけたからこそ起きた奇跡ですね。
荘二郎は作中では商社マンから転落したことに悲観的でしたが人生を楽しむという意味ではこれからの人生のほうが商社マンをしていた頃よりも充実しそうです。
スタンド・バイ・ミーのあらすじ
この物語の主人公はミュージシャンを目指すために岩手から上京してきた岩谷ロコです。ロコはストリートライブで自分の実力を試すために岩手から東京に来たが新宿など人通りが多い場所では歌うことができず東京に来た初日は自分の目的とはうらはらに歌わずに終わってしまう。
その夜公園にいると一人のホームレスが高校生から暴力を受けているのを見かける。それを見て居ても立っても居られなくなったロコはそのホームレスを助けに行った。
ホームレスの名はワタナベワタルといい、ワタナベはロコのギターを見ると弾かせてくれないかと頼んできた。最初は躊躇したロコであったがワタナベが楽器の価値が分かる人間だと分かると楽器を演奏することを承諾した。ワタナベの演奏はとても気持ちのいいものだった。
ワタナベの演奏が終わったあとロコはワタナベに東京に来た理由を話し、一人では歌うことができないから一緒に歌ってくれないかとお願いする。
一緒に歌うことになったロコとワタナベはストリートで歌う前に夜の間にカラオケで打ち合わせをすることになったが、その前にワタナベの身なりを綺麗にするために銭湯にいった。
銭湯からあがりカラオケボックスに向かう道で終電で帰ろうとする人たちとロコとワタナベはすれ違う。
カラオケボックスに到着し始めは見知らぬ男性と一緒にいることに緊張していたロコだがワタナベの演奏に合わせて歌い始めると緊張もなくなり音楽のすばらしさを感じる。
始発の時間の少し前に二人はカラオケボックスを出てストリートライブの会場へと向かう。誰もが始発の時間からライブなんてしないだろうと思っている中、ワタナベの「スタンド・バイ・ミー」の演奏に合わせてロコは歌いだす。
歌い始めると通り過ぎていた人が振り返りライブの終わりには歌を聞いていた人が投げ銭までいれてくれた。
ライブを終えた二人は分かれるがワタナベはロコに「歌っている君をまたこの町で見つけるよ」といいロコはそれに対して「ありがとう」とお礼をいい二人は別れていく。
ロコが東京で住むところを探して、いつかワタナベが自分を見つけられるようにワタナベのコードに歌詞をつけることを決意する。
スタンド・バイ・ミーの感想
「スタンド・バイ・ミー」は意味は違うが帰るところのない二人の物語でした。
作中ワタナベは落ちるところまで落ちるとなかなか立ち直ることができないと言っていたがこのロコとの出会いをきっかけに生活が変わってほしいと思う。物語を読んでいて自分はロコのようにいじめられているホームレスを助けることができない人間だと思うのでそんな自分に少し嫌気がさしてしまった。
それにしても音楽の力の偉大さが分かりますね。ワタナベとロコのどちらか片方が音楽に興味を持っていなければこの素敵な物語は生まれなかったでしょう。ロコとワタナベの二人の別れ際はあっさりしていたが、それは二人がまた再開できると信じあっているような気がしていていいですね。ロコが東京の町で歌い続けていつかワタナベと再開する日がやってきてほしいな。
初心者歓迎、経験いっさい不問のあらすじ
この物語の主人公は加奈と茜で舞台は夜の街歌舞伎町です。加奈と茜は歌舞伎町にある定食屋「市彩」で出会い仲良くなりました。二人には東日本大震災の後に職を失い歌舞伎町で働き始めたという共通点があります。
加奈はもともと東京で働いており震災の被害には遭わなかったのですがそのしばらく後に働いていた事務所の先生が脳梗塞で亡くなってしまい、仕事をやめることになりました。その後縁もあったことから歌舞伎町のバーで働き始めます。
一方茜は震災前は仙台で働いていたが被災にあったことが原因で職を失い、色々な人に被災にあった心配をされるのが嫌になり周りの人間が身元などを気にしない歌舞伎町に逃げてきました。歌舞伎町に来て最初の1月は貯金を切り崩し暮らしていましたが貯金がつきかけたころ茜は仕事を始めようとします。
茜が新しく働こうとした職場はクラブのホステスでした。しかも茜が働こうとしていた場所は<かまんベイベ>という名前のオカマのショーパブでした。東日本大震災の被災者を受け入れようとするチラシを見たり、実際にそこで働いている被災者を見たことで<かまんベイベ>で働きたいと思ったみたいなのですが、面接に行ってみると案の定男性でなければいけないと言われてしまいます。しかし、被災者であるという事情を話すとオーナーは系列店の<クラブ・ミューズ>というお店を紹介してくれました。
茜が<クラブ・ミューズ>で働き始めて約7年がたったころ、茜は実家に一度戻ると言っていらい「市彩」に顔をださなくなって三か月がたちます。加奈をはじめとした店の常連が茜を心配しているなか、加奈は<かまんベイベ>に当時茜が憧れていた被災者の人ならば何か知っているかもしれないと思い、<かまんベイベ>に行き被災者をさがすことを決めます。
もしかしたらもう店で働いていないかもしれないという不安もあったのですが店を訪れてみるとその被災者である閖上ユリィはまだ働いていました。ユリィと話そうと一万円札をだしユリィのブラの間に札を挟んだタイミングで加奈を呼ぶ声がした。
振り返るとそこには茜がおり隣には茜と男性がいた。その男性は茜の兄で閖上ユリィの友人だった。
その後「市彩」に戻り茜に事情を聞くと最初は被災にあった父の葬儀を行うために帰っていたらしい。しかし、いざ帰ってみると兄がギャンブルにおぼれていてその借金の処理などに時間がかかっていたようだ。また今日はそんな兄を見て立ち直らせるために歌舞伎町に遊びに誘ったようだ。
朝になり茜探しに協力してくれたホストの佐藤と茜と加奈の三人でイタリアンレストラン(サイゼリヤ)へと出かけていく。
初心者歓迎、経験いっさい不問の感想
歌舞伎町などの夜の街で働く人間を中心とした話でしたが、この物語を読むと夜の街で働く人間の多くに信念がありもうバカにできないですね。今まで夜の街では働きたくないなんて考えていた自分が少し情けないような気がする…。
茜の兄が<かまんベイベ>で高校のときの同級生と再会したおかげで立ち直ることができそうですね。兄は母のこともあるだろうし歌舞伎町で働くということはないだろうがこれからギャンブルをやめて働くことができそうで安心しました。
それにしても茜のような周りの人間に好かれる人は憧れますね。茜が心配で多くの人が茜を探すのに協力してくれましたがここまで人望があるのが羨ましいです。
歌舞伎町のような終電が出てしまった後もにぎわう街には本当に神様がいるような気がしますね。
終電の女王のあらすじ
この物語の主人公は会田和也です。和也は博士課程を卒業してそれから数年はオーバードクターとして大学に残ったが結果が残せず最終的に民間のソフトウェア開発を行っている会社に就職した。
そんな彼のもとに夜中1時過ぎに突然電話がかかってきた。電話の相手は元カノの麻里だった。麻里から和也に電話をかけてくるのは4年ぶりのことだった。電話の内容は飲み会帰りの終電で寝過ごしてしまったということだった。
当時付き合っていた時も麻里が終電で寝過ごしてしまうことがあったようで、和也は電話を受けて付き合っていたころならどんなことよりも優先して麻里を車で迎えにいっていたことを思い出す。
今の和也は麻里の彼氏ではないので迎えにいく義理はない。しかし、電話で話している途中麻里からの電話が突然切れてしまい和也はその原因が麻里の携帯の電池が切れたということに気が付いた。
迎えに行くか悩んだあげく学生時代から乗り続けている車のキーをつかんで家をでる。麻里がいる駅までは車で1時間ほどの距離だ。
車を走らせ始めた和也はだんだんもしかしたら麻里が人気のない駅で男に襲われているのではないのかと考え始め和也の足に力が入る。
いざ駅に到着するとそこに麻里の姿はいなかった。麻里の名前を読んでも誰からの返事も帰ってこない。
あわててきたことでひどく喉の乾いていた和也はあらかじめ電池で麻里から駅に自動販売機があることを聞いていたのでその自動販売機で飲み物を買うことにした。飲み物を買うと自動販売機から音が聞こえてきた。その自動販売機はあたりがついているらしい。飲み物を受け取り口から取り出そうとするとそこには和也のお茶ともう一本買った覚えのない暖かいコーヒーが入っている。
そのコーヒーを取り出した和也は麻里もここで飲み物を買ったのではないのかという考えにいたる。麻里はおそらく飲み物をがあたったことに気が付かなかったのだろう。自動販売機に残された飲み物のおかげで和也は冷静になることができた。
和也は麻里の前向きな性格からして自分の家の最寄り駅に走って帰ろうとしたのではないのかという考えにいたる。そこで和也は国道沿いに車を走らせ麻里を探すことにした。
車を走らせてしばらくするとカバンを背負って走っている女性を見つけた。和也はクラクションをならし麻里と声をかける。
麻里は和也の登場に驚きそして感謝の言葉を述べる。その後麻里を乗せて車を走らせ始めた和也は彼女にどこまで送ればよいかたずねた。すると麻里は「大きなお風呂があるところがいい」と返す。それを聞いて和也は新宿のホテル街に入っていく。
ホテルの部屋にはいった和也は麻里を抱きしめた。和也は麻里を迎えに行ったおかげで二人の関係が昔のように戻ったような気がした。
終電の女王の感想
とりあえず読み終わって思ったのは和也が麻里のことが本当に好きなんだなということです。
普通4年ぶりに電話をかけてきた彼女が心配だからって車で片道一時間かけて迎えに行こうなんて思いませんよね。また迎えに行っている道中も麻里が心配で冷静さを失っていくのが分かります。
二人が当時なぜ別れたのかは明確には描かれていませんが、お互い自分のことで精いっぱいになってしまい二人の時間がとれなくなって別れてしまったのだろう。
二人は今回の事をきっかけに昔の関係に戻ることができそうですね。
夜の家族のあらすじ
この物語はデリヘルのドライバーをしている沢木健太がデリヘル嬢のマリアを迎えにきた場面からはじまる。
ホテルからでてきたマリアはまた客に説教されたとご機嫌ななめだった。マリアは大学生だが家庭の事情で学費が払えなくなり、奨学金も父親に無断で借りられていて学費を払うためにしかたなくこの仕事をしている。
マリアたちが稼いだお金から給料をもらっている健太の仕事は送迎だけではなく彼女たちのメンタルケアもある。もし彼女たちが愚痴を言えば彼女たちが喜ぶような返事をしたりする。マリアは客から人気なので健太は彼女がやめないように愚痴を聞く。
しばらく休憩した後マリアを次の仕事場に送る、次の仕事は一見の客だ。普段マリアは嫌な仕事でも一見の客より知っている客がいいということで自分で予約を取ってくるのだがその日は運が悪く予約がキャンセルされ一見の客が入ってしまった。
初めての客に不安を覚えるマリアに健太は盗聴器をマリアのカバンに入れているからもし何かあったと分かればすぐ助けに入ると声をかける。
健太が頑張ってと声をかけた後マリアはホテルに入っていった。彼女たちがホテルに入ったあと安全か確認するのも健太の仕事だ。健太は盗聴器のレシーバーのイヤホンを耳に入れてマリアの様子を探る。
部屋に入ったマリアの様子はいつもと違っていた。盗聴を続けると客の正体がマリアの父だと分かった。マリアは父親と言い争いを続けている。
マリアがホテルに入り45分が過ぎたころ健太がホテルに入ろうか悩んでいるときマリアが泣きながらでてきた。ホテルからでてきたマリアが腕の中に飛び込んできたので健太は安心させるためにマリアを抱きしめた。
しばらくして車にもどるとマリアは今日は父からとってきたお金でぱあっと遊びたいという。健太はマリアをバッティングセンターに連れて行った。
バッティングセンターにきたマリアはとても楽しそうだった。一ゲームぶんの26球を打ち終えた後マリアは健太に感謝の気持ちを伝える。その後健太はマリアと朝のビールをファミレスで飲んだ。
その日の夕方、健太は新宿駅南口近くのデパートにいた。今日は一年に一度母とうなぎを食べる恒例行事の日だ。離婚して元に戻った母の苗字である八神で予約していると伝えて店に入っていく。
母は離婚した健太をいつまでも離婚の被害者扱いするので健太は仕事のことをいうとまた母のめんどくさい会話が始まると思いその話をしなかった。
店を出てエレベーターで別れるとき母は「女の子を泣かせちゃだめよ」と言いながら手を振って去っていく。
それを聞いた健太は仕事のことを話そうと母の降りた階は分からないが追いかけ始める。
夜の家族の感想
最後のまさかのオチに驚かされてしまいました。健太の母は「始発のアフターファイブ」で登場した八神さんだったんですね。まさか同じレストランでアフターファイブを楽しんでいたとは。
最後の八神さんの「女の子を泣かせちゃだめよ」というセリフは健太が泣いているマリアを抱きしめているのを見ての発言だったんでしょうね。それに気がついた健太が母を追いかける場面で物語は終わります。健太と母の距離はこれがきっかけで少しだけ埋まりそうですね。
それにしてもマリアの父親はとんでもない奴ですね。金がなくて夜逃げのように家を出ていったくせにデリヘルに行くとは相当な屑ですね。これにマリアが怒る理由はもっともです。
物語には関係ないですが実際に父親などが夜の仕事をしている場所に来るっていうトラブルはあるんですかね?実際にあったら娘側も父側も正気でいられなさそう…。
最後に
『終電の神様 始発のアフターファイブ』とても面白かったです。どの物語も同じ日に起きており直接は関係ないがちょっとだけ繋がっているのがいいですよね。
ところで皆さんはどの話が一番好きですか?
私はスタンド・バイ・ミーがお気に入りです。ワタナベさんとロコの音楽だけで繋がっているという関係がたまらなく好きです。
もしこの記事を読んで本作を読んでいない人はぜひ読んでください。簡単なあらすじは本記事でも書きましたが原作を読むと何倍も面白く感じると思います。
終電の神様また書下ろしで続編だしてくれないかな。
本記事を読んでくださった方には以下の記事もお勧めです。